第4話 冒険者
私は、これからの自由行動の幅を広げるために、金稼ぎの手段を見つけた。
それは冒険者とかいう職業で、普通の仕事よりも危険を冒す代わりに、多額の報酬が出るとのこと。
また依頼の種類は、討伐、採取、調査が主なで、討伐が比較的に報酬が高い。
ならば私は討伐を選択する。しかし、すぐに受付の女であるフラウに止められてしまう。
討伐依頼は戦闘に慣れた者ならまだしも、冒険者登録したばかりの者がやるべきでは無い。他の冒険者と協力することを、いくら拒否しても強く勧められた。
協力者は、冒険者ギルドの利用機能で、募集できるようだ。
雇用仲介料として銀貨一枚払った。
「ありがとうございます。それでは……アレックスさんの引き受けたい依頼を元に、それに合った冒険者の募集をしておきますね。
協力者がいたらお呼びしますので、酒場の方でお待ちください」
「あぁ、わかった」
全く、下水道の化け物を殺したくらいでは、まだ半人前とでも言うのだろうか?
別にあの件をギルドに報告するつもりは無いが、仲間とは。面倒なことにならなければ良いが。
私は待てと言われた酒場の、空いた適当の椅子に座れば、割と早く三十分ほどで名前を呼ばれた。
「アレックスさーん! 雇ってくれる人見つかりましたよー!」
私は席を立ち上がり、カウンターの所まで行けば、男二人、女一人の三人が待っていた。
全員若く、恐らく三人とも二十歳以下だ。
一人は腰に片手長剣を携えた茶髪で、明るい表情の剣士。
一人は細い体と背中に大弓を背負った金髪で、真顔の弓士。
そして一人は、低身長でありながら身長を超える長い杖を地面に突き立てた、黒髪の女魔道士だった。
私が三人の元に来ると、最初に声を出したのは長剣の男だった。
「よお、あんたが雇い主募集していたアレックスだな。俺はグレイ。よろしくな!」
続いて弓士の男が頷く。
「僕はアルク……」
最後に女魔道士。
「私はイスカだよ! よろしくねぇ」
「あぁ」
そうお互い挨拶を済ませるとフラウは私を送ってくれた。
「それでは、いってらっしゃい!」
私はギルドを出るとすぐにグレイが話しかけてきた。
「そういや引き受けた依頼は……ゴブリン討伐か! アレックス、今日登録したばかりゴブリンは舐めすぎだって。
全く俺らが協力しなかったら一人で死ぬところだったぜ?」
確かにこの世界に来て、まだ多くの化け物がいることは初耳で、倒し方が分からないのは事実。
だがしかし、戦いなんて最初はそんなものではなかろうか。
「ゴブリンはなぁ。人間より知能は低いけど、戦闘における能力が高くて、集団になれば戦術とか仕掛けてくるから厄介なんだよ……」
「グレイは良く、そのゴブリンとやらを知っているんだな?」
ただ単なる純粋な質問のつもりだったが、グレイは私の言葉を聞いて心底不思議そうな表情を浮かべた。
「え、あんたゴブリン知らねえのか……? 今までどうやって生きて来たんだよ。んまぁ……戦闘に縁のない生活していたら出会わないのは不思議でも、ないのか?」
「なにか可笑しなことでも?」
「いや、すまねぇ。しょうがねぇなぁ。なら冒険者の先輩である俺が直々に教えてやる。
ゴブリン討伐に言えることはただひとーつ! 弱いのは事実だが油断はせず、容赦なく殺せ。
放っておいたら人間の娘だろうが見境なく繁殖を始めるからなぁ……」
自慢げに話すグレイに何か気に障ったのか、アルクが止める。
ふとイスカの表情を見れば一瞬だが何らかの恐怖が伝わった。
「おいグレイ。少しは言葉に気をつけろ」
「あ、ごめん……」
なにかこの冒険者らにはゴブリンに対して事情を持っているようだが、私には関係ないことだろう。
さて、そんなことは重要ではない。確かに今の説明を聞けば、ゴブリンは人を襲う。だから殺すべきだとは思うが……。
あくまでも今私がやっていることは“死神”と手伝いであり、それが犯罪者であるかどうかを、人間だけの主観で決めればいつかペナルティーをくらう可能性もある。
もう少しゴブリンの習性などを調べる必要がありそうだ。
「グレイ、ゴブリンは何故、人間までも繁殖対象とする?」
「っ……アレックス! あぁ、ごめん。この話はイスカの前ではやめてくれるか?」
やはり面倒だ。仲間は一度意見が違えば、どんなに順調だった旅路もすぐに足を止めることになる。
私は彼らとはまず根本的な目的が違う。今日は解散としよう。
「そう、か。残念だが今日は解散だ。私はお前たちの事情など知らん。ゴブリンのことは単独で調べさせてもらおう」
「はぁっ!? なんでだよアレックス!俺も何でそんなにゴブリンのことが知りたいか分からねえ。ちょっと意見が違うだけでそれはねぇだろ」
これ以上彼らと話すのは時間の無駄だ。時間はたっぷりあるが、時間を無意味に浪費する私では無い。
「以上、解散だ。私は既に金を払っている。金額分の仕事は明日だ。
若しくは今日中に終わらせるかもしれないが、金を返せとは言わん。なにも問題はないだろう?」
「いいやダメだ。無理矢理でも同行させてもらう。何をそんなに急いでいるのか知らないけど、こっちは依頼の報酬も貰うつもりなんだ。
独り占めには、させねぇぞ?」
「まぁ、いいか」
私はもう解散したという程で、彼らを置いてけぼりに歩き出し、目的地であるゴブリンの巣に到着する。
巣と呼ぶ場所は鬱蒼とした森の中で、小規模の拠点が築かれていた。
私は近くの木影に隠れ観察する。
森の少し開けた場所に焚き火があり、それをゴブリンと呼ばれる、明らかに人では無い化け物が囲んでいた。
そして焚き火のある場所からさらに奥地に目を凝らせば、そこには三人の女が捕まっていた。
あれがゴブリンの生殖器か。ゴブリンはゴブリン同士で繁殖は出来ないのだろうか?
「くっそーゴブリンめ……行くぞアレックス! あの人たちを助けるぞ!」
「……。勝手にしてくれ。まだ考えごとをしている。あまり場を荒らすなよ?」
「……ッ! なんなんだよ! こんな雇い主は初めてだ! 目の前に助けるべき存在がいるのに、何で動かないんだ!!」
あぁ、やっぱり面倒だ。同行させるべきでは無かった。
非常に煩く、物事に集中できない。
「あのゴブリンは、本当に悪い生き物なのか? 人間の娘を生殖器の媒介にしているだけで、それはゴブリンの習性の一つかもしれない。
本当に悪意を持ってやっている行動なのだろうか?」
「もういい。アルク、やるぞ!」
「うん……!」
全く、同行者がいるだけでここまで腹が立ったのは人生で初だろう。
彼らはゴブリンに立ち向かえば、きっと惨殺するに違いない。
勝手にしろとは言ったが、調査できない程にやられるのは困る。
これは仲間を募集させたギルドへの苦情案件だ。
私は大きくため息を吐き、その場から立ち上がり、腰の鞘からレイピアを引き抜き、ゴブリンの巣と相対する。
「仕方がない。殺さなければスキルが誤発することはないだろう」
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