第3.5話「初めて会ったあの日」


「はぁ.....」


 ため息を吐き、スラム街を歩く。

 最近スラムの子供に試してるけど、あまり調子が出ない。

 師匠に言われた通りの事はやってる.....なのに全然ポーションの効果は現れない.....

 ポーションは子供達に危害は無いし、錬金術師としてはかなり実力がついてきたと思う。

 それなのにこの様だ。やっぱり魔力伝え方が悪いのだろうか?


 そんな事を考えながら道を徘徊していると


 ドンッ


「うわ!」


 腹部に軽い違和感を感じ、違和感の方に目を向けると、小さな子供が尻もちをついていた。

 自分に非が有るのを理解し、子供に手を差し伸べる。


「申し.....ごめんね。周りを見ていなかったんだ。」


「ううん、大丈夫です。それ、にこちら、こそごめんなさい!」


 ぎこちない言葉を使い、一生懸命謝ってくる。その様子に、ついほっこりとする。

 その子供をよく見ると、皮と骨だけの様な、明らかに痩せ過ぎているように感じる。


 ここはスラム街。文字通り、みんな生きるのに必死だ。大人は働く気力が無いか、働く能力が無いため、虚ろな瞳で常にボーッとしている。

 残念ながら、ここに居る子供の大半が、先述の通りの大人から生まれている。こんなガリガリな子供が居ても、なんら不思議では無い。それどころか、成長できているだけ奇跡だ。恐らく捨てられた子供も居る。

 胸糞悪い話だが、ここが経済大国。

 動く金が大きいため、運が良ければ素人でも金持ちになる事が出来る。いわゆる成金って奴だ。

 しかし、金持ちは成るのはそこまで難しくは無く、成り続けるのが難しいと、言われている様に、成功してもすぐに元に戻る......だけならこんなに子供は居ない。


 生活水準は、上がれば上がるほど、元には戻れなくなる。高くなった生活水準を維持する為に、借金をする馬鹿がこの国には毎年一定人数居る。

 そんな訳で借金で夜逃げをする訳だけど、外は魔物だらけ、護衛付きの馬車は借金取りが見回りをしているから無理だし、料金が10万と、まぁ借金する様な奴は十中八九無理だ。

 で、子供を守りたいのに、何故かスラム街に捨てるわけだ。

 まともな思考回路をしているならそんな選択はしない筈だ。

 なのにするのは、流石という他ない。


 それで、この子はどっちかというと、この子の言葉遣いとボロボロの布切れの繋ぎ合わせの服?からして、多分スラム育ちだ。

 スラム育ちの話はあまり聞いた事無かったし、丁度良いかな。


「もし良かったら、自分の家に来ないかい?君の話しが聞きたいんだ。」


「えっ、えっと......」


グー


「んあっ.....」


「自分の家には食べ物もあるし、一緒にご飯でも食べながら話そうよ。」


「う、うん.....」


 目の前の子は迷いながらも、見た目通り空腹だった様で、一緒にご飯を食べる事になった。

 やってる事が誘拐犯のそれだ。



『ディザレントの家』



「さ、入って入って。」


「は、はい。」


 部屋に入る様に誘導すると、戸惑いながらも家に上がって来る。

 初めて人の家に入ったのか、凄いキョロキョロしている。


「とりあえずここに座って待ってて。ちょちょっと作っちゃうから。」


「は、はい。」


 テーブルの方へ案内すると、自分は台所へ向かい、冷蔵庫を見て、何を作るか考える。


 冷蔵庫は、中の1番上の所に大きい氷を置き、全体を冷やすタイプ。氷は、魔力で何倍も強化されている為、強い冷気を放つ。お陰で1日中冷蔵庫内は、食べ物を保存するのに向いている気温に保たれる。


