第55話 フィナーレ【語り手:2人】

11月10日。PM12:00。


【語り手:ガーベラ】

「えーと、これは持って帰るでしょ。これは要らない………」

 送別会を終えて、あたしとガザニアちゃんは、故郷への帰り支度をしていた。

 帰ったらガザニアちゃんはオルデノクライム家の当主になるから、別れ別れだ。

 グリューエン皇国の首都は遠い。

 けど『テレポート』で会いに行っちゃうもんね。

 あたしは黒の森シュバルツバルトを統べる当主としてアーデルベルク家に収まるし。

 当主の座は窮屈だけど、この町で結構好き勝手出来たから、いいかな。

 『テレポート』でいつでも訪問できるし。

 帰ったら、村に温泉を作るんだー。

 などと思いながら荷物の整理をしていたら、慌ただしい来客があった。


【語り手:ガザニア】

 私はイサナさんと別れを惜しんでいた。

 というかイサナさんから一つの魔道具を贈られたのだ。

「この指輪には『テレポート』の術が込められている。一度使うと1時間は使えないが問題なかろう。当主になっても修行しに来るといい」

「イサナさん………!ありがとうございます!」

「構わぬよ。お主の妹は『テレポート』が使えるのだしな」

「あ………そうですね」

 そんな話をしていると、オリーナさんが慌てた様子で床から現れた。

「大変大変、大変よー!町の人たちが暴れ回ってるんですって!」


【語り手:ガーベラ】

 あたしは駆け込んできたダンカンさんに話を聞いている所だった。

「町の人間が、暴走を始めて………目に入る人物全てに暴力をふるっているというか………大人でも子供でも見境なしなのです!ご助力を!すでに連絡のつく冒険者は住人の捕縛に動いています!」

 そんな事聞いたら、断れないじゃない?

 オリーナさんにガザニアちゃんへの伝令になってもらって、あたしは武装する。

 ほどなく、ガザニアちゃんも下りて来て、武装した。


【語り手:ガザニア】

「女神さまのお告げはこういう事だったのか」

 剣をポンと叩いて気合を入れる。

『精神剣』はまさにこういう事態に対処するべき戦技だ。

「原因は分かってるのか?」

「はい、この間真竜戦で、持ち帰っていらっしゃった赤い粉が、井戸水に混入されたようです」

「あれか………」

 影響を受けた身としては他人事ではない。

 空気中にまき散らされたのではないのが唯一の救いか。


【語り手:ガーベラ】

 この町の井戸って、全て同じ水源だよね………

「水源まで案内してくれることはできる?」

「はい、案内します」

「途中出会った町の人は、暴走してたら『ルーンロープ』で動けなくするから、毒消しを飲ませて欲しいんだけど?」

「冒険者ギルドに連絡して追加の人出を要請します………」

 ダンカンさんは、何か魔道具に向かってぶつぶつ言ってた。

 遠話の魔道具なのかな?興味があるなあ。

 そんな事言ってる場合じゃないか。


 ダンカンさんが水源まで案内してくれたけど、道中、暴走している人たちと戦闘になった。数が凄い。

 さすがに100人近い人たちに『ルーンロープ』は魔力切れになるから無理だよ。

 魔力回復薬を飲みながら―――あんまり回復しないからたくさん飲む必要がある上に苦い―――盗賊の技術で気絶戦闘していく。

 問題は興奮しすぎててなかなか気絶してくれないことかな

 頭にメロンみたいな血管が浮いてるんだもん、色んな意味で怖いよ。


【語り手:ガザニア】

 習っておいた「精神剣」は効果抜群だった。

 ただ、数が多すぎるので途中で魔力回復薬を飲む羽目になったが。

 苦くて嫌いなんだが………そんな事を言ってる場合じゃないな。

 私たちとダンカンさんは『フライト』で上空を飛んでいく事にしようと相談した。

 人々が同士討ちしているのを見て胸が痛んだが、早く元凶を何とかしないと増えていく一方だ。。


 水源へ飛んでいく途中であの凸凹コンビを発見した!

「こら!おまえたち!元凶だな!」

「「ひぇーっ!!」」

 すごい勢いで逃げていったが、今回は逃がさない!

「『ホーリーライト』!!」

 今回はアンデッドへのダメージ魔法としてではなく、目つぶしとして使った。

「「ギャーッ」」

 悶絶する凸凹コンビにガーベラの「ルーンロープ」が飛ぶ。

 捕まえた。


【語り手:ガーベラ】

 さーあ、捕まえたからには色々吐いてもらいましょうかー。

 具体的には『チャーム(魅了)』で吐かせる。

「私はあなたの友達です。あなた達は何をしたの?」

『チャーム』にかかった2人はぺらぺらとしゃべってくれた。

「友達か、友達なら仕方ないな。ここの水源にバーサーク化の薬をまいたんだ。体が普段の10倍に強化されるおまけつきだぜ。凄いだろう」

 さらに尋問して、バーサーク化の薬は、体に多大な負荷をかけること。

 効果時間の24時間を迎える頃には大概の人間は死んでいることが判明した。

「ダンカンさん………!」

「はい、大急ぎで解毒薬を飲ませていくよう指示します」

「これで、高位の悪魔への捧げものが完成するんだぜ―――」

「まさか、あなた達の上には魔女がいるの!?」

「水源で俺たちを待ってるんだぜ、友達」

「ダンカンさん、町をお任せします!私たちは魔女の元へ!」

「分かりました、冒険者ギルドの裏方を総動員して鎮静化させます」

「うん、お願い!行ってきます!」


【語り手:ガザニア】

 捕虜の凸凹コンビに聞いたところ、相手は以前倒した魔女の師匠だそうだ。

 悪魔の血発動なしで、倒す事ができればいいんだが。

 とにかく私たちは水源に向かう事に。

 途中小悪魔インプが邪魔して来たが鎧袖一触にする。

 水源といっても町に流れ込む湖の一角は一つだけ。

 そこを目指して私とガーベラは突き進んでいく。

 見つけた!


