第2話


「嘆かわしい。四天王のくせに勇者に敗北していたとは」

「ケケッ! 所詮は力しか能のナイ四天王最弱……」

「まったく、あのドラゴンは四天王の面汚しでしたわ。……新しい火の担当を決めねばなりませんね」


 やれやれと嘆いてみせる残った四天王達。


 しかし、実はその内心でホッとしている者が居た。



 ――風のクー・ミッコ。実は彼女は、前々から火のガエリ・ネの事が気に食わなかった。故に、その弱点。使役耐性の弱さを勇者にこっそり教えていたのである!

 しかもその見返りに、情報料として宝石まで受け取っていた。これは明確な裏切り!



「(まったく、どこで私の話がバレたのか。でも、話の流れで上手い事ガエリに押し付けることができましたわ)」


 そう思っているクー・ミッコの表情は明るい。ウキウキ気分と言ってもいい。


「こんなこともあろうかと、私は火の候補を見繕っていたのです。どうですか、勇者に使役された裏切者のことなど忘れて、このまま議題を次の火の候補を検討しては」


 だからつい口を滑らせてしまう。

 魔大将軍、ウシャ・ナイツが頭を向けて、低い声で問いただす。


「……クーよ。今、何と言ったでござるか?」

「えっ? 次の火の候補を検討しては、と申しましたが」


 一体何をとクー・ミッコは思うが、ウシャ・ナイツの顔は兜に隠れて分からない。


「それが何か?」

「うむ。『こんなこともあろうかと』『火の候補を見繕っていた』と言ったでござるな……つまり貴様、ガエリが裏切ると予測していたということでござるな?」

「!? こっ、言葉の綾というものですわ。ガエリの精神の未熟さは我々幹部には周知の事実。いずれ使役紋を刻まれてもおかしくないと思っていましたの! ねぇ、皆様も分かっていた事でしょうに?」


 部屋の隅をつつくような言い咎めに反論するクー・ミッコ。

 しかしこの反論には、致命的な言葉が含まれていた。


「ああ。しかしマヌケは見つかったようでござる。……魔王様、ひとつお伺いしたい」

「……なんだ?」

「ガエリの喉にあった勇者の魔力――それは使役紋でござったか?」

「……そうだ」


 その言葉に、がばっと食いつく魔神官、シーン・ハイ


「それは本当であるか、魔王様! 魔神官ともあろう我が見抜けぬとは、余程周到な隠蔽をしていたのであるな、己姑息な勇者どもめ! しかし、使役紋であるか、ふむ。……む? 我でも見抜けなかったものを、よく見分けたであるな?」


 シーン・ハイの睨みつけるような目に、クー・ミッコはびくっと震えた。

 使役紋。その言葉がキーワードだった。さすがのクー・ミッコも、念を押すようなその聞き方に自分がいかに不味い事を口走ったか気付いたらしい。


「クーよ。何故、『使役されていた』と知っていたでござるか? ましてや、『使役紋』など。魔王様もダッツ・サンもそのような事、一言もいってないでござるよ」

「た、確かに怪しイ!」


 先程まで疑いの目を向けられていた水のダッツ・サンが、上司であるウシャ・ナイツの発言に便乗してクー・ミッコを糾弾した。


「(しめしメ! これで私の疑イはハレたナ!)」

「(お、お、おのれダッツ!?)」


 ニヤリと笑うダッツ・サンに、クー・ミッコはわなわなと肩を震わせる。

 そして。


「わ、わた、私はッ! くっ、あ、あんな粗雑な者が四天王にいる方が魔王軍の不利益なのよ――ぐぁっ!」


 開き直るクー・ミッコであったが、先のガエリ同様にテーブルに沈んだ。

 魔王の重力魔法は圧倒的である。空を飛べるハーピィでも、問答無用で地に落とされる。


「それで、仲間を売ったのでござるか?」

「わ、私はっ、本当に魔王軍の事を思って! それより、ダッツ! あなた――」

「黙れっ! 俺の一撃をくらって大人しくしろ! フンッ!」

「ぐあっ!」


 地のホーン・ムにより、完全に意識を落とされるクー・ミッコ。


「……こいつを牢屋へ連れていけ」

「えっ? あ、は、はいっ、かしこまりました!!」


 ガエリ・ネを牢にぶち込んできて戻ってきた兵士に、気絶したクー・ミッコを運ぶように言いつける。命じられた兵士は新たな裏切者を連れて再度魔王城の地下牢へと向かう。

 クー・ミッコが空を拝めることは、二度とないに違いない……

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