第51話 時は乱れて【語り手:ガーベラ】
9月26日。PM12:00。
あたしは魔道具の材料を取りに、久しぶりにイシファンの古森に来ていた。
それというのも、数を揃えておきたいアイテムがあるからだ。
たくさん採取するので収納のバックパック(30種類、1種類につき99個まで)を作って持って来た。叔母様からもらった収納の腕輪のようにスマートにすぐ手元に取り出せるわけじゃないけど、収納するだけならこっちの方が優れている
作りたいものは「でかばくだん」―――名前がなかったのであたしが名付けた。
どんなアイテムか分かりやすくていいでしょ?
最上級魔法よりより高い威力の爆弾、もはや兵器だね。
ちなみにオリーナさんのオリジナルレシピだ。
レシピは―――
~でかばくだん(1個)の材料~
火力石(クロノス大庭園の天使がドロップ)………10個
岩水晶(鬼の石切り場に生えている)………両手で抱えられるだけ
導火線の蔓(イシファンの古森に自生)………1本
バーストシード(イシファンの古森に自生)………10個
華燃えの花(イシファンの古森に自生)………10個
火力石は日々の訓練で、大量に集まってるから―――でかばくだん100個分ぐらい?―――今回は採取しなくていい。
岩水晶は、鬼の石切り場で大量に切り出してきた。
かなりの力仕事だけどがんばったよ?魔法でだけど。
残りはイシファンの古森に自生してる材料たち。
夜遅くなるまで―――ガザニアちゃんとオリーナさんには遅くなると言ってある―――採取に励んで、大量にゲットする。
結局朝早くに書城グリモワールに帰って、ベッドに入った。
9月27日。PM14:00。
あたしが昼を回って起きだしてくると、丁度ガザニアちゃんが寝室に入ってきた。
「おはよう、昼食は取ってあるが、食べるか?」
「食べるー。その後でかばくだんを作るー」
「………そんなに集中するほど高威力なのか、それは?」
「うん、『メテオ(隕石)』よりかは低いかな、ぐらい」
「それはすごいな、儀式魔法でないと比べられないのか………根を詰めるなよ?」
「大丈夫、一気には作らないよ。今日は第一号の完成を目指す。明日は冒険者ギルドに行く日だもんね。ちゃんと寝るよ」
「分かっているならいい、たまに実験になるとお前は寝食を忘れるからな」
えー。そんな事言われるぐらい、あたし根詰めてるかなぁー。
身に覚えは………あぁ、あるわー。
とりあえずてへっと笑って誤魔化しておいた。
ガザニアちゃんが半目になる。
いいじゃない、ちょっとしたお茶目だよう。
そのあとお昼ご飯(寝起きだから朝ごはん?)を食べて、いざ魔道具作成!
1個目、ちゅどーん!
大広間とあたしはすすだらけになりました。
火力が弱かったのがせめてもの救いだね。
あたしの安否を気遣って来てくれたガザニアちゃんは頭を抱えてました。
2個目、ずがーん!!
あたしの生命力(HP)と大広間の壁のタイルが結構ダメージを受けました。
これは、安定化の工程をもっと念入りにやらないとダメかなあ。
火力もまだまだ弱いし………
ちなみに律儀に駆けつけてくれたガザニアちゃんは、あたしに回復魔法をかけて去っていった。何を言っても無駄だと思ったみたい。
3個目、てれててってれー。完成。
早速『最上階:無属性魔法:上位鑑定』を使う。
もちろん、失敗作じゃないか確認するためだよ。
結果は成功!見た目は黒いリンゴみたいな感じに仕上がった。
ひとしきりその場で飛び跳ねて、達成感をかみしめた後、気を落ち着ける。
で、すすだらけの自分と大広間に『ウォッシュ』『リペア』をかけて、腕輪に「でかばくだん」を収納したら、着替えてベッドにダイブ!
