7話 Us Tube

 社長からの依頼を受け、水瀬水洗の公式Us Tubeを任された厚地。昼休憩時、編集の甘栗とこれからどうするかの相談をしていた。

 厚地がUs Tubeアプリをスマホで開き、とあるマークを指差して甘栗に見せる。


「やはり、有名になるという目的ならばUs Tubeショートが一番でしょう」


 Us Tubeショートとは一分未満の動画を纏めた機能で、スライド一つで次のランダムな動画に変わる。知らないチャンネルの動画を開くのは少し敷居が高いが、スライド一つで勝手に出てくると敷居は無く、見易い。知名度を上げるのには向いていると言える。


「その方向で行くとして、最初の動画はどうします?先輩の意見を聞かせてください」


 ここでどんな内容の動画を出すのかという話題になった。


「最初は無難な製造過程とかで良いんじゃないですか?」

「逃げるんですか?公式が病気の面白い動画を撮らなきゃいけなくなったハードルにびびってるんですか?」

「では、甘栗さんはどんな動画が良いと思うんですか?案を出してくださいよ」

「やっぱり先輩といったらダンジョンじゃないですか!ダンジョンに関連付けた何かにしましょうよ」

「そうですねぇ」


 意見を一つ一つ噛み締める様子の厚地と思い付いたら何も考えずに提案する甘栗の構図になっていた。


「そもそも、なんでうちは仮設トイレしか造らないんですかね。まだトイレ全般なら、一般家庭でも「あー見たことあるロゴだー!」くらいにはなると思うんですけど」

「仮設トイレに馴染みがあるのは建設業者かダンジョン探索者くらいでしょう」

「先輩、目隠しして利き便器でもしますか?「この便器はこの型だー」みたいな」

「そもそも当てられませんし、絵面が目隠しして便器スリスリしてるお兄さんなの変態でしかないですね」


 ああでもないこうでもないとUs Tubeの企画内容を考えてるとは思えないような意見を言い合うこと数十分。


「有名アスチューバーとの案件などもしにくいですしね」

「案件をした次の日にはダンジョンから仮設トイレが消えるでしょうね」

「まっさかー!重いですし大丈夫ですよ」

「探索者のパワーはゾウの三倍はあると言われています」

「大きいし、目立ちます!」

「俺みたいなスキルを持っていたら?」

「」



「…甘栗さん、ありがとうございます。なんとなく方向性が決まりました。では、カメラを買ってくるので、Us TubeとYのアカウント作っといてください。アイコンは水瀬の企業ロゴで良いと思います」


 厚地が椅子から腰を上げ、鞄を手に取る。甘栗も合わせて席を立つ。


「先輩、一緒に行きませんか?」

「デートですか?カメラなんて二人で見るものでも無いでしょう。一人で行ってきます」

「…そうですか、行ってらっしゃい」



 厚地が外に出てしばらくして。


「甲先輩、スライム風呂に入ったら余計な脂肪食べてくれませんかね」

「ダイエットか!?絶対やるなよ!多分脂肪の前に身体が無くなるぞ!」



 厚地が帰った。


「速かったですね」

「そこにADIONがありますからね。バッチリ経費で五つのカメラを買ってきました」

「多くないですか?」

「ダンジョンカメラ三台。手持ち用のムービーカメラとそのスペアです」


 厚地がスキルから箱を取り出し、デスクに並べながら答える。


「三台も要ります?」

「同時に三視点から撮ることによって編集の幅が広がるでしょう」

「ならダンジョンカメラだけで良いじゃないですか。手持ちのやつは無駄ですよね」


 甘栗は厚地に一度口論で勝ってみたいという気持ちから、少し真剣な顔になっていた。


「ダンジョン外で動画を撮ることもあるでしょう」

「えっ!ダンジョンカメラって外で使えないんですか?」

「ダンジョンカメラは頑丈で、どんなに速いスピードでもピントを捉える、浮く、自動追尾、半永久的に続くバッテリー容量という特徴があります。これを実現させるために必要なのがダンジョンの素材という材質とダンジョンという環境なのです。分かりましたか?Do you understand?」

「あ、あいむあんだすたん」


 厚地はトイレに入っていった甲のデスクに領収書を置き、「手持ちカメラを充電するために帰ります」と言い残し帰った。



「厚地君、今日は休みだったよな」

「はい、課長。製造工程だけ撮っておこうと思いまして」

「サブロクは守れよ。うるさく言われるのは上なんだから」

「承知しました」


 厚地が訪れたのは職場もの小説のはずなのに、七話にしてようやく登場の作業場である。壁や床、機械は水瀬水洗のイメージカラーの淡い青色で統一されている。

 厚地は充電MAXのビデオカメラで、トラックによって材料が運ばれてくるところから、完成までの工程をSDカードに記録した。


「このままの状態ではどんなに味が濃い調味料編集でも薄味になるでしょう。そう…、例えは思い付かないですが」


 厚地はRINEを開き、甘栗にメッセージを送信する。


「ブルーバックの合成ってやったことあります?っと」


 しばらくして甘栗から「無いですが!?」返ってきた。

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趣味:階段、仕事:仮説トイレの設置、ユニークスキル:ダンジョン移動 ぉぉぉぉぉぉゃ @yaiyueyo

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