第17話後日談 夜明けの静寂

工作船が拿捕されてから三日が経っていた。

​横須賀軍港の景色は、あの緊急出港の夜とは打って変わり、静かな日常を取り戻していた。「みはま」は、三井造船横須賀造船所の岸壁に静かに係留されている。

​教官はブリッジで、窓越しに穏やかな東京湾を見つめていた。彼の前には、今回の事案に関する最終報告書が置かれている。

​拿捕された工作船:船内からは、高度な盗聴・通信機器の残骸、そして日本国内の防衛関連施設に関する詳細な情報が詰まった暗号化データ媒体が多数発見された。

​乗員:全員が特定国の特殊部隊員であることが確認され、身柄はすでに上層部に引き渡されている。

​横須賀のゴムボート:彼らは工作船が潜航するまでの時間稼ぎと、暗号化データの受け渡しが目的だったと判明した。

​教官が報告書に目を落とすと、瀬戸内がコーヒーを持って入ってきた。

​「教官。作業報告です。船体や装備に大きな損傷はありません。ただ、乗員たちが全員、今回の件で顔つきが変わりました」

​瀬戸内はコーヒーを置き、微かに笑みを浮かべた。

​「あの夜、我々が警備行動発令のもがみに追いつき、工作船を挟撃したことは、大きな抑止力になりました。特に、貴官の『武装工作船』への断定と、超低周波水中通信機への着眼は、事態の早期解決に貢献したと、本部から評価を受けています」

​教官はコーヒーを一口飲み、静かに言った。

​「我々が追うべきは、点滅する光ではなく、その光が指し示す先の危機だ――そう判断したのは、君だ、瀬戸内。あの時、横須賀のゴムボートを追っていたら、本命を逃していた。今回の勝利は、君の冷静な決断によるものだ」

​彼の言葉に、瀬戸内は背筋を伸ばす。

​「しかし、教官。軍港の影に潜んでいた得体の知れない存在は、また必ず現れます」

​教官はうなずき、報告書を閉じた。

​「ああ。日本を取り巻く海は、いつも静かではない。我々は、あの夜明けの静寂を保つために、いつでも全速前進第一種戦闘配備でいられるよう、常に備えねばならない」

​二人の視線は、再び穏やかな横須賀の海に向けられた。

 そして教官共に教室に行って1学期の業務無線日誌をクラスでまとめて居ると防衛大臣と横須賀地方総監が美浜学園に来て防衛大臣が「乗員一同、聞け!

​三日前の緊急出港から、我々が成し遂げた任務の重要性を改めて心に刻む。工作船の拿捕、乗員の拘束、そして船内から発見された機密情報は、我が国が直面する脅威が、もはや「架空の物語」ではないことを証明した。

​勝利の本質

​今回の事案において、我々は決定的な勝利を収めた。その勝利は、敵の技術力や策略の前に屈することなく、一人ひとりの冷静な判断とプロフェッショナルとしての覚悟がもたらしたものだ。

​教官は、危機的状況下で「武装工作船」と断じ、本命である超低周波水中通信機への着眼という、卓越した状況分析能力を発揮した。

​そして、瀬戸内一等海士は、「点滅する光(横須賀のゴムボート)ではなく、その光が指し示す先の危機(工作船)」を追うという、極めて戦略的な決断を下した。あの時、本命を逃していたら、結果は全く違っていただろう。

​我々の行動は、警備行動発令中の「もがみ」と連携し、敵に逃走を許さない「抑止力」を、この東京湾の入口で明確に示したのだ。

​乗員の変化と任務の重さ

​私は、この事案を通じて、君たち乗員全員の顔つきが変わったことを知っている。それは、実際に**「戦い」の現実**に直面し、我々の任務の重さを肌で感じ取った証拠だ。この経験は、単なる訓練では得られない、君たち自身の血肉となるだろう。

​船体や装備に大きな損傷はなかった。しかし、我々の意識には、より深く、大きな「刻印」が残された。

​我々の進むべき道

​教官が結んだ言葉を、全乗員、肝に銘じよ。

​「日本を取り巻く海は、いつも静かではない。我々は、あの夜明けの静寂を保つために、いつでも全速前進第一種戦闘配備でいられるよう、常に備えねばならない。」

​穏やかに見える横須賀の海、東京湾の静寂は、決して自然に存在するものではない。それは、君たち自身の不断の警戒と、即応できる能力によって、初めて保たれるのだ。

​今回の事案で得た教訓、培った連帯感を忘れることなく、より一層の練度向上に励み、将来再び現れるであろう「軍港の影に潜む得体の知れない存在」を迎え撃つ覚悟を固めよ。

​我々こそが、日本の盾であり、夜明けの静寂を守る者である。以上!」と言われ1学期が締めくくられた。


 

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学園物語 美浜学園編 黒野和ひぽこ @tokona4759

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