第52話 ハーピーの女王様【語り手:ガザニア】

 10月10日。PM12:00。


 私は新しい戦技を覚えるため、イサナさんに師事していた。

 ガーベラは何やら「でかばくだん」を99個作って腕輪に収納しておく!

 と言って材料集めにいそしんでいる。

 最初から99個作れる材料もあるそうで、後は足りない物を集めればいいとか。

 そんなに必要か?まあ、ガーベラにも何か考えがあるんだろう。

 なので、ガーベラは好きにさせておいて私も好きにすることにした。


 覚える戦技はは地撃、氷撃、炎撃、風撃、の4つだ。合わせて属性剣という。


 私は回復魔法と神聖魔法しか使えない。

 なので、ガーベラの負担を軽減する目的で覚えることにしたのだ。

 だが難しい………私は属性のぞの字も出せていない。

「このままだと無理だな」

「イサナさん!?」

 抗議するように呼んだ私に、イサナさんが冷静に答える。

「このままだと、って事だ。お前は今まで属性魔法を使った事がないんだから当然だ。今からお前に憑依して技を使うから体で覚えろ!」

 ひんやりとしたものが背中から体内に侵入してくる感覚。

 寒気のする感覚だったがこれが憑依なのだろう。

 私は全身の力を抜いて、抵抗しないようにする。

 すると、体がひとりでに動くようになった。かなり気持ち悪い。

(地撃・氷撃・炎撃・風撃を順番にやって見せるからな!)

 頭の中に直接声が響く。

 そして体が勝手に動き、見事な技の乱舞が目の前で展開された。

(イサナさん、もう少し………もう少しで何かつかめる気がする!)

(ならばもう一度行くぞ!)

 再び繰り返される属性剣。

 ………なんとなくつかめた気がする。

 いや、つかめた。


「よし、憑依を解いたぞ、感覚が薄れないうちに動いてみろ」

「はい!」

 私は地撃を放った。地面に裂け目と10本近い大きな棘が作られる。

 次に氷撃を放った………というより刀身を絶対零度に変化させた。

 次は炎撃だ。2m近い炎の剣を具現化させる。

 刀身が溶けるはずの温度でも刀身は溶けない。

 最後に風撃………触れると切りさかれる乱気流を剣から放つ。

 

 全部成功した!

 私は調子に乗って連撃する―――と視界がふらりと傾いた。

「こらこら、調子に乗るな。MPを消費するんだからな」

「あ………」

 そうだ、戦技はMP消費があるんだった。

「すみません、イサナさん。後は後日にします」

「あぁ、私はここに来ればいつでも会えるからな」

「ありがとうございます」


 私はMP切れが近い証の眩暈を感じつつ、階下に下りていく。

 ガーベラはどうも大広間に詰めているようだ。

 集中を邪魔しちゃ悪いかな?

 なので、食事までの間、ベッドに寝転んで休憩していよう。

 

