弐【城にありて敵に追い詰められし事】

 ヘリは強い風に少しだけ煽られながら、五芒城の中庭へと着陸した。


 五芒城――皇紀2529年より始められた蝦夷地開拓において、多大なる寄付を行った士商・坂本氏の居城として建てられた城である。西洋風のレンガ造りの城であり、上空から見たときに五芒星を描いている。星の頂点には、それぞれ塔があり、真北の木塔から時計回りに火塔、土塔、金塔、水塔となっているのだとか。

 塔は10メートルほどの高い塀の上の渡り廊下で繋がっていて、結構な距離を歩くが隣の塔へと移動できる作りになっているようだ。


「せっかく逃げれたのはいいんですが、それなら外に逃げれば……」

 と呟くと、出迎えてくれた女性職員はキッと僕を睨んだ。


「自分たちだけ、ですか?」

「え――いや、そういうわけではなくて」

「そもそも貴方たちは、こちらを助けに来てくれたんですよね」


 掴み掛からんばかりの勢いだった。

 そこに玄海さんが体を入れて、制してくれた。


「こちらもここまでの事態とは思ってませんでしたから。こんなことと知っていれば、軍隊がこぞってこちらに飛んでくるでしょう」

「うそ。こっちの気もしらないで!」と彼女は拳を振り上げた。

「愛理君」


 拳が玄海さんに届く直前で、彼女は呼び止められた。


「助けに来てくれた方々に失礼だろう」

「はいっ……すみません。火野長官」


 火野長官――その名前で、僕らは彼が火野開拓使長官であると知る。


「こちらも失礼な発言でした。申し訳ありません」

「いえ、確かにこの事態ならば、4人でどうにかなるものでもないでしょうからね。ただ撃たれた方を応急手当もなしに、本土に返しては逆に危険でしょう」

「感謝いたします」


 ヘリからぐったりとした柴崎さんが中へと運ばれていく。

 かなり血を流してしまっているはずだ。

 次にこちらに来た男は、すぐさま徳川刑部卿の足下へひれ伏した。


「徳川刑部卿! 誠に申し訳ございません!」

「天海、こちらこそすまない。ここまでの問題だったとは」

「刑部卿……」

 手が差し出され、天海と呼ばれた彼が立ち上がる。

 

 火野開拓使長官ならば、本来は札幌の本部にいるものだと思っていたが、ここまで避難していたということか。しかし、火野長官、天海さん、我々の4人と職員が10人ほど……正常な人間もほとんど残っていないということだろう。

 圧倒的なピンチで、こちらには何の手もない。

 あるのは逃げるためのヘリが一台――全員は乗れない。そもそも無事に逃げ切れるかも怪しい。向こうが軍の武器を持ち出してこないとも限らないし、ここにある武器はそれだけではない。

 どこかの企業の発明品だってあるだろう。

 問題解決というにも、どん詰まりというやつである。


「しかし、刑部卿……ここももはや安全かどうか……、昨日実は職員の一人が殺されておりまして……」


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