第5話 魂狩り

 私は金稼ぎのために冒険者ギルドに登録するが、半ば強引に仲間を引き合わせられ、結果私の調査の邪魔な存在にしかならなかった。

 名はグレイ、アルク、イスカの三人で、唯一の女であるイスカが、これから倒すゴブリンに何らかのトラウマを持ち、他二人はそれを庇護する。


 それならば彼らの中だけでやるのは問題なない。だがそれで私を邪魔するのはやめてほしい。

 このままでは間違った対象を処することになるかもしれない。


 だから私は、“殺さなければいい”という選択をする。

 これはゴブリンに対する慈悲ではない。ただペナルティーを食らいたくないから。という個人的な理由だ。


「やはり私たちは出会うべきでは無かった。お前たちはまだ信用できない。

 そこで黙って見ていろ」


「おい一人で行くな!」


 私はグレイの警告を無視して、ゴブリンの集団に突っ込み、まず一匹目。

 背後から近づき、両腕を瞬時に切断。


「ギ!? ギャアアアッ!」


「ギゲゲェッ!」


 その叫び声に気づいた二匹目はすぐさま私に向かって飛びかかって来た。

 私は右脚と右腕を一刀両断。


「ギィヤアアアアッ!?」


「ギ、ギィッ!?」


 何故殺さないのか? まるでそんな目を私に向けてくる三匹目のゴブリン。

 さて、何故だろうか……? 私は怯えるゴブリンの両足を一振りで切断。


「アアアアァァァッ!!!」


 次々とその場にいるすべてのゴブリンの四肢をどれかを切断することで、戦意を喪失させていく。

 これのおかげで出血多量で死ぬゴブリンもいるだろう。だがその死因はスキルが原因では無いだろう。


「何をしたいんだよあいつ! 早くゴブリンなんて殺してしまえよ! 行くぞアルク! 弱っているゴブリンを殺すんだ!」


 背後の茂みの中からグレイらがついに飛び出して来た。

 私も大概では無いが、報酬だけが目的の野党め。邪魔はさせんぞ。

 私はグレイに当たるスレスレを狙って勢いよくレイピアを振るう。


「近づくな。わざわざ半殺しにしているというのに。何故気づかない? 人の話が聞けないのか?」


「それはお前も同じだろうが!」


「もうイスカを守るだとか。卑劣な生き物だから殺すとか。くだらない文句は必要無い。金がほしいのだろう?

 ならば早く帰ってくれ。報酬は後でギルドを通して私が山分けしておこう」


「お前なぁっ!」


 私はまた大きくため息を吐く。もうここは一旦諦めて彼らと別れてからの方が早いかとふと思った。

 あぁ、それが良い、何故早く思いつかなかったのだ。


「もう駄目だ話にならん。後始末は任せた。もう二度と出会わないことを祈る」


 私は腹いせに足元に怯えるゴブリンの頭部を切断してから、その場を去った。

 全く彼らの考えることが分からない。

 まずはギルドに苦情、そして出来るならもう一度同じ依頼を受けよう。


 私はグレイらと別れ、冒険者ギルドに戻れば、どうしても湧き上がる怒りにカウンターを殴り付けながら言う。


「もう仲間などうんざりだ……! 先程出会ったグレイ達は置いてきた。いずれ捕虜を救助して帰ってくるだろう。

 報酬は全額彼らに渡しておいてくれ」


「え……あ、はい。何かあったんですか? アレックスさん」


「彼らは私の邪魔ばかりする。やはり必要ではなかったのだ。一人で、十分だ……」


「か、畏まりました……」


 受付のフラウの表情からは若干卑恐している物を感じるが、何度拒否しても要らぬ心配をし、仲間と引き合わせた彼女が全般的に悪いだろう。

 私はそれに巻き込まれたにすぎない。


「同じ依頼はあるか?」


「え……あ、はい。申し訳ありません。一度引き受けた依頼を放棄又は、別の方へ流した場合は、同じ依頼を受注させることはできません。

 これはギルドのルールではなく、ギルドの信用問題につながりますので……?」


 まだ怯える目をこちらに向けるので私は一歩引いて、声を落ち着かせる。


「そうか……。なら他の討伐依頼はあるか? どれでもいい」


「えぇっと、そうですね……。アレックスさんに向いた物ですと、街の下水道駆除でしょうか。

 腐敗物がたまり過ぎているのも原因ではありますが、どこから湧いているのかさえもわからない、ネズミの駆除をお願いしたいんです」


「あぁ、あそこか……。一つ質問がある。そのネズミを詳しく知れないだろうか?」


「あぁ、それなら。ここの建物の二階に、小さな読書スペースがありますので、大抵の魔物の詳細は分かりますよ」


 私はふと上を見上げると、二階部分が吹き抜けになっており、建物の入り口近くにある階段から上がれるようになっていた。


「分かった」


 二階読書スペースは一階の酒場の盛り上がりようとは違い、ギルドを利用しているであろう者らが、各々静かに椅子に座りながら本を読んでいる様子が伺えた。

 簡易的な図書スペースのようだ。


 私はは二階に上がると早速目当ての本を見つける。『魔物大図鑑(上)』。

 タイトルを見る限り下巻もあるようだが、既に本の分厚さと重さは、数千ページと軽く五キロは超える物だと感じた。


 これがあれば目標を違えることはないだろう。

 どっしりとした本を適当に開いた机に置けば、文字もまた私がいた世界と同じだったので、すぐに見たい情報が見つかった。


《下水ネズミ》

 平均体長二メートルを超える巨体のネズミ。腐敗臭が常に酷い体臭を放ち、生ゴミから腐ったもの、人肉をも主食とする。

 基本腐ったものを好んで摂取するが、生身の生きた人間は大好物。

 人間を喰らうことは最初は無かったが、腐った死体を喰らったことが始まりと言われている。


 内容からは、人間を食らうことはごく普通の餌を食べる要領と同じく、これを犯罪と呼ぶにはまだ難しい。

 ……これでは全く進まないな。犯罪かどうかを探るのはここまで大変とは。


 私は頭を悩ませる。死神のいう犯罪者とは何を意味にしているのだろうかと。

 そう本を一旦閉じて、思い耽っていると、突如として頭の中に聞き覚えのある声が響いた。


『よう相棒。手伝いは順調か?』

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