ボイトレ館 声劇用台本4人(男2:女2)

棚霧書生

第1話

遥香、美樹、大和、迅

大学の演劇サークルに所属する四人


0:部室

遥香:今日こそは付き合ってもらいますからね!

大和:声でかいって……もうっ、耳キーンってなったぁ!

遥香:あなたたちが毎度毎度、変な理由をつけて断るからでしょうが!

大和:迅さーん、この人どうにかしてー!

迅:えっ、あっ、僕は今からお腹が痛くなるので鹿を狩りに行ってきます! ええ、これはもう大量に鹿を狩ってこれそうなレベルの腹痛です!

美樹:おい、逃げるな

迅:ひっ、美樹さん……!? いつの間に僕の背後をとったんですか!?

美樹:そんなん、どうでもいいでしょ。それで、行くの行かないの? ボイトレ館。

迅:いやぁ、行くとか行かないとかじゃなくてぇ、もうちょっと様子見したいなぁといいますか

美樹:この間、四人で一緒にお酒呑んだとき、行くって言ったよねぇ?

迅:えー、いやぁ、僕そんなこと言ったかなぁ……

遥香:言、い、ま、し、た!! 大和さんもです! 二人ともボイトレ館に私たちと一緒に行くってはっきりと言ってましたからね!?

大和:えー、それって遥香さんの聞き間違いなんじゃ……

迅:そうそう! そうですよ! きっと聞きまちが……

美樹:私が聞いたのも聞き間違い? 男二人してダサい逃げ方するんだね?

遥香:ホントですよ! 迅さんも大和さんもダサダサです。ダサアンドダサ!! はぁーどうして、この美女二人の誘いを断るかなぁ!?

美樹:失礼だとは思わない? 私たちがこんなに一生懸命お誘いしてるのに

迅:ぐっ……それはその……

大和:ダメだ迅くん! いくら良心に訴えかけられようとも、こういうのは毅然とした態度で断るんだ!

遥香:いや、あなたたち呑みの席で一度オッケー出してますからね。ここで断ったらただの不義理な無礼者ですからね

美樹:男はやっぱ誠実なのがいいよね。まさか、迅くんと大和さんは約束を破ったりはしないよね?

迅:あっ……うっ……うぅ……

大和:すみませんでした……観念します……

遥香:約束を守るのは当然のことなんですけどね

美樹:まあ、二人も覚悟が決まったみたいだし、さっそく行こっか、ボイトレ館に


――――――――――――

0:道中

迅:大和氏〜、僕ボイトレ館のことうわさ程度でしか知らないんですけど、なんか怖いとこらしいじゃないですか

大和:うーん、俺も遥香ちゃんから聞いただけだから詳しくはわかんないね。ボイストレード館、略してボイトレ館。催眠術を使って利用者同士の声を入れ替えるとしか

迅:催眠術とかぜーったいヤバいじゃないですか。怪しさ満点! ボッタクられそうな匂いがぷんぷんします……

遥香:そこは大丈夫ですよ! すでに予約を取ってクレカで前払い済みですから! ひとり二千円なので、あとで私に代金をお願いします

大和:えっ、いつのまに!?

迅:行動早すぎませんか!?

遥香:あなたたちがあれ以上ごねたら、支払い画面でも見せれば大人しくなるかなって

美樹:さすが遥香ちゃん、頼りになる

大和:なんだろう騙されたわけじゃないのに騙された気分になるのは

迅:僕は負けたわけじゃないのに負けた気分です……

遥香:はーい、そんなこと言ってるうちにボイトレ館に到着ですよ! ほらっ、二人とも早く入る!

迅:中は普通ですね、カラオケの受付みたいなのある〜、無人だけど

大和:このタッチパネルから使いたいルームを選べるみたいだね

美樹:どうせなら面白そうな部屋がいいけど……どれにしようか?

遥香:部屋によって遊べる台本が違うみたいですね。短いあらすじだけこのメニューに載ってますよ

美樹:いやぁ、悩むぅ。どれも面白そう

遥香:ファンタジーから現代もの、SFとかもあるんですね。うーん、最初ですし演じやすいように自分たちに一番近そうなやつにしましょうか

迅:ボイトレ館って台本とか用意されてるんですね……?

大和:おっ、迅くんってば、マジで酒の席の話な~んも覚えてないんだね

迅:ずみまぜん……

大和:お兄さんが教えてあげよう! ボイトレ館では各ルームに台本が用意され、マイクや録音機材がそろっているのだ! 他人と入れ替わった声で遊ぶもよし、普通に劇したり収録したりするもよし!

