第53話 亜竜討伐【語り手:ガーベラ】

 10月20日。PM16:00。


 あたしは「氷のでかばくだん」の材料を集めていた。

 

 でかばくだんとの材料の違いはこんな感じ。


~氷のでかばくだん(1個)の材料~

 氷力石(クロノス大庭園の天使がドロップ)………10個

 岩水晶(鬼の石切り場で生えている)………両手で抱えられるだけ

 導火線の蔓(イシファンの古森に自生)………1本

 アイスバーストシード(イシファンの古森に自生)………10個

 氷の花(イシファンの古森に自生)………10個

 備考:最上級魔法よりより高い威力の爆弾


 でかばくだんより素材がレアだから、頑張って集めないと。

 氷の魔法は使い勝手が悪いのが多いから、補わないとね。

 「氷力石」は今までのストックがある。

 「岩水晶」は切り出すのが疲れるだけで、たくさん生えている。

 導火線の蔓もたくさん生えてる。

 けど、アイスバーストシードと氷の花は見つかりにくいから、探し終わるのに昼から晩までかかっちゃった!

 でもこれだけあれば15個ぐらいは作れるはず!

 書城グリモワールに帰って調合だぁ!


 帰ったら、ガザニアちゃんが起きて待っててくれた。お説教付きで。

 確かに朝から晩までいなかったら、伝言もしなかったし心配するよね。

 素直に謝ったら許してくれたけど、今から徹夜で魔道具作成するって言ったらまた怒られた。明日は用事があるわけじゃないし朝寝したっていいじゃない。

「はぁ………何を言っても無駄なのは分かった………好きにしろ」

「ごめんね、ありがと。この「でかばくだん」「氷のでかばくだん」は女神さまのお告げがあって作ってるから急いでるんだよ」

「は………?」

「要約すると、高威力の炎の攻撃魔道具と、ついででいいから氷の攻撃魔道具も作っておけって。近々使う事になるからって」

「そ、そうなのか………しかし、女神さまってどの女神様だ」

「アステラ様」

「星読みの女神さまが、何故ガーベラにお告げを?」

「あたしも分からなかったから聞いたら、イザリヤ叔母様と縁があるんだって」

「なるほど、叔母様ならそれぐらいありそうだ………分かった。「今回に限って」小言を言うのは止めよう。今回だけだぞ」

「やたー!じゃあごはんを食べたら早速制作するね!前回のでかばくだん99個と違って、氷のでかばくだんは15個ぐらいに収めとくから、朝までに終わるよ」

「ああ、明日は起こさないから、ゆっくりやったらいい」

 あたしはガザニアちゃんにお礼を言って、食堂に急いだ。


「えーと氷力石は魔道具のすりこぎで粉々になるまで砕きますっと」

 岩水晶は調合専用の魔法を使って柔らかくして、ばくだんの形に整える。

「残り植物系統は、乾燥魔法を使って………導火線以外は、粉状になるまでゴリゴリ………っと。あとは、儀式魔法の結合の手順をおさらい………」

 こんな感じで1個1個作って行くよ。

 量産しようとすると失敗するから丁寧に1個づつね。

 ………失敗したことがあるのかって?あるよ、いっぱい。

 一番最近のは、出来上がったと思ったら即爆発した「でかばくだん」

 威力が低くなってたとはいえ、とっさに遠くに投げなかったら大怪我だったね。

 そういうのが、合成にはついて回るんだよねー。

 そういうわけで。

 朝方になって、ようやく15個を作成したあたしは、部屋に帰って眠りについた。


 そのまま次の日の朝まで眠り続けたあたしは、ガザニアちゃんに叩き起こされた。

「今日は冒険者ギルドに行く日だぞ!」

「ふえ?今日は何にもないんじゃなかった?」

「それは昨日だ!早く起きろ!」

 ふぇー!?