 さて、冷蔵庫の中を見て作る物も決まったし、やるか。


 材料は、塩、葉物、安いパンと.....卵でいいか。


 まずはフライパンに水を入れて、塩と葉物を入れて、火を着ける。


「リトルファイア」


 チャカー


 くぼみに火を付け、グツグツと煮えてきたら味見をして、最後に卵を入れて、固まるまで煮て完成だ。

 正直言って、味は最低限の具を入れただけの薄味の塩水だし、一緒に出すパンも、本来使う筈の菌も使って無いし、酷い味だ。

 ただ、もし此処で、“一般人の食事”を出すと、近くにあるゴミ処理場に廃棄されてる残飯や、道を走ってる虫とかを食べるのに抵抗を覚えたりして、犯罪行為に走る事だってある。

 そう考えると、下手に身分の低い人にちゃんとした食事を与えるのはどうかと思う。

 意味も無く慈悲だけで食事を与える奴は偽善飛び越えた犯罪者だ。論外だ。見つけ次第説教しなければならない。


(相変わらず面倒くさいな......)


 自分の考えに飽き飽きしながら、器に完成したものを入れて、子供の前に、スープとパンを出す。


 食事を出すと、子供はキラキラとした目で見ると同時に、口から自然とよだれが垂れる。


「どうぞ食べて。お金の分は、君の話を聞かせてくれ。」


「はい!」


 そう言い、ガリガリの子はスープの固まった卵を口に入れる。すると、一気に顔が明るくなり、食べ進める手が速くなる。

 ケチった具材入りの薄味の塩水をここまで美味しそうに、そして幸せそうに食べられると、少し罪悪感と興味が出てしまう。

 

(普通の食事を食べさせたらどうなるんだろう.....と、いけないいけない.....)


 自分の邪念を取り払い、食べ終わるのを待つ。

 そんな事したら、元々めちゃくちゃなこの子の人生が、更に狂ってしまう。それは阻止しなければならない。

 いや、もしや牢屋内の方が良い生活出来るのでは.....?

 でも、善良な一般人が一生懸命働いている税金を使うのは、流石に良くないよな。税も納めてない奴に税金を使うのは、労働者に失礼だ。



「ごちそうさま!でした!」


 そんな事を考えると、食べ終わった様だ。

 

(丁度良いかな。)

「よく食べたね。じゃあ、ご飯のお礼として、少し君についての話を聞いても良いかな?」


「うん!」


 子供らしい元気を取り戻した?その子は、自身の事について話してくれた。


 “以下話した内容の要約”


 自分は、じい(お爺ちゃん)と一緒に暮らしてて、じいはご飯を持ってきてくれる事。

 いつもは、黒いカサカサ(多分虫)や、硬い野菜(処理場生ゴミコーナーの芯)、たまに同じ様なパンを食べている事。

 自分はチビと呼ばれている事。

 気付いたらスラム街に居た事。

 じいは、冒険に出かけて時々お肉を一緒に焼いて食べた事。(調味料無し)

 年齢はわからない事。


 “以上”

「なるほど.....教えてくれてありがとう。」

(う〜ん......あまり目新しい情報は無いか.....ただ、物心ついた時から爺さんに育てられたっていうのは、結構共通してるな。この前聞いた子も同じだったし。う〜ん.....)


 色々と疑問に感じつつも、考えたところで分かるものでもない。後で考えよう。


 さて、もうこの子と話す事も無いし、最後にアレ言っておこうかな。


「今日はありがとうね。それと、もし今日みたいなご飯が食べたかったら、手伝ってくれたらあげるからね。」


 自分が甘言を放つと、チビ君はキラキラとした目で頷き、帰って行った。


「少し罪悪感は感じるけど、こうやるのが楽なんだよな。」


 独り言をつぶやき、台所に向かう。

 昨日ギルドに頼んでいたユニコーンのツノで、解毒ポーションを作ろうと思う。

 ユニコーンのツノをポーションに使うと、どんな毒も完治出来るポーションになるらしい。

 ツノ1本で100万ゴールもしたけど、ポーションが完成したらかなりの値段で売れる。


 また来たら、このポーションの試飲をお願いしようかな。安全性の確認で。

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人災錬金術師は金稼ぎに明け暮れる 赤はな @kagemurashiei

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