迅:へぇ、結構面白そう

遥香:いま大和さんが言ったことぜんぶ私の受け売りでしたね

大和:おやぁ、そうでしたかなぁ、あははははは

美樹:部屋決まったよ。早く行こ


――――――――――――――

0:ボイトレ館のルーム

大和:で、どうします? 初っ端からボイストレードしますか?

遥香:普段から劇はやってるから早く声の入れ替えを体験してみたいかな!

美樹:私も遥香ちゃんに賛せ〜い

迅:ということはこのコップに入ってる謎の液体エックスを飲むわけですね……

遥香:謎の液体エックスじゃなくて、ボイストレード薬(やく)ね。コップに二人で同時に吸えるタイプのストローが刺さってるから、これでボイトレしたい相手と一緒にこの薬を飲むんだって

大和:なんかハリポタにこういうの出てこなかったっけ?

迅:うう……これホントに大丈夫なんですかね? 色がヤバいですよ……

美樹:はい出た、ビビリ〜

迅:ち、違いますよ。ビビってるんじゃなくてですね、僕は慎重派なんです、石橋を叩いて渡るタイプなんです

大和:俺たちも同時に飲むんだし、死ぬときは一緒だぜ迅くん!

迅:えっ……大和さんとですか……

大和:ねえ迅くん…………そんな嫌そうな顔されたら俺ガチで傷ついちゃうからね!? 泣いちゃうよ! いいの!?

遥香:シャラ〜プッ!

美樹:つべこべ言ってないで早く飲みなよ。遥香ちゃんは私とボイトレしよ

遥香:美樹さんのお声になるの楽しみです!

大和:あっ、美樹さんと遥香さんでボイトレするんですね……

迅:ってことはなんですか? 僕のボイトレ相手は自動的に大和氏? この浮かれたカップルしか使わないストローの片方を僕が、もう片方を大和氏がくわえて、謎の液体エックスを同時に吸わなきゃいけないってことですか。僕なにか悪いことしましたか?

大和:そんなに嫌がらなくてもぉ……繊細ガラスハートがっ、ビキビキになっちゃうぅ

迅:冗談ですよぉ、半分くらい

大和:な~んだ冗談かぁ……って半分くらい? あと半分は……?

迅:目をつぶって飲むことにしまーす

大和:あれ、涙で前が見えない……

遥香:はいこれ、おしぼり

大和:ありがと……

美樹:もう催眠ボタン押していい?

迅:そんな怪しげなボタンがこの部屋に!?

大和:さっきここに来るまでに催眠術でボイトレするって教えたのに……そっかぁ迅くんは俺の話なんて聞いてないんだ……そうだよなぁ、俺の話なんてどうせ聞く価値なんてな

美樹:ボタン押しまーす!

大和:せめて最後まで落ち込ませて!!

遥香:催眠音楽が鳴ってる間に二人でボイトレ薬を飲み干してくださいね

大和:誰も俺のこと気遣ってくんないね!?

迅:ほら大和氏、こっち来て僕とボイトレしましょ。僕、大和氏の声は結構好きなんです

大和:え、えへへ……そっかぁ、まあ迅くんがそう言うなら仕方ないなぁ


(全員、ボイトレ薬を飲む音)


――――――――――――

美樹(cv遥香):あー、あー、あーー、えぇ、すっごいね、これ。本当に遥香ちゃんの声じゃん

遥香(cv美樹):ボイストレード大成功ですよ! わわっ、私の喉から美樹さんの声が出てる! おもしろ~い、ふっしぎー!!

美樹(cv遥香):男性陣はどんなかんじー?

大和(cv迅):コホンッ……僕はスーパァァァウルトォゥラァァァイケッボッの迅さまだぁー!!!!

迅(cv大和):ちょっ、やめてくださいよ! そっちがその気なら僕だって大和さんの声で変なこと言っちゃいますからね!

大和(cv迅):ほほーん? チミに変なことが言えるかね? 一体どんなことをさえずってくれるんっだいっ? 俺はオーープンな男だからな! ちょっとやそっとのことじゃビクともしな……

迅(cv大和):遥香さん、ずっと前から……好きでした! どうか俺と付き合ってください!!

大和(cv迅):にゃにー!?

