小さな箱

Saku蔵

第1話


 深夜0時41分のリビング

 目が慣れた後の常夜灯はとても優しい


 常夜灯はベンチと2脚の椅子に挟まれた

 大きな机に温かなオレンジが降り注ぐ

 まるでお月様のようで舞台のようで

 その上には何も無いけれど、もし

 そこに小さなバレリーナの人形を置いて

 大きな窓辺の隣でどっしりと構える

 ダークブラウンの革が艶やかなソファへ

 横になって少し待っていれば

 たちまち動き出して

 軽やかなステップと洗練されたなめらか

 で芯のある動きを観客の私に魅せつけて、

 お月様の下で踊る白鳥は穢れのない

 純白な羽根をオレンジに染め上げて

 今宵一生に一度の特別な思い出を

 刻ませて忘れ難いものにしてくるだろう

 

 もしその上に小さな男性のバレリーナを

 オレンジに染まった白鳥の隣に置けば


 彼女は彼に恋をして

 彼も彼女に恋をして

 二人仲良く器用に両頬を薄紅色に

 染め上げて

 お互いが絡み合うように寄り添うように

 観客の私の事をすっかり忘れて

 熱のこもった輝かしい求愛の舞を

 真上のお月様に捧げることだろう


 ほったらかしにされた観客の私とは別に

 大きな机の後ろにある背の低い本棚

 文庫本に挟まれている黒鳥が

 彼女達を見たらどう思うのだろうか


 その魔性の黒で彼を惑わすのか

 お月様を独り占めしようと陰から

 飛び出して彼女達を白い床の地へ

 突き落とすのか

 純白に惑わされて自分が落ちるのか

 もし私が黒鳥だったらどうするのだろう


 そう愉快な幻想を脳裏で育てていると

 壁に浮かんでいる木製の三日月から

 女神の黒い影が現れ

 そのまま大きな机の上に飛び移り

 大きい欠伸を披露して毛繕いをする

 

 邪魔された事で消え去ってしまった

 バレリーナ達の幻影に想いを馳せる

 

 少しして私の左腕の中で丸まっている

 温かくてふわふわのクリームパンに

 『まだ寝ないの?』と心配された

 この幻想を

 夢で鮮明に見られたら良いなと

 期待して私は目を閉じた

 

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小さな箱 Saku蔵 @sakuzyo1820

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