第6話 観光

 『よう相棒、手伝いは順調か?』


 突如頭の中で響く声、この声は死神か? 相棒になった覚えは無いが。


『冷たいこと言うなよぉ〜。お前の行動は今後の俺様の成績に響く。運命共同体ってやつだろ?』


 完全な人任せじゃないか。

 それよりも、何故今私に連絡してきた?


『相棒のことが心配だからに決まってんだろぉ? どれどれ? っておいおい! お前まだ二匹しか殺してねえじゃねぇか、何してんだよ!』


 あぁ、そのことか。丁度良い。お前に聞きたかったんだ。お前の言う犯罪者とは具体的にどんな物なんだ。

 ペナルティーを出来る限り回避しようと思っていたんだが……。


『んだよ。そんなことで躓いてたのか。ならば死神から一つだけ助言してやろう。

 “人に害なす物は全て殺せ”。

 俺様は動物は専門外だ。俺様、死神の仕事は人の魂を送ること。動物の魂は動物専門の神がやるから……襲ってくる動物は殺して問題なし。化け物も同じだな』


 なんだ。そんな簡単だったのか。それを早く言ってくれれば……。


『いやぁ〜、元死刑執行者がそんなことに悩むとは思わなんだ。

 まさか殺すべきかどうか、妙な正義感に悩ませられていたら、流石に呆れていたが……。

 そもそも犯罪者であるかどうかはお前にも分からないとはな』


 私はお前とは違うんだ。誰彼構わず無差別に殺す殺人鬼でもない。

 執行者の頃でも、報告を受けてやっていた。自ら進んで自己判断で殺していた訳ではない。


『んなことわーってるよ。あーそれと……犯罪者でもなくとも、コイツは生きる価値無しっていう、クズも殺ってもいい。

 それこそまさにお前の裁量ってやつよ。


 俺様にゃあ人間の考えなんて知らんが……そういう奴は真っ先に殺せば、問題も事前に積み取れるってもんだからな』


 分かった。ならこれからは善処しよう。私も殺すこと自体に躊躇いは無いからな。


『それもそれでどうかと思うが……まぁいい。月末の結果を楽しみにしてるぜ? それじゃ!』


 頭の中の声は聞こえなくなった。ならばこれからやる行動は決まっている。

 私は魔物図鑑を閉じ、本棚にしまうとすぐさま行動を開始する。街の下水道へ。


◆◇◆◇◆◇


 また、ここに戻ってきてしまった。この匂いは慣れた物だが……目の前で起きている光景に、こうやって下水ネズミは生まれたのかと。それを見てしまった。


 それは私が以前殺した化け物に成り果てた恐らく人間。

 死体が腐り、蠅が飛んでいる所に情報通り、巨体の二、三匹のネズミが群がり、死体を喰らっていた。


「チ、チュー」


「殺すか」


 “人に害なす物は全て殺せ”。死神の言うことに従うならば、このネズミは死体よりも生身の人間を好む。

 被害が出る前に殺すのが今回の依頼の理由なのだろう。

 私は腰に携える鞘からレイピアを引き抜き、死体を喰らうネズミに向かって突進する。


「ヂッ!?」


「死ね」


 私はまず一匹の背中から心臓の位置に当たりを付けひと突き。ネズミは白目を剥いてその場で倒れる。


 次に私の動きに気がついた残りに二匹のネズミはこちらに飛び交ってきたので、寸前でバックステップで回避直後に、手前の一匹の脳天を一刀両断。


「意外に柔らかいな……」


 最後のネズミを横目に、飛びかかってくる前に横蹴りで吹き飛ばし、すぐさま心臓を貫く。


「よし」


 これで下水駆除は終わった。まだ奥にいるかも知れないが……。依頼には奥までの探索は書かれていなかった。

 追加報酬があれば良いかも知れないが、とりあえず基本報酬がいくらなのかは調べておこう。


執行:3

残機:3

《残り 7》


 ……? ネズミは三匹殺したはずだが。やはり条件があるのだろうか?

