おまけ
「……魔王様、裏切者は結局誰だったのでしょうか」
最初に裏切者が居ると報告し、ガエリ・ネに燃やし尽くされた兵士が問う。
戦闘を終え、「そういえば最初に殺された者が居たな……」と魔王は蘇生を試みたのだ。
本来、死者の蘇生は灰でもよいので死体が必要なところであったが、魔王の強大過ぎる力の前にはその法則も覆った。
そして、変わり果てた魔王城で天を仰ぎつつ、兵士は魔王に問うた。
裏切者は誰だったのか、と。
魔王はふむ、と顎に手を当てて考える。
結局、あの会議に参加していた全員は裏切者だったと言えるわけだ。
「……さて、あまりにも心当たりが多すぎるな。そもそも貴様は報告の途中であっただろう。どのような情報だったのだ?」
「はい。私のデスクに手紙が置いてあったのです。『裏切者!』と書かれた手紙が!」
それを見て、兵士は思った。これはきっとこの魔王城に裏切り者がいるのだと。それもこの最後の「!」からは強い意志が感じられる。おそらく、名前を言うのもはばかられるような、上の存在だと。
「かくして私は、あの会議に参加している中に裏切者が居るに違いないと確信して、決死の覚悟で会議に乗り込んだのです。……まぁ実際死にましたが! あっはっは!」
「……ふむ? ではその手紙を調べてみるとしよう」
魔王が指をくいと動かすと、兵士と共に燃え果てていた手紙が復元された。
そこには確かに、可愛らしい文字で「裏切者!」と書かれていた。
……これをどう見れば、魔王軍幹部に裏切者が居るのだと認識できるのだろうか? と魔王は首を傾げた。
「随分可愛らしい筆跡だ。これを描いたのは、子供のようだな」
「子供? むむむ、いったい誰が……あっ!?」
裏切者と書かれた紙だが、それは裏に何かが書かれていた。
「すみません魔王様、これウチのせがれの字です!」
「ふむ? どういうことだ? 貴様が子供を裏切った、ということになるな」
「えっと、大変申し上げにくいのですが……先日せがれと遊びに行く約束をしていまして。それが、急な仕事で行けなくなり……いやはやどこで裏切者なんて言葉覚えたんだ……」
ポリポリと申し訳なさそうに頭を掻く兵士。
おそらく兵士の子供が、荷物に手紙を仕込んだのだろう。
それが何かの拍子で兵士の机の上に落ちて、それを見つけた兵士が――ということである。
「……『裏切者』は貴様だったということだな。ガエリの言葉は奇しくも正解だったということか」
「た、大変申し訳ありませんでした! とんだ早合点を!」
兵士は土下座した。魔王軍幹部が軒並み地下牢に入ることになったのも、魔王城がオープンテラスになったのも、もとはと言えばこの兵士の勘違いが原因だったということだ。
「良い。いずれはこうなっていた。そのきっかけが貴様の勘違いだったというだけの話よ」
「魔王様……」
それに、兵士は兵士で死ぬ程の――実際死んだので、罰は受けたと言っても良いだろう。
「……クククッ、これはこれで面白い」
「あの、魔王様。これからどうしましょう? その、魔王軍は再建されたり……?」
「む。そうだな。このままでは兵士の給金も払えるか怪しいものな……」
再び顎に手を当てて考える魔王。
「……真面目にやるか、世界征服。面倒たが部下を養うためだ。仕方あるまい」
「えっ」
「ただし、仕事が増える分貴様らにもしっかり働いてもらうからな。覚悟しておけ。地下牢に入れた幹部連中も出しておくといい」
神の監視者リー・ウラギが消え、神はこの世界を見失った。世界は神の手を離れ、もはや魔王を止められる存在はこの世界にはいない。
その気になればいつでも、この世界は魔王の手の中におさまるのだ。
「……ああ、だが、多少時間はかかるな。その間は休暇としよう。……今度は、期待を裏切らずに遊びにつれて行ってやるといい」
「は、はいッ! 魔王様!」
兵士は、空に飛び立つ魔王に向かって頭を下げた。
その後、世界は魔王の下に統一された。
魔族以外の扱いも悪いものではなく、なんやかんや平和になったそうな。
魔王様、この中に裏切者が居ます! 鬼影スパナ @supana77
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます