魔王様、この中に裏切者が居ます!

鬼影スパナ

第1話



「……ニンゲンは愚か……」

 魔王、アル・ビトレイ。魔族らしい紫肌に筋骨隆々の大男、2本の黒い角を生やしたいかにもな魔王である。

 彼は世界を、人間の国々を相手取り、戦争を仕掛けていた。

 世界征服。そして支配。それが魔王の目標。



 そして、魔王軍最高幹部会議――今ここに、魔王を含め8名の重要人物が集結していた。


「魔王様の仰る通りですね、ハハハ」

 魔宰相、リー・ウラギ。ダークエルフの美丈夫だ。


「然り然り。ニンゲンどもは我々が支配し管理すべき存在である」

 魔神官、シーン・ハイ。でっぷりと太ったオークの神官である。


「あのような軟弱な生物に拙者ら魔族が負けるはずがないでござる」

 魔大将軍、ウシャ・ナイツ。中身が見えない黒い全身甲冑を着ている。


「我ら四天王が先だってニンゲン共を皆殺しにしてくれましょう」

「ケケケケ! 愉快愉快!」

「ええ、戦況は順調ですわ」

「この間も勇者を名乗る人物を追い返してやったところでございます」

 魔大将軍の部下、四天王……

 地のホーン・ム。大地を揺るがす1本角の生えた大モグラ。

 水のダッツ・サン。毒と瘴気に侵され堕ちたポイズンウンディーネ。

 風のクー・ミッコ。空を支配するハーピィレディ。

 火のガエリ・ネ。マグマのブレスを吐くドラゴン。



 彼らは世界を、人間の国々を相手取り、戦争を仕掛けていた。

 世界征服。そして支配。それが彼らの共通する唯一つの目標――


「魔王様! 報告であります!」

「何だ、今は大事な会議中だぞ」


 その会議の最中、とある重大情報を持った兵士が入ってきた。その情報とは




「魔王様、この中に裏切者が居ます!」




 兵士のこの言葉に真っ先に反応したのは、四天王、火のガエリ・ネだった。


「なんだとぉ!? フザケルナ! この魔王軍に裏切者などいるはずがない!! そのような報告をする貴様こそ怪しい! 死ね!!」

「えっ……ぎゃぁああああ!」


 ガエリ・ネの放ったブレスにより、報告に来た兵士は一かけらの灰も残さず焼け死んだ。


「フンッ! まったく馬鹿なことを……一体だれが裏切者なものか!」


 そう宣言し、ドラゴン用の大きな椅子にふんぞり返って座るガエリ・ネ。


「ええ。裏切者とは何をバカな……」

「魔王様を神とする我ら魔族にとって、裏切りなどあってはならぬ事である」

「我ら魔王軍の結束は盤石でござるよ」

「そうですそうです!」

「仰る通りですわ」


 まったくその通りだ、と、同意する他の面々――しかし、その中でダッツ・サンはだらだらと汗を掻いていた。まるで、図星を指されたかのように。

 全身がほぼ水で構成されているポイズンウンディーネ。その汗の量は尋常ではない。



 実は彼女は――いずれ自分こそが魔王軍の頂点に立ってやろうと、考えていた。

 そう。つまりはいずれ裏切る心算だったのである!



「……む? 毒臭いでござるよダッツ。抑えるでござる」

「ケッ、ケケケ、も、申し訳ありませン、ウシャ様」

「その様子。まさかとは思うでござるが、貴様が今の兵士の言っていた裏切者だということは無いでござるか?」

「メメメ、滅相もナイ!」


 ぶんぶんぶんと首を振るダッツ・サン。その毒の汗がぴちゃりと地のホーン・ムに掛かった。


「おい! 俺を殺す気ですかダッツ! 魔王軍に敵対しようって考えですか?」

「な、ナニヲイウカ!! それを言うなら、おま――あっ、火の! ガエリが怪しいではないですカ!」

「なっ、なんだとぉ!?」


 ごぅ、と噛み締めた口から火をぼふんと漏らしつつ、ダッツ・サンを睨むガエリ・ネ。


「裏切者の報告をもっと聞くべきだったノに、兵を殺し情報を隠しタ! これこそ貴様が裏切りを働いているカラに違いないのダ!」

「なっ!? ななな、なにを言うに事欠いて! わ、我がいつ魔王様を裏切ったって証拠だよ!」

「クケケケ! 知っていルんですよ、アナタ……勇者を追い払った――と、先程言ってましたよネェ!?」

「い、言うたが!? 事実だが!?」

「実のトコロ! 勇者に敗北したが、取引きして見逃されタ――が真実なのでハ!?」

「は、はぁああーーー!? ちちち、違う、違うぞ!?」


 ぶんぶんと首を振るガエリ・ネ。



 しかし。実は彼は――その喉元、逆鱗の影に使役紋が刻まれていた。

 負けた真実を隠し、勇者に使役されてるくせにさも忠臣といった顔でこの会議に出席するなど……裏切りに他ならない!



「ア! 首にナンカアル! 魔王様! 裏切者はガエリでス! 間違いありませン!」

「い、否! 断じて認めぬ! 我は、我は……グッ!」


 ズシン! とガエリの身体がテーブルに押し付けられる。魔王アル・ビトレイの重力魔法だ。


「……貴様の喉に勇者の魔力が見えた。おい、コイツを牢へ連れていけ」

「は、ハッ! 了解しました」


 魔王により無力化されたガエリ・ネは、魔王に命じられた兵士の手で牢屋へと運ばれていった。ドラゴンと言えど決して逃げ出す事の出来ない魔王城の地下牢へ……


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