学級文庫、なつかしい響きだ。
新任教師のさいしょの仕事で学級文庫を作った先生と寡黙な生徒のお話である。
自然でいて流れるようにストーリーが紡がれている。筆者は高校生だというが、大人でもこのように気取らない文体で書けるひとは少ない。正直羨ましいと思う。
先生と生徒の心の触れあいを学級文庫という身近な題材で描きだしたところは、とてもいい。
先生の生徒との距離感を間違えてしまうところも、リアリティがある。生徒の凛がどうしてこんなに本に向き合うのかは読んでみてもらいたいが、ひとつヒントを与えるなら、それは空想のなかのとある知っている人との対話なのだ。その彼との対話が見えなかった真実を描き出したとき、ハッとした。
文体が優しく、するすると流れていくようでいて、グリッサンドという耳慣れない言葉を出すことで、本だけだった世界から音や雰囲気、色彩が溢れ出てくる場面が印象的だ。
この作品は本というものが実は一人孤独な世界ではなく、自由で広がりを持った誰かとつながれる世界であることを教えてくれる、そんな優しいお話だと感じた。