 うたた寝していたら、夕食に呼ばれた。

 ガーベラも、作業を切り上げてやってきた。

「ガーベラ、作業は順調か?」

「うん。本命はもう作り終わってて、今は亜種を設計中」

「亜種?」

 わたしが小首をかしげると、ガーベラ曰く。

「『氷のでかばくだん』っていうの」

「お前の命名だろう、それは?」

「だってあたしが開発した亜種だし」

「そうか………(呆)投げるとどうなるんだ?」

「んっとね、投げた場所が凍り付いて、ついでに氷の棘が大量に飛び散るの。投げた本人の周辺は安全圏。『最上級:水属性:アイスコフィン』と似たような効果かな」

「そうか………『でかばくだん』の氷版だな?」

「そーゆー風に苦労して設計してる所なんだよ!」

「………はいはい、明日は冒険者ギルドなんだから程々にしておけよ?」

「わかってるよ、そういうガザニアちゃんこそ、成果はどうだったの?」

 私はガーベラに属性剣をマスターした話をした。

「すごーい。あたしが魔力切れの時はお願いね」

「剣士の枠は出てないと思うが………まあ、任されよう」

「うんっ、頼りになるっ」

 私はガーベラの賞賛をくすぐったく思いつつ、食事をすませる。

 そして2人でオリーナさんにごちそうさまを言ったのち、また分かれた。

 ガーベラがいつベッドに入ったのかは私は知らない。


 10月11日。AM08:00。


 私たちは時間通りに目を覚まして、身繕いを整えた。

 もう慣れたものだ。

 いつも通り、オリーナさんにオニギリを貰って、冒険者ギルドへの道を行く。


 冒険者ギルドに辿り着いたが、私たちはクエスト掲示板には行かない。

 ゴールドランクの冒険者が私たちしかいないので、クエスト票はエトリーナさんが管理する事になったのだ。

 今、ゴールドランク指定の冒険は、全部私たち指定の仕事になるという事だ。


 エトリーナさんの手が埋まっていたので待つ事しばし。

 空いたカウンターで私たちは、クエストがないか聞いていた。

「うーん、そうね、緊急の依頼はこれよ「ハーピーの女王種を倒せ」」

「ハーピィというとラグザの古戦場の強敵モンスターですね」

「今のあたしたちには大して怖くないよね。女王種ができるとどうなるのー?」

「ハーピィが徒党を組むのよ。能力も上がるようで、シルバーランクでは難しい相手ね。全く相手にならない訳ではないんだけど、あなた達に頼んだ方が無難かなって」

「なるほど、私は構わないな。どうする、ガーベラ?」

「OKだよー。ハーピィは属性が風だから、でかばくだんは出番がなさそうだけど」

「でか………?」

「あぁ、なんでもないんだ。引き受けるよ」

「そう?じゃ、クエスト票を作って………受領印、と。はいこれ」

「承りましたー!」


「さて、このままラグザの古戦場に行くか」

「いえすまむ!」

「そのノリやめてくれ」

 なんだかんだと言いながら、私たちはラグザの古戦場のゲートをくぐる。

 フェアリー族が抗争をやめたラグザの古戦場の空気は静謐に満ちていた。

 だが、森の奥から多数の気配がする。

 わたしたちはその気配の方へ進んでいった。


「「助けてくれぇー!!」」

 情けない声に膝が砕けそうになったが、そういう訳にもいかない。

 走ってきた2人の男性―――装備からして戦士―――を後ろにかばうと、十数匹のハーピィがそれを追って飛んできた。

「『風撃』!!」

「えーと、ハーピィが苦手な属性は地だから………『上級:地属性魔法:ロックフォール』!!」

 『風撃』はハーピィたちを刃の乱気流に巻き込み『ロックフォール』は大岩でハーピィ達を地面に縫い留める。

 確かに多少能力が上がっているようだが、あっさりとした勝利だった。


 で、だが。

「「ありがとうございますぅー!!」」

 長身とチビの凸凹コンビな2人は、土下座しそうなぐらい頭を下げてきた。

「同じ冒険者なんですからそう卑屈にならなくても………」

「そうそう、次は自分の実力と相談してチャレンジするんだよ」

「「そうしますぅー!!」」

 2人の戦士は、顔を上げると―――顔は平凡だがシルバーのタグが見えた―――脱兎のごとく逃げ出した。

「なんかあるのかな………?」

「さぁ?」


 2人が逃げ出した理由はすぐに分かった。

 ラグザの古戦場の奥に進むと、ハーピィ達がバーサーク状態なのだ。

「このニオイ………舌にもピリピリ来る。獣を凶暴化させる効果があるかも」

 ガーベラが分析する。信用していいだろう。

「あの二人か………故意、という感じには見えなかったが」

「そうかな?一応後で報告しておいた方がいいだろうねぇ」

 それを確認した後は、散発的に襲って来るハーピィ達を退けて奥に進む。

 すると開けた場所に出た。


 四角い、森に囲まれた空間で、最奥に女王らしい長い真紅の紙を振り乱して狂乱する美女がいた。普通のハーピィ達より2回りは大きい。

 私たちは、さっきと同じ戦法を取った。

 『風撃』『ロックフォール』のコンボだ。

 効くのは確認済みだ。

 だが、一撃では沈まなかった。女王の間近である補正だろう。

 反撃で、多少切り傷や擦り傷を負ったが、それは大した事はない。

 ヒヤッとさせられたのは女王の『パニックボイス』だった。

 混乱の効果と共にHPにダメージが入る、凶悪なスキルである。

 だが、私たちは効果に抵抗し、混乱はしなかった。

 そうなるとさっきのコンボをもう一度で、取り巻きのハーピィ達は終わりだ。

 もう一度『パニックボイス』が来る前に、私の真空撃で女王のカタもついた。


 女王の翼を証拠としてもぎ取り、冒険者ギルドに帰る。

 エトリーナさんの「お疲れ様」の言葉と共に終了印も貰った。

 ただ、気になるのは、逃走してきた2人組だ。

 エトリーナさんはそんな凸凹コンビは知らないという。

 まあ、今回たまたま組んでいただけで、普段はバラバラなら凡庸な顔なら分からない可能性もある、ということだったが。

 気を付けた方がいいのだろうか?

 今は気にしないことにしておく。


 私たちは書城グリモワールに帰るのであった。

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