第8話 復讐

 私の復讐とはただ一つ。私を処刑した者の処刑だ。

 相手はただの私怨で私を殺した。なそんな人間こそ立派な犯罪者ではないか。

 ならば私も私怨で殺す。


 相手の名前はライアン・フォスター。この監獄島で看守の一人を務めていた男。

 私を恨んだ理由は恐らく家族の処刑。

 何百と処刑を果たしてきた私は、流石に一人一人の名前や特徴など覚えてはいないが、監獄島のルールに則ったばかりに、ライアンの妻と息子を処刑した際に酷く恨まれた記憶は鮮明にある。


 私の処刑理由を作ったとはいえ、表向きには正当な理由で処刑を果たしたライアンが最後に言った言葉。

 “お前のせいで俺の人生は狂ったのだ”。

 とは、そういうことなのだろう。


 そうして私は処刑され、後に死神によって生き返させられた。

 そのまま本当に死んでいれば、こんな復讐を果たすことなどあり得なかっただろう。

 どんな理由であれ、恨みは必ず帰ってくる。その返しは、運悪くもライアンの死なのだ。


 さらに、私はライアンのことを実は恨んでいない。

 だが死神によって生き返り、さらにマタル監獄島が近くにあったという要因は、私の殺された記憶が蘇る。


 ならば私に復讐する権利はあるはずだ。


 私はライアンとは特別に仲が良かった訳では無いが、同僚として行きつけの酒場くらいは知っている。

 その酒場のドアを開けば、酔い潰れたライアンがいた。


「エヴァ、イーサン……仇は取ったぞぉ。畜生ぉ……」


「いらっしゃい。って……嘘だろ。なんでお前が此処に……」


 店主は私を見て心底驚いた表情を見せる。それはそうだ。公開処刑で殺されたはずの男が生きているのだから。


「こいつを連れていく。金は払おう。いいな?」


「っ……あぁ。銀貨四枚だ」


「それは、相当飲んでいるようだな? 酔い潰れているのも納得だ」


 監獄島で暮らす者に金と縁はないのが普通だが、あくまでも永遠と更生させられる場所である以上に、労働環境がある。

 監獄島の執行人や看守はそもそも犯罪者扱いでは無いため例外だが。

 島である程度の普通の生活を体験するために、最低限の通貨は用意されている。


 それも日給は銅貨十枚以下という、どの国の最低賃金さえも下回る給料で、ただ故に酒場で売られる安酒の値段は、銅貨二、三枚で買えるのだ。


 だからライアンが飲んだ銀貨四枚分の酒とは、恐らく私が此処に来るまでの間に、店にツケにツケまくっていた値段だろう。


「あんた、そいつをどうするんだい?」


「言わなくとも分かるだろう」


「そりゃあ、そうかぁ……。

 俺ぁ、あんたのことは悪く思ってねえ。あのことは島のみんなも看守がやべえ人間だったことは分かりきっている。


 なんであんたが今生きてんのかは全く分からねえが……、もうこの島の人間じゃあねぇんだろ?

 なんなら島から帰る時に、せん別くらいやるよ。桟橋んとこに置いといてやる」


「分かった」


 俺はこの島で、島の人間に贈り物をされる義理は無い筈だが、無償でくれるならありがたくもらっておこう。

 さて、ならば私はこの島での最後の仕事に取り掛かろう。


 なにも公開処刑である必要はない。私怨で殺されたのだから、形式は違くとも、全く同じ方法で殺してやろう。


 私は酔い潰れたライアンを人気の少ない古びたベンチに座らせると、近くの海水をバケツで汲み上げ、叩き起こすつもりで水を被せる。


「あぁ〜……うわぁあぁっ!!? な、なんだぁ? ってアレ……お前なんで生きていやがる……」


「久しぶりだなライアン。何故俺が生き返ったのかは、教えても理解は出来ないだろう。

 ただ死ぬ前に教えてはやろう。

 俺は、死神によって生き返された」


「はぁ? 死神ぃ? 馬鹿じゃねぇの? お前は……あの後……確かに、遺体を焼却して……? ひ、ひぃいいい!


 まさか俺を殺しに!? や、やめ」


「動くな。少しの間激痛を感じるだけだ」


 私はベンチから立ちあがろうとするライアンの肩を掴み止めれば、ライアンの腰のホルダーに入ったナイフを抜き取り、ライアンを刺す。


「死ね」


「ぐああああああっ!! あがっ!?」


 何度も、何度も、何度も、殺された恨みを込めて、十回以上刺す。

 既に一回目で白目を剥いていたが、最後に首を掻き切ることで終わらせる。


「呆気なかったな」


 私は証拠隠滅のために、桟橋から少し離れた場所から、死体を海に投げ捨てた。大量の血が海面を赤く染める中で、私は帰りの桟橋へと向かった。


 桟橋にはアルクが酒瓶の入った箱の上に座り、私の帰りに気がつけば、こちらに手を振る。


「おかえり」


「終わらせてきた。船を出してくれ。そこの酒瓶は近くの酒場の店主からのせん別だ。それも船に乗せるぞ」


「知ってる。さっきおっさんが重そうな箱を持ってきてくれたよ」


「そうだったか」


 私はアルクと一緒にボートに酒の入った箱を乗せて、乗り込む。

 箱には瓶が二十本程入っているのが見え、安酒だが休憩にはいいだろう。


 そうしてアルクにボートを漕いでもらって三十分程で街の港に到着する。

 しかしそこには物々しい雰囲気が漂っていた。

 街の憲兵が絶対に犯人を逃さまいと隙間のない包囲網を形成していた。


 今までお前たちは何をしていたのだろう。何がきっかけで私が犯人だと分かったのだろうと、私は思考を巡らせながらボートから降り、包囲の前に立つ。


 そこからは一瞬の出来事だった。包囲を作ったであろう隊長らしき憲兵が、大声で「確保ー!」と叫べば、何十人という憲兵に押し潰されるように囲まれ、私は一撃で気を失う力で殴られた。


◆◇◆◇◆◇


 それから目を覚ますと、当然か。足枷と手枷も付けられた状態で投獄されていた。


 今回は前回よりもっともな理由で捕まっている。運良く脱獄は難しいだろう。


執行:4

残機:4

《残り 7》

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執行者と死神の旅路 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs

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