five

 最近よく高校の時の夢を見る。静さんに凪津のことを話したからだろうか。凪津とは高校卒業後、別々の大学に進学した。大学二年になった今でも時間が合えば会う仲だ。


 静さんとは出会って間もないけど随分色々話したなと思う。独特な雰囲気を持つ静さんの前では、本当の自分でいられる気がした。


 初めて静さんの『絵』を見た時、静さんに想われる松山さんを羨ましいと思ったけど、今思えば松山さん自身を羨んだのかもしれない。松山さんの姿が自分にはなれなかったものだったから。


「静さんは凄いですね」


「何が?」


「自分らしく生きるところが」


「僕が僕であるためだったからね。ふゆも好きに生きたらいいよ。結構楽しいから」


 静さんの言葉は不思議で、自分の全てを肯定されている気がした。それも同じだからなのかなと思うこともあった。でも多分それは違って、静さん自身の魅力のせいなんだと思う。


「大学生になって、考え方が変わったんだ。型に囚われなくていいんだって」


 ふゆも大学生だ。2年前に高校を卒業したのだ。静さんの気持ちはわかる気がした。


「高校の時に静さんに出会いたかった」


 そう思うのも無理はない。あの時の自分は自分自身を受け入れることが出来なくて、好きな人でさえ拒んだ。

 あの時、静さんがいて、自分の考え方が変わっていたら……そう思ってしまうことが増えたのだ。


「過去には戻れないよ。僕は今のままで良いと思う。あの時代があったから、今こうして自分らしくいられると思うんだ。後悔していないって言ったら嘘になるかもだけど、あの時の選択は間違ってないと思ってる」


 空を見上げながら静さんが語る姿に見惚れていた。どこまでもこの人は………


「ですね。自分もあの時の選択が間違ってないって思えるような今を過ごしたいです」


 過去は過去だ。過去を変える方法があるとしたら、過去に対する気持ちを『今』変えるだけだ。過去を肯定できる『今』でいることが、『今』の自分が出来ることなのだ。


「そうだ!」


 何かを思いついたように静さんは言う。


「卒業制作の作品見に来てよ。まだ完成してないけど、展示される時教えるから」


 はいこれ連絡先ね。今更だけど。

 そう言って連絡アプリのQRコードを画面に映していた。

 それを読み込み、「ほんとに今更ですね」と返す。


 この日の夕焼けはいつもより美しく感じた。



 〇〇美術大学 卒業制作展


 あれから5ヶ月経って、静さんの卒業制作を見に来ることになった。

 どんな作品があの手から生まれたのだろうとワクワクした気持ちで会場に向かった。


 たくさんの絵や彫刻などが飾られている中でマップを手にして静さんの作品を探す。


「ここかな?」


 そう呟いてマップから顔をあげると、そこには一際目立つ作品があった。


 いや、その作品以外目に入らなかった。


 雪が降る静かな雰囲気の中、傘を持ち、空を見上げる人の姿は中性的で、温もりを感じた。

 その人は何かを待っているような気がした。


 その人をどこか知っているような気がして、気付かない内に涙が零れていた。


 知っている。この人を。分かっている。


 タイトルは『ふゆの雪』


 この作品にはあの人の想いがこもっていた。それに気づいた時、静さんに会いたい衝動に駆られた。


 そこから駆け出したふゆを止めるものはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ふゆの雪 isia tiri @tiri000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