遥香(cv美樹):うわ、私を巻きこんできたよ

美樹(cv遥香):大和さんがガチで告ってるように聞こえる。頭バグるー

迅(cv大和):俺はダメなとこばっかだけど、いつも叱ってくれる君のことがいつしか頭から離れなくなっていたんだ! 遥香さん、いやっ遥香! 愛してる! 君なしの人生なんて考えられないんだ!! 

大和(cv迅):うわあああああァァァ!? クッソ……お前だけは許せねえッ、くらえ、必殺俺の涙と鼻水を拭いたおしぼりィイイイ!!

迅(cv大和):うわっ、きたなっ……!

美樹(cv遥香):ちょっと、暴れないでよね!

遥香(cv美樹):やぁねぇ男の子って……

美樹(cv遥香):でもちょっと羨ましいかも

遥香(cv美樹):えー、どうしてですかぁ?

美樹(cv遥香):たまには馬鹿をやりたくなることない?

遥香(cv美樹):ありますねー!

美樹(cv遥香):私も遥香ちゃんが言いそうもないこと言って遊んじゃおうかな

遥香(cv美樹):どうぞどうぞ! 美樹さんが私の声でどんなことを言うのか興味ありますし、自由にやっちゃってください!

美樹(cv遥香):うーん、それじゃあ……えー、意外と思いつかないなぁ……

大和(cv迅):俺が考えたセリフを耳打ちしてあげますよ

遥香(cv美樹):あなたはダメ。美樹さんに変なこと吹き込むつもりでしょ

迅(cv大和):せっかくだから遥香さんの声で「大和さん、だーいすき♡」とか言ってもらったらどうですか

大和(cv迅):ないっ! ないない! 気持ち悪いでしょうが、見てこれ、想像したたけで鳥肌よ

遥香(cv美樹):私も気持ち悪いとは思うけど、それはそれとして大和さん、私に結構失礼なこと言ってるからね?

美樹(cv遥香):あっ、こんなのはどう? コホンッ……大和! あなた誰の許可を得て二足歩行をしてるのかしら?

大和(cv迅):え、あ……、自分の意思でいつも二足歩行やらせてもらってます、はい……

美樹(cv遥香):大和は犬でしょう、なにを勝手に立っているの。おすわり! 女王さまであるこの私にかしずきなさい

大和(cv迅):……なるほどぉ……ウー、ワンワンワンワンワオーン! 女王さま大好きだワン!! もっと激しく躾けてほしいワァン!!

迅(cv大和):やめて! 僕の声で変態ゼリフ吐かないで! しっかり僕の心に被弾してるからァ! 精神にダメージ負っちゃってるからァ!!

遥香(cv美樹):あははははは、カオスだ! 私も美樹さんが言わなそうなこと言ってみようかな~、えーと……犬ときたらやっぱり……

遥香(cv美樹):にゃお〜ん、どいつもこいつも騒がしいにゃんね。まったく少しくらい静かにできないものかしにゃ。

迅(cv大和):ぷッ……美樹さんがにゃん……美樹さんが……あはははははは!!

遥香(cv美樹):にゃおにゃおにゃー、にゃにゃにゃんっ、にゃあ~!!(だんだんと怒り気味で)

迅(cv大和):あはっ、あはは、うはははは!!

遥香(cv美樹):迅くん、笑いすぎだにゃあん! ネコぱーんち!!

迅(cv大和):イッタ!? くないけど。すみません、ふふふ……

美樹(cv遥香):そこの無礼者をきたなおしぼりの刑に処す。大和、やーっておしまい!

大和(cv迅):アラホラサッサー!!

迅(cv大和):ぎゃあああ! 顔面に大和さんの使用済みおしぼりをすりつけないでぇ!! 爆笑したのは謝るからァ! だいたいどっちかっていうと美樹さんの声でにゃんにゃん言い出した遥香さんのほうが悪くないですか?

美樹(cv遥香):ひとに罪をなすりつけようとするその心……なんとおぞましい……。ゲスめっ! 醜き自分を恥じなさい!

迅(cv大和):そこまで言う!? 僕そんなにひどいことした!?

遥香(cv美樹):罪を悔い改めるのです、ニャーメン……

迅(cv大和):うわぁ真面目な顔して、しっかりふざけてくるー!

遥香(cv美樹):遊びにも全力を出すことにしてますにゃんよ

大和(cv迅):俺もだワ〜ン!

美樹(cv遥香):遊びとはすなわち戦い。覚悟なきものから散っていく宿命(さだめ)

迅(cv大和):なにこれ、僕ジ・エンド展開なの? なんなの死ぬの?

