第67話 約束の地


小夜子のスカートから僕が徐々に身体が消えていくのがわかる。


透明になった僕は瞼が重くなったような心地がした。


「小夜子、また会えるから。僕らはまた会えるから」


 


小夜子は頷いた。


迷いが消えたその目で。


元の世界へ戻りつつあるのを見届けたかったがそれはできない。


徐々に水鏡はなくなり、視界が歪み、病室が見え始め、元に戻り始めた。


僕は自分の身体が消えてなくなるのを感じる。


これで良かったんだ。


本当に。


これで良かったんだよ、小夜子。


この世界がクリアに見える頃には僕はいない。


僕は闇の世界に帰るのだから。



鏡の底の、迷宮に眠りつくのだから。


ここで僕は眠る。


僕はもうスポットライトの下に当たるようなことはしないよ。


元の世界に戻ったら小夜子、君はみんなにありがとう、と言うんだよ。


それが僕の約束だ。



君はひとりでこの残酷な世界を生きなくちゃいけないけれど、君はもう大丈夫だ。


君ならひとりでも生きていける。


多くの困難が君を待っているけれど、そのときは鏡の底へ避難してはいけないよ。



ここは簡単に来てはいけないところだから。


でも、僕はここいるよ。


僕はいつでも鏡の底で待っているから。




         

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夢鏡と憐憫少女 多重人格の少女の悪夢 詩歩子 @hotarubukuro

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