第54話 プラチナクラスの試験は真竜!?【語り手:2人】

 11月04日。 PM12:00。

 【語り手:ガザニア】


 私はイサナさん相手にまた剣の稽古をしていた。

 またかと思うだろうが、今回はちょっと事情が違う。

 星読みの女神さまから、夢で私にもお告げがあったのだ。

 簡単に言うと

「人を傷を負わせずに無力化する剣技を身につけなさい」

 というお告げだった。

 身につけない場合、結構悲惨な事になるとほのめかされたので、私は慌てて訓練にいそしんでいるというわけだ。

 イサナさんは、それを覚えると私にもダメージが入るようになるぞ、と何故か嬉しそうに教えてくれることを了承してくれた。

 それで剣の稽古となった訳である。


 イサナさんは、また属性剣の時のように、憑依して見本を放ってくれた。

 おかげで私は「精神剣」をスピード習得する事ができた。

 精神剣とは、対象の精神力にダメージを与える剣だ。

 イサナさんやオリーナさんは精神で生きているからこれが効くのだ。

 普通の人は、精神力が0になっても気絶するだけなのでお告げ通りだ。

 正直、対ゴースト用にもうちょっと早く覚えるべきだったかもしれない。

 でもゴースト、今では6F以外に出ないしな………

 まあ、覚えられたんだ。役に立つ時が来るんだろう。


「お昼ご飯よー」

 オリーナさんが呼びに来たので、私はイサナさんに礼をし、帰ることにした。


「朝からの訓練で、お昼ご飯までに覚えたんだー?」

 ガーベラが聞いてくるので、イサナさんの憑依の話をする。

「なにそれ、すっごい」

「ああ、幽霊が師匠だとこんなメリットがあるんだな………といっても毎回してくれるわけじゃないぞ。急ぎだったり、習得がむずかしいときだけだ」

「うぃうぃ。分かってるよ。あのイサナさんだもんね」

 ガーベラがイサナさんをどう思っているか不明だが、まあそういう事だ。

 昼ご飯を食べ終わった私たちは、それぞれ読書をすることにした。

 ガーベラは魔道具のカタログ本。

 私は「剣豪大全」という古今東西の剣豪の紹介本だ。憧れる。


 そんな事をしていたら、オリーナさんから声がかかった。

「ダンカンさんがお見えよ~」

「おぉ、ダンカンさん、久しぶり」

 おあつらえ向きに私とガーベラは応接室で読書していたので、対面の席をダンカンさんに進める。彼は静かに腰かけた。

 オリーナさんがお茶とお菓子を運んできたので、私が扉を開ける。

 お忘れかもしれないが、幽霊は何か持っていたらそれごと壁を通る事はできない。

 私が扉を開けたので、オリーナさんは全員にお茶とお菓子を配る。

「「「ありがとうございます」」」

 

