へっぽこ竹取物語令嬢は五人の旦那様に溺愛される

季乃面ゆき

転生した世界で即求婚されました

 仕事の終わり。

 がたん、がたん……規則的に電車に揺られる。

 その揺れに合わせるわけでもなく、マイペースに私はぺらり、ぺらりと小説を読む。


 通退勤の電車の中で読書をするのが私のルーチンワークを入社してから、一回りの年月をずっと続けていた。


 今、読んでいる本は『竹取物語』。


 竹から産まれた少女が、沢山の男性に求婚された後、月へ帰るお話だ。

 『かぐや姫』というタイトルで絵本やアニメにもなっている。

 保育園の頃、絵本の『かぐや姫』が好きでよく読んでいたことをふと思い出し、この本を選んだ。


 子供の頃は、もしも大人になったらかぐや姫のようにモテたらどうしようって妄想してたっけ。

 ……そんな今では、恋愛とは縁遠く、ずっと残業続きで会社にこき使われている私であった。




 電車を降り、帰り道を歩いていると。



「ん?」


 見上げると、巨大な三角形の物体が空に見えた。


「あれは?……タケノコ?」


 どうしてタケノコが空に?……いや、そんなことよりも。

 巨大なタケノコは、私の前に歩いていた老婆の頭上に落ちようとしていた。


「おばあちゃん、危ない!」


 ガーン!!!


 おばあちゃんをかばった私の頭上に、巨大なタケノコが落ちた。

 ものすごく痛い……意識が遠のく……。


『私は死ぬの? タケノコで?

 でも、おばあちゃんが無事で良かった……』


 地面に倒れる私が最後に見たのは、読んでいた『竹取物語』の文庫本だった。


『ああ……もしも生まれ変わったらかぐや姫のように生きてみたいなぁ』







「ん……ここは?」


 目覚めると、天蓋のついたベットに自分が寝ていることに気づく。

 まるで中世ヨーロッパの貴族が住みそうな部屋に私はいた。


「誰この子!?」


 金で装飾された豪華な鏡を見ると、ドレスを着た黒い髪の美少女が映っていた。

 細くてしなやかな体に、艶々の黒髪に、均整のとれた顔立ち、宝石のように美しい紅い瞳をしている。

 

 私の動きに呼応するように、鏡に映った像は動いた。


「え、この子、私?」


 私、この子になったの!?


 落ち着け、私、まずは状況整理だ。

 仕事帰りに巨大なタケノコからおばあちゃんをかばった。

 起きたら、私は謎の美少女になった。

 つまりは、そういうこと……どういうこと?



 状況整理をする時間を与えないように、部屋に誰かが来た。

 目をキラキラして、笑顔のメイド服を着た女性が現われた。

 え? 誰? この家のメイドさん?


「オリーリエお嬢様、五人の王子様がお越しですよ!

 噂に違わず、すごいイケメンですよ!

 さぁさぁ……客間へお越しください!」

「え? え?」


 私は、オリーリエって言うの?


 メイドさんに案内されながら、客間へ向かった。

 そこには、五人の男性が凛々しく立っていた……とりあえず挨拶するべきかしら?


「あー……えっと、皆さまごきげんよう」


「「「「「オリーリエ」」」」」

「はい!?」


「俺と結婚してくれ」

「俺様のモノとなれ」

「余の跡継ぎを産んでくれ」

「我の妃となれ」

「僕と一緒になってくれ」


 プロポーズされた!?

 あたふたしていると、男性達は口げんかを始めた。


「オリーリエは俺の女だ」

「はぁ? 俺様のモノだ」

「世界一美しいオリーリエには、我が一番ふさわしい。

 下賎の者たちよ、去れ」

「あー! 何だとー!」


 すごい言い争いになっている。


「で、オリーリエは誰を選ぶんだ?」

「はいー!?」


 突然、知らない人たちに求婚されて、答えられるわけないじゃない!……しかも五人だなんて!


 ……五人?

 『竹取物語』でもかぐや姫は五人に求婚されてたよね。

 『五つの難題』……かぐや姫が結婚の条件として五人の貴公子にそれぞれ無理難題を出したものだ。

 内容は確か、えーっと……よし。


 深く、深呼吸して、人生で一番心臓がバクバク言っているのを治める。

 落ち着いて気品の高そうな喋り口調で、五人に語りかける。


「ふむ、私と結婚したければ、それぞれ私の見たい宝物をご用意してもらえないかしら」

「ほう、それは?」

「宝物をご用意くだされば、その方の妻となりましょう」



 金色の長髪で青い瞳をしたイケメンに向かって。


「貴方は蓬莱の玉の枝を見つけて来てください」


 紫色の眼鏡をかけたイケメンに向かって。


「貴方は神々の御石の鉢!」


 赤髪のワイルドな顔立ちをしたイケメンに向かって。


「貴方は火鼠の皮衣!」


 黒髪のイケメンに向かって。


「貴方は龍の頸の五色の玉!」


 銀髪で狼の耳に向かって。


「貴方は燕の子安貝!」



「無理だと思う方はそれであきらめていいのでしてよ!

 それでは! 私はこれにて!

 おーほっほっほー!」


 すささーっと客室を退場した。

 部屋に戻ってすぐ、ベットにダイブした。


 求婚されて恥ずかしくて、あの場に居るのが辛かった……。


 とりあえず、求婚された問題は解決できた……よね?

 五人とも、あきらめてくれた……よね?

 でも、プロポーズを本当に断ってよかったのかしら。

 身分が高そうな身なりをしていて……玉の輿を狙えたのでは?

 いやいやでも、いきなり結婚なんて私には荷が重過ぎるって!



 一難去ったので、転生した世界の情報を整理していった。

 私が転生した女の子の名前は、オリーリエ・アルディナラリエアというらしい。

 オッキーナ・アルディナラリエア伯爵の孫として育てられた。

 お父様やお母様のことを聞いても、お祖父様にはぐらかされた。


 他にも沢山の謎はあるけど、一日一日を生きるので精一杯な日々を送った。




 転生して一週間経ち、今日も大変だった。

 教養、マナー、ダンスのレッスン漬けで、頭も身体もくたくたになってしまった。


「はぁー、今日も疲れた……」


 ん?

 庭園で紅茶を飲みながら休みを取っていると、どたどたと足音が聞こえた。


 あの人たちは……一週間前に求婚してきた五人がやってきた?

 どうしたのかしら?

 なにか、神々しい物を皆さん持ってらっしゃるわね?


「オリーリエが言ってたもの、持ってきたぜ」

「我も」

「俺様も」

「余も」

「私も」


 「ブーッ!」と思わず、紅茶を噴出してしまった。


 あきらめてなかったの!?

 しかも、全員持ってきているし!

 どどど、どうしましょう……。

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