第7話 監獄島
「何事だぁ!!」
錆びたレイピアを治してもらうために、武器屋に向かう途中、通路で三人の男に高額の通行料を求められた挙句、殴られたので反撃した。
結果、逆に金貨三十枚の金を手に入れたが、直後に街の憲兵に発見された。
さらに、面倒なことに憲兵の隣には、別れた冒険者メンバーのアルクもいた。
通報者はアルクなのだろう。
「アルクではないか」
「おいそこのお前! この有様はなんだ!!」
「見たら分かるだろう。正当防衛だ。金は払えないと言ったら殴られてな」
「は? なんだと? こいつぁ……ただの路地裏に屯するチンピラじゃないか!
まぁ、金の要求に暴行。悪い奴らに変わりはないな。よし、連行する! ご協力感謝する! それでは!」
憲兵はそのまま三人の男を引きずるように去っていった。
どうやら不法侵入者とかの問題は、情報が曖昧すぎるせいか、そこまで行き渡ってはいないようだ。
そして一人残るアルク。
「まさかまた会うとはな。どうした? 行かないのか?」
「あー、えっとそうだな。これを機にお前に聞きたいことがある。
あんたの変わった服装といい、魔物や悪い奴らへの対応だったり、申し訳ないがギルドの受付に聞いたんだ。
あんたが監獄島出身だってことを。まさかそこってさ……マタル監獄島じゃないよな?」
私は耳を疑った。マタル監獄島は私が元いた世界だ。以前から処刑島や悪い噂が絶えない島だの、特徴まで同じという点が不思議だと思っていたが、まさか島の名前まで同じとは。
「あぁ、確かにそうだ。だが……、それは私が知っている島なのだろうか」
同じ名前、同じ特徴、同じ通称。ここまでの偶然は最早、仕組まれていると言っても過言では無いが、出来るなら確かめたい。
死神よ、私がいるのは本当に別世界なのかと。
私は別に出身が監獄島ではないからして、外に出たことが無いわけでは無い。
だが私は今いるこの街の名前を知らないし、聞いたこともないから実質別の世界なのだろう。
しかし、考えうる可能性として、私がいた監獄島は、別世界から孤立していたのでは無いだろうか。
まるでファンタジーな考え方だが、私の知識の違いからそう考えるしか無い。
死神が本当にここが別世界というならばという話だ。
「どういうことだ? 二つも同じ名前の島なんて無いと思うが……。それに監獄島は悪い意味で有名だ。
それなら実際に行ってみる? ここからなら港から公式な船は無いけど、簡単にボートで行くことが出来る」
「またお前らと一緒に行動を……」
「いや、僕だけでいいだろ。なんかあんたはグレイとイスカと行動することを心底嫌がってたけど、正直僕もグレイに従っていただけなところはあるんだ」
なに? まさか例の三人は仲のいい冒険者では無かったというのか。
正義感に溢れるのはグレイだけだったというわけか。
「ほう。つまり、基本物静かだったお前は、今の姿が本当という訳か」
「まぁ、そういうことかな。性格自体はこの前と同じだけど」
「そういうことなら……横から口出ししなければ良いかもしれんな。案内を頼めるか?」
私が此処にいるのは武器を治して欲しいということだったが、それよりもマタル島の真相が気になった。
「うん、分かった」
これでは何故、アルクはグレイと一緒に行動しているのか逆に謎だ。
ただ、相性が良いだけということだろうか。
◆◇◆◇◆◇
街の港。街から見える海は水平線が見えるほどに広く、対岸らしき島の影すら見えない。
ここから船ではなく、ボートで行くのだろうか。公式だろう巨大な船が桟橋に停泊している側から、港の端っこにこじんまりと、何故あるのかさえ分からない、木のボートが鉄杭にロープが引っかかって泊まっているのが見えた。
「あれに乗るぞ」
「大分目立たないように泊まっているんだな」
「そりゃあ、あのボートで流す役割もあるからな」
「ほぉ」
流すとは。監獄島に島流しするという意味だろう。まさか名前だけでなく、機能もしっかりとあるようだ。
ただ、私の知る監獄島は誰もが個人的に行ける島では無いのだがな。
そう言って私はアルクの言うボートに二人で乗り込めば、オールはアルクが漕ぎ始めた。
あくまでも公式では無いため、知らない人間が勝手にボートに乗れば、普通に遭難とか良くあるという。
それならば、アルクは個人的な理由で監獄島に行ったことがあるというわけか。
そうして漕ぎ始め、街から少し離れた海の途中で私は、さらに私の知る監獄島に関することで確信を得るために一つの質問をした。
「そういえばアルク。監獄島で最も最近にあった悪い話はあるか?」
「ん? 急にどうした?」
「いや、一つ確かめたくてな」
「そうか。そうだな。まぁ、強いて言うならば、“どこかの国の親善大使が間違って処刑され、国際問題になった”という話かな。
監獄島はどこの国の物じゃないから、国際問題というにはおかしな話なんだけど、それはそれで話題になったよ」
私は静かに目を見開く。
私が体験したことが同じであると。だからここで確信する。
アルクの言う監獄島は、私がずっと元いた世界と言っていた島そのものだと。
「ほぉ、そうか。あぁ、良く分かった」
「それはなによりだ。さて、そろそろ到着するぞ。あの僕の後ろに見える霧の中だ。ここが良く遭難者が多く出るんだ。
何故か霧の中に入ると突然に方向感覚が無くなって、ほらみてよ。コンパスも狂う」
真っ白な一寸先も見えない濃霧の中にボートが侵入した時点で、アルクがふと服のポケットからコンパスを取り出せば、針が激しく回転するだけで機能を完全に失っていた。
その状態を見て、アルクは苦笑しながら話を続ける。
「変な話、まるで別世界への入り口とか言われててさ、分かる人なら無事に監獄島に辿り着けるんだけど……。
それを知らない脱獄者は、いくら真っ直ぐ海を泳いでも島に戻ってきたり、わざわざ頑張って作ったいかだで島を出れば、そのまま遭難して底に沈むっていう。
正に地獄への入り口と言っても良いだろうな」
「地獄か。まぁ確かにそうだ。
アルクは島について詳しいようだが、なんどか行ったことがあるのか?」
「んー、それって答える必要ある?」
どうやらあまり話したくはないようだ。まぁ、地獄と言われて納得できてしまう場所だ。
流石に遊びや観光目的であの島来る奴はいない。あの島に行く事情があるのは分かることだ。
「いや、答えたくなければ別にいい」
「ならやめておこう」
そう話しているとついに急に真っ白な霧から、真っ黒な影しか見えないほどに黒い、島が現れる。
木は枯れ緑はなく、島周囲の水は腐り用水路は機能せず、島の古びた桟橋にボートを泊めて島の地に上がれば、酷い腐敗臭が漂ってくる。
「さて、到着だ。僕はここで待ってるよ。あんまりうろちょろすると土地勘のある僕でも危険だから。
あんたは此処に来る理由があるんだろ? 懐かしむなり、観光するなり、自由にしたら良いんじゃ無い?」
「あぁ、そうしよう。ここは私の知る監獄島だ。とても記憶が鮮明に蘇ってくる。
島に上がったところでやりたいことを思いついた。すぐに終わらせてくる」
「じゃ、またあとでね」
私のやりたいこととは、ただ一つ。
復讐だ。
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