弐【城にありて敵に追い詰められし事】金〜火

 被害者は、高根という男だったらしい。

 昨夜、金塔の最上階、そこで心臓をひと突きにされ死んでいたのだという。


「他にも、どこから来たのか5人の囚人も共に……」と天海さん。

「5人?」


 僕が聞き返すと、天海さんは手帳を開き、読み上げる。

 個々の名前まで判明していたが、注目すべきは4人の男性と1人の女性だったということだ。


「あの、高根さんというのは、男性ですか?」

「ええ。職員はどちらかと言えば、男性が多いですけども、どうしてです?」


 僕には嫌な予感しかなかったからとしか言えない。

 そこで玄海さんが口を挟む。


「多分、1と5を表現したかったと思ってね」

「1と5? どういうことです?」

「簡単に言えば……」

 と彼は指を5本立てる。

「見立て殺人と言うことです……いや、待て……高根――名前は?」

「一鉄です」


 玄海さんは、僕の方を見た。

 僕は頷く。最悪のパターンが脳裏に思い浮かぶ。


 玄海さんが走り出し、僕は天海さんに「ついてきてくださいっ!」と叫んだ。ついでに甲斐さんへ「刑部卿に着いていてください」と言い、僕も玄海さんの後ろを走っていく。


「天海さん、職員の方で名前に木の着く方は、いますか? もしくは、草を意味するような」

「いえ……誰も。ところで、何故そんなことを?」

「これが見立てなら、次は木だと思うんです。または水ですが、確率的には木だと思うんですよ……ここが五芒城であるが故に」

「ああ、五行の順番ですか」


 金塔で、タ・イッなる者が金属製の刃物で殺されているのは、狙って行われたことだろう。悪意としか言えないレベルで、悪趣味な発送だ。

 それは……呪いといって差し支えない。


「で、今は、何を?」

「木のつく名前の者がいるとすれば、柴崎さんかなと」

「あの、もう一人いるんじゃないでしょうか」

「え? さっき職員はいないって……」


 天海さんは、真面目な顔で言う。

「いえ、加茂さんです。茂るって言葉は、木や植物に使うでしょう」

 あっ。

 僕は走る速度を上げた。

 



 僕らが医務室に着くと、すでに加茂さんは柴崎さんの安否を確認していた。

 二人とも無事であった。


「玄海さん、あなたも木に属する名前なんだから、無暗に行動しないでもらっていいですか?」

「ああ……、そうだな。でも、玄海で水でもある」

「それを言うなら、天海……」

 そして徳川だろ、と彼は言った。


 水に属する名前が多いな。


「小舟じゃ、水じゃないですよね」

「いや、『土』御門のご子息が、何を忘れてるんだよ」

「じゃあ……これで揃ってしまったんじゃ」


 僕が呟くと、玄海さんはにやりと嗤った。

 自嘲とも、苦々しさともとれるような笑みだった。


「狙いは、俺たちだったのかもな」

「まんまと罠にかかったってとこですかね」


 その横で、天海さんが首をかしげていた。

 ここまで五行にふさわしい名前がそろっているなんて。

 五芒城の医務室に、城のセキュリティーの人間を呼び厳重に管理させるようにしてもらった。怪我人を狙われてしまっては、こちらも守り切れなくなる。誰が犯人であるか分からない状態で、最後に守り切れるのは自分の力だから。


「しかし、僕らが気づききる前に何かしらの手を打たれると思ったんだが」と玄海さんは言う。

「さすがに、向こうも手を回しきれなかったんじゃないですか?」

「そうか……」


 何か納得できないような様子で、顎を掻いている。


「でも、こうなった以上は――」



 ボン!



 視線の端で、火の手が上がった。

 それは木塔ではなく、その隣である火塔。


「火がつく名前って……」

「火野長官殿だけです……」

 天海さんが震える声で答えた。

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是生両儀~是、両儀を生ず~ 亜夷舞モコ/えず @ezu_yoryo

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