ショート・ストーリーズ
トム
カオ
――寒いな。毛布はどこに……。
そんな事を考えていると、小さなワンルームの部屋で、目の前に居る彼女は
「……ねぇ、私潔癖症ってわけでもないけどさ。この散らかりようは少しヤバイよ」
そう言いながらも彼女は動かす手を止める事なく、転がっていたペットボトルのシールを剥がし、キャップを取りながら部屋の隅に有るキッチンに向かう。
「分別もちゃんとしないといけないし、あ、もう、ここもじゃん」
流し台に纏めて置いてあったペットボトルも見つけ、「しょうがないなぁ」とぶつくさ愚痴をこぼしながらも、まるで流れ作業のようにそれらもキャップやシールを剥がして、シンクで水を流して洗っていく。そうしてプラゴミにそれらを綺麗に選別して放り込んでいくと、ついでとばかりにシンクに置いたコップや、カップ麺のゴミたちも纏めて洗い、シンク周りも片付けていく。
「もう、生ゴミはきちんと封をしておかないと、すぐに虫が湧いちゃうよ。……ほんとに祐希は面倒くさがりなんだから」
――それはまるで、一人暮らしの男の家に何度も訪ねてきた彼女が、部屋を見かねて掃除している。そんなシチュエーションの口調。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。既にぼんやりとした頭で、よく見えない視界で明るい方を見詰めていると、いつの間にか先程までの音は消え、不意に目の前に彼女の顔が現れた。
「……やっと全部片付いたよ」
そう言った彼女はニッコリと笑い、目を細めて俺の方に近づいてしゃがみ込む。
「祐希、これからは私がちゃんと身の回りのことはしてあげるからね。貴方は何も気にしなくて良いから。全部、私に委ねてくれるだけで……それだけでいいから」
そう言った彼女は俺の頬に両手を添えると、俺の顔を挟んだまま、徐ろに立ち上がった。
――ホント、祐希の顔って綺麗……。他の女と繋がった体の部分は要らないから、此処に置いていくね。
その声が遠くに聞こえ視界がぶれると、床に敷かれたマットレスには、俺と美樹の惨殺体が転がっている。俺の背には何本もの刃物が突き立てられ、それが貫通しているのか、美樹も血塗れで大きく目を見開いたまま絶命していた。
(あぁ……! そうだ! コイツは! この女は俺のストーカー!)
薄れていく意識の中、やっとの思いでそれを思い出したが、当然声に出来るはずもなく。揺れる視界のその先には、液体が入った大きな瓶が、もう光らない虚ろな目に入った。
――これからはずっと私の部屋に飾って上げる。祐希の顔は私だけの物……。
~Fin~
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