大和(cv迅):お前のイケボ声帯は譲り受けた。安心していくといい! わっはっはっはっはっはっ!

迅(cv大和):大和さんの声も道連れだけどいいの!?

大和(cv迅):この声のほうが女の子釣れそうだからねぇ。これから僕はイケボ配信者としてガチ恋リスナーからいっぱい投げ銭をもらうのさっ!

迅(cv大和):ゲス! 発想がゲス! 僕の声を勝手に金儲けに使おうとしないで!?

美樹(cv遥香):うっ……ガチ恋……。ガチ恋はモンスターになることがあるから、やるなら気をつけなね……ああやだ、過去の記憶が……

遥香(cv美樹):美樹さん大丈夫ですか!?

迅(cv大和):ぷっ……美樹さんのトラウマ過去地雷踏み抜いてるー、あはははは!(爆笑で)

大和(cv迅):完全に女王さまキャラ忘れてるし、相当傷は深いってことか……

遥香(cv美樹):あなたたち、美樹さんに謝りなさい!!

迅(cv大和):なんで僕まで!? 僕は関係ないですよ、大和氏が悪い

遥香(cv美樹):迅さんは笑いすぎで思いやりがないからです! ひとがトラウマでダメージ受けてるときに大喜びするなんて、ひどい!!

美樹(cv遥香):遥香ちゃん、私のために怒ってくれてありがとう……

遥香(cv美樹):安心してください美樹さん! 私がこの二人をこらしめておきますから!

大和(cv迅):こらしめるって……、ははっ、こっちは男二人ですけどー? 負ける気がしませんなぁ!

迅(cv大和):大和さん、こういうときってあんまり調子に乗らないほうがいいんじゃ……

遥香(cv美樹):私のこのスマホには、昔々のとある音声データが入っています。そしてこれをツイート画面に貼り付けて……

大和(cv迅):音声データァ? 音声……こえ? まっ、まままままままさか!?

遥香(cv美樹):あなたたちが演技を始めたばかりの頃の初々しくって可愛らし〜い演技がここにおさめられています

大和(cv迅):鬼っ! 悪魔っ!

迅(cv大和):じぬぅッ! 羞恥で死んでしまいます!!

遥香(cv美樹):さあ、全世界にこれを発信されたくなければ、美樹さんにきちんと謝るのです!

迅(cv大和):美樹さん、この度はまことに申し訳ございませんでしたァ!!

大和(cv迅):…………悪女

遥香(cv美樹):あっ、発信ボタン押しちゃった

大和(cv迅):うわあああああああああああああ!?

迅(cv大和):えっ、これ、僕のも? 僕の過去演技も

遥香(cv美樹):大和さんと迅さんがサシ劇やったときデータですから、もちろん

迅(cv大和):うわああああああああああああ!? 僕、謝ったのに! 謝ったのにこの仕打ちッ!!

美樹(cv遥香):あぁ、これ懐し〜、迅くんがBL劇に慣れるために大和さん誘ってやったんだっけ?

遥香(cv美樹):BL初心者の頃の恥じらいがいい味出してますよね〜。私、めっちゃリピりました

迅(cv大和):やめてぇ! 鑑賞会始めないでぇ!! しぬしぬしぬしぬっ僕が羞恥死したらお二人の責任ですからねぇ!! ゲフッコホッコホ……

大和(cv迅):迅くん、落ち着いて。昔の演技が恥ずかしく感じるってことは俺たちも成長したって……成長したって、せいぢょうじだっで……ぜいぢょうじだっで

迅(cv大和):大和さんが壊れたァ! ゴホッゴホッ!

大和(cv迅):喉痛い……これストレスのせいかな……喉が焼けるみたいに……

美樹(cv遥香):なんだか私も急に喉が変な感じ……

遥香(cv美樹):あっ、そろそろボイストレードの効果が切れる時間みたいです!

美樹(cv遥香):じゃあ、喉の違和感はそのせい? なーんだ、もう終わっちゃうのかぁ。楽しかったね〜、みんな

遥香(cv美樹):また四人で来てやりましょうね!! 今度はちゃんと劇もしたいですし! いいですね、迅さん! 大和さん!


(同時)

大和(cv迅):いやだぁ二度と来るかぁ!!

迅(cv大和):いやだぁ二度と来るかぁ!!


終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボイトレ館 声劇用台本4人(男2:女2) 棚霧書生 @katagiri_8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