「そこのお前!町に薬を流し込むのを止めろ。さもなくば捕縛する!」

「はんっ!止めるものかね!手伝いの悪魔はもう召喚してあるんだよ!」


【語り手:ガーベラ】

 2人で魔女と悪魔の相手をすることになった。

 悪魔はゾンビのお仲間のようだったが湿って腐っているのではなくカサカサのミイラのようだった。

 賢魔か病魔かな?どっちにしてもこの瘴気の量からして多分中級………

 まずい、中級ならあたしたちに勝ち目はない。

 生涯最後の悪魔の血発動をやるしかないだろう。

 あたしはガザニアちゃんに念話で意思確認をする。

「やろう。ただ悪魔化に意識を持って行かれるなよ?」

「わかってるよ、2人で人間のままでいよう」

「じゃあ、よーい、どん!」

 あたしたちは黒いオーラを纏って、半魔となる。


【語り手:ガザニア】

 悪魔はガーベラに任せて、私は魔女の方に肉薄する。

 魔女は身体能力が低い事が多いので、私の方の適任だと思えたからだ。

 『上級:風属性:轟雷!』

 魔法か。私の手持ちの魔法では防げないが、黒いオーラが弾き散らす。

「なんだと………お前たち、半魔か!」

「そういうことだ」

 私は魔女の首を絞めて、証人の確保と同時に、無力化した。


【語り手:ガーベラ】

 う~ん、この中級悪魔さん、手ごわいよ?

 魔法の応酬でお互いがお互いの魔法を無力化する感じ。

 でも、赤い粉の製造はこいつがやってるんだろうし、倒さなきゃ。

 ガザニアちゃんがいてくれたら、早く片が付くのに………

 と、思っていたら、ガザニアちゃんが魔女を無力化してこっちに来てくれた。

「ガザニアちゃん、あいつ、腐敗の魔法ばっかり仕掛けてくる。『魔法個人結果樹から出ないでね』」

「ああ、わかった」

 そう言ってガザニアちゃんは、悪魔に突っ込んでいく。

 ちょっ、人の話、聞いてた?


【語り手:ガザニア】

 抗議の声がガーベラから聞こえてくるが、私にも考えがあるので無視だ。

 悪魔の『魔法個人結界』『物理個人結界』を『戦技:浸透撃』で突破する。

 体は脆かったらしく、悪魔はそれで消滅した。

 まあ、悪魔の血の発動の恩恵を受けていなければ無理だっただろうが。


 それから私とガーベラは、魔界の瘴気が体に入り込み、本格的な堕天を促してくる現象に耐えた。もうギリギリだ。

 将来、2度と悪魔の血の発動をする事はないだろう。


 冒険者ギルドに行く道すがら、MPが尽きるまで、住民から毒を抜いている。

 途中でダンカンさんに出会ったのだが、500人近くの犠牲者が出たらしい。

 私たちも、故郷に帰ってなくて良かったのかもしれない。

 ダンカンさんは魔女の捕縛に動いてくれた。


【語り手:ガーベラ】

 他の緊急事態は起こらず、あたしたちの荷物の整理ははかどった。

 今日はあたしたちの旅立ちの日だ。

 お別れ会―――オリーナさんに、イサナさん。エトリーナさんにダンカンさんが面子だった。あたしは魔法で、ガザニアちゃんはアイテムで、それぞれまた来る事ができるので、そんなに盛大なものはあたしとガザニアちゃんが断ったからだ。

 シュバルツバルトにも、テレポートでひとっとびである。

 見送りを受けながら、アーデルベルクの町に帰還した。

 盛大な歓迎を受けながら、あたしはアーデルベルク家の当主に就任した。


【語り手:ガザニア】

 故郷の帰還祭りが終わった頃、私は再度、荷造りをしていた。

 といっても大したものではない。

 愛着のある品と、テレポートのアイテムを持って行くだけだ。

 服などは侯爵家である向こうの家で、揃えて貰う事になっているのだ。

 次の日私は1人でオルデノクライム家に旅立つ。

 長い道のりだが、ガーベラについてきてもらう訳にはいかない。

 領民たちのほとんどが見送りに来てくれた。

 私にはそれで十分だ。


 わたしは長い道のりを旅して、オルデノクライム侯爵家の当主として認められた。

 忙しい合間を縫い、ガーベラやイサナさん、オリーナさんにも会いに行っている。


 歴代の使命を果たす事ができた。私はそれで満足である。


【語り手:ガーベラ】

 あたしは満足だよ。オルデノクライム家にもガザニアちゃんが連れていってくれたから、テレポートの範囲も広がったしね。

 ここだけの話、ガザニアちゃんがいなくなってすっごく寂しかったしね。

 あ、温泉は領内に作りました!大好評!


 あとガーベラ様じゃなくて領主様と言われるようになったよ。

 テレポートがあるから退屈はしないだろうけど、アーデルベルク家を切り盛りしていくのがあたしの使命である。

 魔法の研鑽はやめないけどね!


ガーベラ:というわけで、ばっははーい。

ガザニア:作者のノロノロ掲載に付き合ってくれてありがとうございます。


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新しく「帰還への道標2」を始めました。

苦心しながら3人称で書いております。

つたないですが、是非よろしく!


https://kakuyomu.jp/works/16818023212816346890/episodes/16818023212816864451

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2輪の花の修行日誌! フランチェスカ @francesca

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