第3話
「ふぅ、これで裏切者は片付きましたな!」
「四天王が半分になってしまったでござるな」
「ビックリだねェー、ケケケッ」
最初に汗を垂らしていたダッツ・サンも、今やすっかり汗が引いていた。
「しかし、ウシャ様の言う通り四天王が半分になってしまいました。これはいっそ役職を改め、俺とダッツで魔王様の右腕と左腕、といった形にするのはどうでしょうか?」
地のホーン・ムがモグラ頭に生えた一本角を得意げに掲げて言う。
「む、待つでござる。そうなるとなんか拙者より上であるかのようでござるよ?」
「いやいや滅相もない! 四天王が欠け、二天になった今! 即座にニンゲン共を滅ぼすことが重要だと思ったのです! 俺とダッツで魔王様をお守りして後顧の憂いを断てば、大将軍のウシャ様が兵を率いてニンゲン共を皆殺しにするお役目に集中できるというものです」
「ふむ、それは一理あるでござる。ではその名称は右将軍、左将軍というのはどうでござるか?」
「素晴らしい! さすがはウシャ大将軍――」
「――お待ちください。それは危険ではないでしょうか」
魔宰相、リー・ウラギ。ずっと黙って聞いていた彼が、口を開いた。
「何でございますか、リー宰相。我々軍部の話に口出しですか」
「ええ、ええ。黙って聞いていればあなた方。最初の時のことを忘れたわけではありませんよね?……ダッツ」
この言葉にびくっと震えたのは、ダッツ・サン。なにせ彼女は裏切りの言葉に最も強く反応して毒の汗をだらだら流していた。それもそのはず、彼女は魔王の座を乗っ取ろうと画策までしていたのだから。
「そ、そういえばそうでしたか! ではダッツは魔王様護衛から外し、俺が魔王様をお守りしましょうか!」
「いえ。それには及びません。魔王様の護衛はこれまで通り自分が担当します。ホーン・ム。実は……貴方も魔王様を裏切っているのではないか。自分はそう疑っているのですよ」
「な、ななな、なんのことですかな!!」
とはいうものの、このモグラ。――実はダッツ・サンと組んで魔王を殺す計画を立てていた。
それはもう冗談では済まされない裏切り行為!!
「何故バレた。そういう顔をしていますよ? ホーン・ム」
「なな、なにを根拠に! なぁダッツ。我々は無実ですよな!?」
「エッ、ア、う、ウン! 私が証言スルよ、ホーンは無実ダ!」
「馬鹿ですね貴方たちは。線が見えるようですよ」
フッと鼻で笑うリー・ウラギ。
疑われているダッツの証言など何の証拠にもならない処か、むしろ手を組んでいることの裏付けにしかならない。
「前々から思っていました。四天王、などという役職はそもそも不要なのでは? と。いい機会ではないですか。予算の無駄ですし、すっぱり無くしてしまいましょう」
「な、な、なにをいうか貴様ぁ!」
「ソ、ソウダソウダ! 私たちは魔王様ヲお慕イしてるんダ!」
「本当にそうですか? では……ここでひとつ、取引をしましょう。相手が裏切っていると証言した方は、罪を軽くしてあげましょう。しかし、先に証言した方のみです」
「なっ……そ、そのような脅しに屈するものですか! なぁダッツ」
「……」
「ダッツ? お、おい、貴様まさか!」
ダッツ・サンは、「ごめんネ」と小さく言ってから、
「こいツ、魔王様を殺そうとしてましタ!!」
「き、き、きさ、貴様ぁ!?」
あっさりとホーンを売った! 裏切りの裏切りである!!
もっとも「脅しに屈するものか」などと言っている時点でホーンは自白しているようなものであったが。
「違っ、コイツこそ、いつか魔王をぶっ殺して魔神になってやるとかいってました!」
「あーアー、遅イねー、もう私が先ニ証言しちゃっター! ベロベロベー!」
「お、お、おのれ! 裏切ったなダッツゥウウウ!!!」
怒りに身を震わせ、ダッツに襲い掛かるホーン――
「黙るのである、クソ共が!!」
そこで、魔神官、シーン・ハイの目が赤く光る。強烈な威圧だ。
ホーン・ムとダッツ・サンは身が竦み、動けなくなった。
「我らが魔族の神、魔王様を弑する気であったか!? ふん、この程度の威圧に竦むようでは到底不可能であるよ! 魔王様、よろしくお頼み申すのである!」
「……うむ」
ズダァン、とホーン・ム及びダッツ・サンの身体が改めてテーブルにめり込む。
魔王の重力魔法により、彼らは無力化された。
「な、なんデ私まデ……許しテくれるって……ッ」
「ああ、罪を軽くするとは言いましたね。ではこうしましょう、万死に値する、を、9999死に値する。はい、軽くしてあげましたよ?」
「そんっ、ナ、それじゃ詐欺――」
そう言って気を失うダッツ・サン。ホーン・ムも同時に気を失っていた。
「おい、この2人を牢に閉じ込めておきなさい」
「え、ええ? 今度は2人ですかぁ」
クー・ミッコを牢にぶち込んできて戻ってきた兵士に、新たな裏切者達を運ぶように言いつける。命じられた兵士は「今日は何なんだよもう」と愚痴りながら、新たな裏切者を連れて魔王城の地下牢へと向かった。
ホーン・ム、ダッツ・サン。彼らの魔王襲撃計画は、醜い身内の裏切りによって潰えたのである。
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