第66話 夜に溶ける


鏡の表面が割れつつある。


水鏡が徐々に嵐が来ようと揺れ始めた。


でも、もう大丈夫だよ。


たとえ嵐が来ても君ならきっと抜け出せるから。


小夜子の身体はさらに丸みを帯び、秘密のところは甘くなっているはずだ。


ここもびっしょりと濡れ、生まれ変わってその身体は月夜に照らしだせるはずだ。



大丈夫だよ、小夜子、ねえ、聞いておくれ。


ここを君が目覚めたときはまだ夜は明けていないよ。


けれど、満月が君を迎えに来てくれるはずだ。



君が僕を求めてさみしくなるときもあるだろうけれど、そのときはこの鏡の底に来てはいけないよ。


僕は死んだわけでもないし、君が殺したわけでもない。


たがいに溶け合ったんだ。


合わさったんだ。


僕は小夜子の胸元に触れ、月の間に触れると、小夜子の身体は淡く溶け合っていた。



「やっと重みがとれたの」と小夜子は言う。


「そうだもの。君は抜け出せたんだ。これからはひとりで生きて行かなくちゃいけない」


僕らは合わさっていた。

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