第4話


「ふーむ。まさか、四天王が全員牢屋送りになるとは思ってもいなかったでござるよ」

「確かに。これは若干計画を修正すべきですね」

「嘆かわしい。魔王様への信仰が足りぬ……」


 3人の幹部はすっかり意気消沈してしまっていた。

 戦力の一翼どころか四翼を担っていた四天王が全員投獄。これでは士気も下がるというモノだ。


「しかし、折角です。この際、我々も魔王様への忠誠が確かなものであると、証明しておくべきではありませんか?」

「む? なんでござるか、ここに残った拙者らには今更そのような事、不要でござろう?」


 魔宰相リー・ウラギの提案に、首をかしげる魔大将軍ウシャ・ナイツ。


「……いや。必要ではないか? 特に貴様だ、ウシャよ」

「なっ! 拙者でござるか!?」

「うむ。なにせ貴様――ニンゲンであろう?」


 魔神官、シーン・ハイの言葉に、ギクリとウシャ・ナイツが反応した。


「な、何を言い出すでござるか!?」

「その訛りはニンゲンの、東方にある地方の話し方である。いや、そもそも我の鼻は誤魔化せぬのである。その兜の魔道具で顔を隠したところで、な」

「……く、ここに至っては仕方ないでござるな」


 そう言って兜を脱ぐウシャ・ナイツ――そして現れたのは、ニンゲンの武人であった。


「なっ! ウシャがニンゲンだっただと!?」

「ま、待つでござる!! たしかに拙者はニンゲンでござる、が、ニンゲンを憎んでいるのでござる! 魔王軍として活躍してきたのがその証拠!」


 攻撃しかけたリー・ウラギ。しかし、ウシャ・ナイツの言う事ももっともである。



 ――そう。ウシャ・ナイツはニンゲン。ニンゲンであるにもかかわらず、魔族に与する裏切者であったのだ!!



「チッ、確かに貴様は魔大将軍にまで上り詰めた男――話くらいは聞いて差し上げましょう」

「ああ、リー殿は冷静でござるな。それでこそ魔宰相に相応しいでござるよ」

「御世辞は良いから、早く話しなさい!」

「おっと、すまぬ。……実は拙者、故郷を帝国に滅ぼされ、復讐を誓った身なのでござる」


 そうしてウシャは身の上を語る。

 元は大陸の東にある島国に暮らしていたウシャ。しかしある時帝国が攻めてきた。最初は果敢に立ち向かった武者と呼ばれる島国の戦士たちだったが、大陸の圧倒的な兵力には敵わず一人、また一人と倒れて行った。

 そうして村がひとつ焼かれ、ふたつ奪われ、みっつ滅ぼされ――


 ――帝国は島国のすべてを平らげてしまった。


「かくして生き延びた拙者は帝国へ復讐を誓い、まぁいっそ世界なんて滅亡してしまえと思ってウシャ・ナイツと名を改め魔王軍に入ったのでござる。そして、なんやかんや今の地位に上り詰めたのでござるよ」

「くっ……う、ウシャよ。そのような事情があったのか……うむ、うむ! では共に帝国を滅ぼし、世界を支配しようではないか! 魔王様のために!」

「シーン殿!」


 がしっと抱き合うウシャ・ナイツとシーン・ハイ。ニンゲンとオークの友情がそこにあった。



 ウシャ・ナイツは裏切者だった。しかし、ニンゲンからの裏切者だった。

 ということは、今は仲間ということである!



「そのような事情でしたか……しかし一応ということもあります。これを試しても?」


 そう言って、リー・ウラギはとある魔道具を取り出した。

 ――ニンゲン用の、嘘発見の魔道具である。使えば嘘が露呈する。

 個体差が大きい魔族には使えないのだが、ウシャがニンゲンであるなら問題ない。勿論、魔大将軍であるウシャ・ナイツもこれを知っている。


「む? そ、それは……」

「はい。捕虜尋問のために開発された魔道具ではありますが、後ろめたいことが無いというのであれば構いませんよね」

「……かっ、かまわ、ないでござるよぉ?」


 ん? ウシャの反応に引っかかりを覚えたシーン・ハイは首をかしげる。

 かまわずにリー・ウラギはウシャ・ナイツに魔道具を握らせた。この魔道具は、嘘ならブザーが鳴りランプが赤く点灯する。


「では全ての質問にハイで答えてください」

「えっ」

「何か問題でも?」

「な、なんでもないでござる」


 ウシャ・ナイツの額に汗が一筋。明らかに動揺している。


「ウシャ。あなたは、魔王軍に忠誠を誓っている」

「は、はいでござる!」


 ブッブー! という音と共にランプが点灯した。


「……は?」

「す、すまぬ、ちゅ、忠誠はかつての君主に捧げてしまった。み、操を立てておるのだ……武士故にな、仕方ないのだ」

「……む、ランプが点きませんね。そういうことですか」


 リー・ウラギが納得するとウシャはほっと息を吐く。


「もうよいでござろう?」

「いえ。まだです。次の質問は……あなたはニンゲンを滅ぼしたい」

「……はいでござる!」


 ブッブー! という音と共にランプが点灯した。


「……んん?」

「待つでござる! ニンゲンを滅ぼすということは拙者も死ぬということでござる! そりゃ誰だって自分が死ぬのは嫌でござろう!?」

「……ランプが点きませんね。そうですか」


 ふぅー、と額の汗を拭うウシャ・ナイツ。


「いや、ではもう一問。……そうですね、あなたはニンゲンを憎んでいる」

「……はいでござる」


 ブッブー! という音と共にランプが点灯した。


「……んんー?」

「いや! その! 全てのニンゲンを憎んでいるわけでは無いのでな! 妻や子、仲間たちといった大事なニンゲンのことは憎めないでござるよ! 帝国、帝国はアレでござる、拙者の故郷を滅ぼした相手故、大丈夫でござる!」

「……ランプが点きませんね。そうですか」


 ぱたぱたと顔を手で仰ぐウシャ・ナイツ。


「もうよかろ? な?」

「いえ、これが最後です。ウシャ、あなたは……ニンゲンの敵、魔王軍の魔大将軍である!」

「それは自信をもってハイと答えるでござるよ!」


 ……ランプは点灯しなかった。


「……点きませんね。疑ってすみませんでした」

「うむ。これで分かったでござろう、拙者がお主らの味方という事が!」


 ブッブー! という音と共にランプが点灯した。


「あっ」

「……」


 やっちまった、とウシャは目を逸らした。



 その後、引き続き行われた尋問によりウシャ・ナイツは帝国へ魔王軍の情報を流していることが判明した。さらに言えば島国へ帝国を手引きしたのもウシャであったらしい。その手腕を買われ、魔王軍に入り込んだとか……



 つまり――ウシャ・ナイツは裏切者だった。ニンゲンのスパイであったのだ。



「まさか、魔大将軍ウシャ・ナイツが密偵だったとは……」

「うぉおお! 我は悲しい……ニンゲンにも見込みがある者が居たとおもったのに!」


 ちなみにウシャ・ナイツが魔大将軍として稼いでいた戦果も、ニンゲンと組んで戦ったフリをしていたらしい。


「……こいつを牢に閉じ込めておくのである」

「えっ、ニンゲンがなんでこんなところに……? まぁ了解でーす」


 既に4人もの裏切者を牢にぶち込んできて戻ってきた兵士に、身包み剥いで縛り上げたウシャ・ナイツを運ぶように言いつけた。

 ニンゲン共の恐るべき企みは、こうして暴かれたのである。

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