 お菓子をぱくつきながらガーベラがダンカンさんに聞く。

「今回はどんな指名依頼ですか?」

「いえ、指名依頼といいますか………昇級試験です」

「「えっ!?」」

「自覚がないかもしれませんが、あなたがたはもう国内でもトップクラスの冒険者なんですよ。亜竜を倒したのも、昇級を促すものでした」

「それでその………昇級試験は何をしたらいいの?」

「真竜の討伐です」

「ちょ、ちょっと待て!この辺に真竜がいるなんて聞いたこともありません!国外へ行けと!?」

「いえ、近くにいますよ」

「えっ?」

 私は思い当たらなかったがガーベラが口を開いた。

「まさか、クロノス大庭園の時を戻した時に現れるドラゴン?」

「その通りです。あの話を王都に送ったら王族や大商人がうるさくて………」

「乱獲で個体数が減ったんだろうに、欲深いな………」

「全くです、そのせいでおふたりの試験に嘴を挟んできまして………」

「やるしかないか………変更は受け付けないのでしょう?」

「そういうことです………お願いします」

「では、明日の朝開始します。ガーベラ、いいな?」

「いいよ。オリーナさん、あの龍。水―――というか氷?属性だよね?」

「そのはずよー。水属性は、火に弱く土に強い。でかばくだんの使いどころね」

「女神さまのお告げはこのためだったんだね」

 ダンカンさんに明日行くと告げると、ダンカンさんは報告のために帰って行った。

 あたしたちは武装のチェックや訓練―――ガザニアちゃんは剣の、あたしは今回メインになるだろう投擲の練習―――をして明日に備え、早々に眠りについた。


 11月05日。AM08:00。

 起きて身繕いをし、武装を整えて―――あのあとダンカンさんが素材回収用の魔道具を持って来てくれたので、それも持って、準備は完了だ。

 オリーナさんからオニギリをもらって、それを食べながらクロノス大庭園へ。

 こんなに呑気でいいのかと思うが、着くまではやることがない。


 クロノス大庭園に到着した。

 あの時と同じように、暦時計の時を限界まで巻き戻していく。

 最後の暦時計の時を巻き戻しきったと同時に、耳を覆わんばかりの咆哮が轟いた。

 それと同時に、一際大きな浮遊島の上からこっちに向かって氷のブレスが来た。

 ガーベラは、それをでかばくだんで迎え撃ち、器用にも『魔法個人結界×2』『物理個人結界×2』を唱えてよこした。

 なんでいきなりターゲッティングされてるんだ―――と思ったが違う。

 私たちの後ろを高速で駆け抜けていく身長が凸凹なコンビ。

 真竜の視線はそっちを向いていた。

「こら!おまえたち!何をした!」

「「ひいーっ!スミマセン」」

 凸凹コンビは抱えていたものを落として逃げ出した。

 落とした布の包みの口が開いて、赤い粉がのぞく。

 ドラゴンがこちらを向いているので追跡することはできないが、あれはあとで冒険者ギルドに提出しなくては。

 ああ、だが、何だか血がたぎる、戦って戦って戦い抜きたい気分だ。

 私の耳にはガーベラの声が届いておらず、「悪魔の血」・赤を発動させていることも気付いていなかった。

 さあ、ターゲットはこちらに飛んできた白い真竜だ。


 【語り手:ガーベラ】

 ちょっ!あの二人なんてもの落としていくのよ!

 これ多分精神に作用する劇薬だよ!

 こぼれた分を吸ったんだろう、ガザニアちゃんがおかしい。

 あたし?あたしはハンカチの端を頭の後ろで結んで即席マスクしてるよ!

 とりあえず、落としていった危険物は収納の腕輪にイン。

 うわわわわ、真竜がこっちに飛んでくる!この浮遊島崩れないよね。

 とりあえず『ウィークポイント』で、ガザニアちゃんが逆鱗の位置に気付いてくれることを祈る。あ、大丈夫みたいだね、狙う位置を変えてる。

 あたしは、ガザニアちゃんが足止めしてくれてる間に儀式魔法を唱える。

 結構時間と魔力を使うよ。

 時々飛んでくるブレスは、ガザニアちゃんを狙ってるらしく、あたしにはかすめる程度だから結界で弾く。

 けどガザニアちゃんは?

 そう思って目をやると、何と赤黒い翼が生えてて、飛んで回避してる。

 まずいよ、あたしもだけど、完全に悪魔になるまでギリギリだ。

 長引かせないで終わらせないと。


 儀式魔法が完成した。

「『儀式魔法:メテオストライク隕石招来』!!」

 隕石は、真竜の背中に直撃して、メリリッという嫌な音を立てた。

 真竜がうずくまるようにして、苦痛を発散しようと、ブレスを吹きまくる。

 あぶないなあ、もう。

 残りの魔力を温存する必要がある今、することは一つ。

 『フライト』で、宙を舞い、でかばくだんの大量投下!

 苦しむ真竜に決定打が入った。

 ガザニアちゃんが逆鱗を刺し貫いたのだ。

 最後のあがきとばかりに暴れる真竜にさらにでかばくだん大量投下。

 死んだかな?死んだよね?


 あたしは、真竜に執拗に剣を突き立てているガザニアちゃんに駆け寄ると、問答無用で汎用解毒薬アンチドーテを口に突っ込む。

 飲み込むと、2、3分してから、表情が普通に戻った。

 それと並行して「悪魔の血」が発動解除される。

 予想はしてたけど、薬に引っ張られて発動していたらしい。

「ガーベラ?私は何を………?」

「「悪魔の血」を発動させて暴れ回ってたよ」

「………変な匂いに釣られて、異様に気が高ぶったんだ」

「うん、凸凹コンビが落としていった袋から漏れてたんだよ。今は収納の腕輪の中にあるから大丈夫」

「あいつら………一体何者なんだ?」

「さぁ~?冒険者ギルドに任せようよ。それより素材の剥ぎ取りしよう?」

「あ?ああ………」


 こうしてあたしとガザニアちゃんはプラチナクラスになったのだった。

 この町に来た目的は果たされたね。

 シュバルツバルト黒の森に帰る準備をしなくちゃね。

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