 あたしは慌てて飛び起きて準備を始めた。


  身繕いを整え、オリーナさんにオニギリをもらって、それを食べながら冒険者ギルドに向かう。

 エトリーナさんのカウンターは珍しく空いていた。

「いらっしゃい。ねえ、あなたたち、一度ドラゴンゾンビを倒したわよね」

「倒しましたが、何か問題でもありましたか?」

「ソレが倒せるならってことで、ちょっときつめの討伐依頼が来てるのよ」

「どんなのですか?」

「地属性のエレメンタルドラゴン。いわゆる亜竜。真竜ほどは強くないけど………」

「どっかで悪さしたの?」

「いいえ………ウロコとか骨とか血とか肉とかが目当ての貴族の依頼なの。今、たまたま「鬼の石切り場」の最奥に出現していてね………それを聞きつけたみたい」

「戦うだけじゃなくて素材の回収もして来いって事?」

「そうなの、頼める?」

「強者と戦うのは望む所なんだが………微妙だな」

「でもこれ、断ったら格下に回っちゃうんだよね」

「シルバーに回す事になるわね」

「それは、死人が出そうだ。仕方ない、引き受けようかガーベラ」

「いいよー。たぶん氷のでかばくだんってソレ対策だと思うし」

「地属性の亜竜………そういうことか」

 ゴースト以外のモンスターには大抵属性が付いていて、この竜の場合は地属性。

 地属性は水に弱く、風に強い。

 水属性の亜種である氷のでかばくだんが有効だという事だ。

「エトリーナさん、引き受けます。素材回収用の魔道具は貸し出してくれますか?」

「ありがとう!もちろん貸し出すわよ。依頼者にツケとくわ」

 エトリーナさんは貴族をひとしきりこき下ろしてから、思い出したかのように依頼料を口にした。素材を見込みで入れた額だったけど、今までのどんな依頼料より高かったとだけ言っておくね。


 しばらく歩いて「鬼の石切り場」についた。

「あたしが岩水晶を採取してた時も思ったんだけど、モンスターの密度が高いよね」

「そうだな、奥に亜竜なんか湧いたからだろう」

「竜って湧くの?」

「言葉の綾だ。異空間を通ってダンジョンに出現するらしい」

「いくーかん?」

「詳しい事は分かっていないそうだぞ」

「なーんだ」

「何を期待してたんだ………」


 あたしたちはそのままずんずん進んだ。

 最奥、他にモンスターがいなくなった場所にそいつはいた。

 クエスト票に書いてある通りの外見だから、亜竜なのは確かなんだろう。

 でも一般的な竜には見えない。

 そいつは、暗緑色のサイにたくさん鱗を生やし、角を大きくし、飛べるとは思えない小さな羽を生やしていた。

 そして、あたしたちを見つけるや否や襲いかかってきた。

 ピリピリとした刺激物の味が、空気に混ざる。

 これ、前シルバーの凸凹コンビと会った後の、ハーピーの女王戦でも嗅いだ………

 ええい、それは後回しだ!

「ガザニアちゃん、最初の一撃はもらっていい?」

「ああ、それを追いかけて追撃を入れる」

「よーし」

 あたしは氷のでかばくだんを構えて―――投げる。

 コントロールには自信があるよ。

 頭部に命中した、氷のでかばくだんはぶわっと頭部を氷で包み込み、窒息させる。

 そしてその後、衝撃を与えながら粉々に砕け散る。

 サイ型亜竜は衝撃でクラクラしているようで、首をフラフラと振っている。

 そこへガザニアちゃんが突っ込んだ。

 使う戦技は『浸透撃』

 サイ型亜竜の分厚い装甲を無視してダメージを与えられる。

 そのダメージで正気に戻ったところをまた氷のでかばくだんでクラッシュさせる。

 戦闘は、終始あたしたちの有利に進んだ。

「ラストぉ!」

 あたしは最後の氷のでかばくだんを投げる。狙いたがわず頭にヒット!

 氷が砕け、フラフラしているサイ型亜竜にガザニアちゃんがとどめを刺す。

 戦闘終了だ。


 戦利品をはぎ取り、魔法のバッグに入れながら、あたしは戦闘前に嗅いだピリピリしたニオイについてガザニアちゃんに報告する。

「なに?だから最初から凶暴だったのか!?」

「わからないけど報告はしておいた方がいいかなって」

「そうだな、エトリーナさんに報告はしておこう」


 あたしとガザニアちゃんは、冒険者ギルドに報告と納品を済ませ、書城グリモワールに帰った。

 ちなみに報酬の額は思ってたよりも多かった。

 戦術の勝利だねっ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る