 それと……少しレイピアが錆びて来たな。直してくれる店とかあるのだろうか? 報酬を貰ってから少し街を歩いてみようか。


 私はギルドに戻ると、下水ネズミの討伐報酬を貰った。


「報酬は銀貨二枚になります!」


 あれほどの巨体ネズミを倒して報酬はこれほどか。私は特に問題はなかったが、例えるなら例の冒険者ほどの力がなくては討伐が難しいだろう。

 身体の丈夫さは装備のない人間と然程変わらなかったが、巨体故に浅い斬り込みでは無理だ。


 ならばこの報酬は妥当か。一般市民でも複数人ではあれば、倒せなくはない難易度だと考えればだが。


 そう私は無言でギルドを出ようとする所で、受付の女であるフラウに止められた。


「アレックスさん。呼び止めてすみません。依頼のことなんですが、次からはあちらに張り出されている掲示板をご覧くださいね」


 フラウが指差す方向に視線を移せば、そこには多くの紙が張り出される掲示板があった。

 掲示板には難易度関係なく、ある物だけ貼られており、割合的に討伐依頼は多くあった。


「分かった」


 そういうことで私は改めてギルドを出る。建物を出れば最初に向かうのは大通りを適当に歩き、噴水のある恐らく街の広場に出る。

 そこで私は街の案内地図を発見し、街の全体図を把握する。


「武器屋は……ここか」


 私が見つけた武器屋は大通りから外れた路地裏の奥にあり、何故こんな目立たない場所に建てられているのかと疑問を持ちながら、地図に書かれている地点へと向かった。


 そうして地図にあった通りの路地裏への入り口を見つけ中へ入れば、すぐに三人の男に道を塞がれるように呼び止められた。


「はぁいお兄さん。これから何処に行くつもりなのかなぁ?

 この先には何にもないぜぇ?」


「……ん? 地図にはこの先に武器屋があったはずだが」


 そう答えると何故か男は表情を変える。


「何だと? 地図……? ったく。何なら話は別だ。この先を通りたいんなら金を払え。通行料だ。金貨五枚だ」


 何と言うことだ。私の今の所持金では到底払えないではないか。

 私の今の所持金は、銀貨二十六枚と銅貨十五枚……。

 全財産を払っても全く足りん。


「財布の中を見てどうした? 払えねえのか? でも逃さねえぜ?」


「なに? 諦めるという選択肢は無いのか? 私の身包みを剥いでも金貨五枚には届かんぞ?」


「金の話じゃねぇ。この先にある武器屋の話だ。なぁんで地図に乗っているのか知らねえが、あったとしても分かるだろうが。

 どうしてこんな場所の奥に武器屋があるってなぁ?

 路地裏には無闇に入らないって教わらなかったかぁ?」


 そんなに場所を隠したかったのか。だが生憎私はまだこの街のことを。名前すら知らない。


「すまないな。今日この街に来たばかりなのだ。路地裏のことも知らなかった。どうかここは見逃してくれないだろうか?」


「だーかーら、逃さねえって言ってんだろが!!」


「……ッ!?」


 私は腹を勢いよく蹴り付けられた。こいつらはただ秘密がバレるのを防ぎたいだけに、クズではない。

 だが……黙ってやられる私ではない。殺さなければ良いだろう。


 腹を蹴られることで一瞬態勢を崩すが、次の右側に立っていた男の拳による追撃を寸前に横へ回避すれば、そのまま顔面を鷲掴みして壁に叩きつける。


 次に私の反撃についにキレた、私に話しかけていた男は、身体に組みつこうとするが、腰に携えるレイピアの鞘を水平に背中から突き出すように動かせば、つっかえ棒の役割を作り、男みぞおちに直撃する。


「ごえぇっ!」


 それからすぐさまレイピアを鞘ごと引き抜き、振り向きざまに男の側頭部を鞘でフルスイングで殴り付け。

 最後に左側に立っていた何故かこちらをみて狼狽えている男の脳天を、レイピアの柄で殴り気絶させる。


「あがあっ!?」


「よし、自業自得だ。お前らの身包みを剥がさせてもらうぞ」


 私は三人の男の服を弄り、金の入った革袋だけを抜き取る。

 どうやら通行料と言って、かなり多くの人間から金をむしり取っていたようだ。

 なんと金貨が三十枚。計六回分の通行料を頂いた。


「何事だぁ!!」


 と、ふうと一息吐いた所で、私はいつの間に通報されていたのか。憲兵に見つかってしまった。

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