サトガエリ



 今年も暑い夏がやってきた。気温は高く湿度も酷い、だる様とはこの事だ。年々夏の気温は上がり続け、梅雨明けと同時に猛暑が続く。一昔前には「冷夏」や「長梅雨」なんて話もあったそうだが、最近35度程度の気温で騒ぐ人間は、ほとんど居なくなってしまった。


 山に囲まれた盆地地区にある我が集落は、所謂過疎地域となっている。限界集落も幾つか抱えており、人口は加速度的に右下がり状態だと誰かが嘆いていた。夏はこの土地柄のせいで気温は平野部より高くなるし、冬には雪まで降る。多少の雪なら「風情」だなんだと言って楽しめるが、哀しい事に積雪は一番少ないときでも膝上辺りまで積もる。何しろ、この町に来るまでは山を3つは超えてこなければいけない。なんとか1両編成の電車は運行しているが、それでも時間帯を間違えれば、1時間以上待たされることもまま有る。やっとの思いで辿り着いたとしても特産や名物、はたまた秘湯が、温泉が……有るわけでなし。


 ただ、昔からある山奥の小さな小さな町なのだ。当然減るべくして人が減っただけの事なのだ。



 そんな人気ひとけのないこの町に今、夏の時期だけは人が沢山来る。


 


 元々、田舎地域で寂れていくしかない運命だったのだが、「」の如何いかにもな場所が多く点在した。山間にある唯一の駅前商店街にはシャッター街が。そこから少し歩けば、廃屋、廃墟は多数点在している。故に、そんな話はいくらでも量産されていく。


「あの町は、幽霊の方が多く住んでいる」

「あの町のシャッター街は深夜に店が開く」

「昼と夜で、住んでる人が入れ替わっている」

「幽霊の町」


 等々、数えだしたら枚挙にいとまがない。「人の口に戸は立てられぬ」とはよく言ったものだ。まして今は情報化時代。若い世代の者たちにとって、SNSは当たり前。インフルエンサーや、◯ーチューバーが、カメラ片手にそこで騒げば、あっという間に人だかりが出来た。そんな、今正に「ホット」な田舎に実家のある俺は、お盆だけは欠かさず実家に帰っている。先祖代々続く墓、お参りだけは欠かさない。今年も変わらず帰って来た。


 遠く電車を乗り継ぎ、駅前に着いてホッとする。「あぁ、なんだかんだ言っても俺もこの町の人間なんだな」と感慨にふける。久しぶりの感情に時間も忘れて駅の周りを散策してると、結構時間が経っているのに気がついた。そろそろ行くかと商店街に進んでいくと、懐かしい顔が出迎えてくれた。


「おう! 今年も帰って来たのかい?」

「はい。こればっかりは、必ずしないと」

「ははは。若い人はいいねぇ。今は何処に?」

「今は、都市部にいます」

「そうかい。今年も沢山、そっちから来てるよ」

「はは、みたいですね。動画でも結構有名になって来ましたしね」

「今度、その撮影でも覗いてみようかねぇ」

「あははは! 良いかもしれませんね。」


 そんな話しをしながら、シャッター街を歩いて行く。



 ――町に灯りは一つもない。


 必要ない。


 今が真夜中だとしても。


 ここは、過疎地の限界集落シャッター街。


 今年も、サトガエリで帰って来た。



 ――コトシハナンニンオドロカソウカ?



 

 ~完~

 


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