おやすみなさいー。
9月28日。AM08:00。
「ガーベラ!起きろ!ちゃんと寝たんだろう!?」
「うーにゃー。ちゃんと寝たから起きるよう」
「よし。それで………でかばくだんとやらは完成したのか?」
「うん、ばっちり。まだ1個だけだけど、どこかで実験したいな」
「クエスト中に機会があるといいな。さあ、準備するぞ」
あたしたちは身繕いをして、オリーナさんのオニギリを持って書城グリモワールから出発した。
いつも通り結構な距離を歩いて、冒険者ギルドに到着する。
あちこちのアクセスが悪いのが、書城グリモワールを拠点にしてる事の、唯一のデメリットかもしれない。
冒険者ギルドに入ると、エトリーナさんが丁度空いた所だった。
あたしたちを見ると声をかけてくる。
「丁度良かった、急ぎじゃないんだけどゴールドランクの冒険者でないとできない依頼があるの。受けてみない?」
「どういう依頼ですか?」
「クロノス大庭園の暦時計の調査よ。ああ、そんな顔しなくても全部のパターンを試せとか無茶振りはしないから安心して」
「え、じゃあどんな調査なの?」
「暦時計を全部限界まで巻き戻す、逆に限界まで進める、全ての暦時計をバラバラの時間にセットする、の3種類を試して欲しいという事よ。依頼人は王都の偉い学者さんね。どうする、受ける?」
「面白そうだね、あたしは受けたいな。ガザニアちゃんはどう」
「興味深いな、私も賛成だ」
「そう!助かるわ。じゃあクエスト票を作って………受領印!はい、持って行って」
「「行ってきます」」
PM12:00
クロノス大庭園のゲートから中に入る。
「まずは片っ端から暦時計を巻き戻らなくなるまで戻したらいいんだよね?」
「クエスト票にはそう書いてあるな」
「じゃあ早速!」
「マップに暦時計の場所はメモしてあるから、最短距離で行こう」
「おー!」
それで全ての暦時計を巻き戻した結果―――
マップが変化するのは想定内。
だけど、何でドラゴンがいるの!?
「………あっ」
「そうだよな………」
あれ、オリーナさんが幽霊化する原因になったドラゴン!
「てゆーことは、あれ、ダンジョンの外にも出れるんだろうね」
「この状態で外に出たら、今の時代に出るんだろうか?」
「多分………」
絶対ギルドには報告しておかないと。
あたしたちは、ドラゴンの視界に入らないように気をつけつつ、ゲートまで戻る。
ダンジョン内の変化は外には影響しないので現在に出れるはずだ。
無事に出れたので、また入る。
すると、いつものクロノス大庭園の風景に戻っていた。
「次は………限界まで進めて回るんだよね」
「そうだな、何だか嫌な予感がするが………」
「さっきのアレがアレだったからねえ」
そこはかとなく不安を覚えつつ、お仕事なので針を限界まで進めて回る。
すると―――
浮島の配置が変わったのはこの際どうでもいい。
問題は、クロノス大庭園がガラガラと、端の方から崩れ出した事だ。
悪夢で見る、世界の終わりみたいな光景だった。
「ガーベラ!『フライト(飛行)』!浮島を進んでたんじゃ間に合わない」
思わず見入っていたあたしは、ガザニアちゃんの言葉で我に返った。
そうだよ、逃げなきゃ!
本能が復活して警鐘を鳴らしたので、あたしは急いで呪文を唱える。
「『中級:無属性魔法:フライト 範囲拡大×2 増速×MAX』!!」
ぶっ飛ぶ視界。魔法の制御を失いそうになるのを頑張って制御して、後ろを振り返らずにあたしたちはゲートに突っ込んだ。
「はぁ………なんとかなったな」
「何とかなったねえ………」
「思っていたよりとんでもないクエストだな………」
「最後は全部バラバラの位置に針を合わせるんだっけ?」
「最後ぐらいは平穏にすんで欲しいものだな」
「同感」
これで最後と呪文のように頭で繰り返しつつ、ゲートをくぐってクロノス大庭園に戻ったあたしたちは作業を開始する。
1時間後には全ての針をバラバラにする事ができた。
完了と同時に、ぐにゃりといったん歪んで、すぐ元に戻った視界。
何も変わらない………いや、あちこちでモンスターの機械の天使が沸き上がってきている。いままでにない多さなのと、機械の鎧が白から黒になっている。
しかも動きがやけに機敏だ、あっという間に囲まれてしまった。
「ガーベラ、ゲートの方へ突破するぞ」
「………了解。あ、それなら強力な一発を………ね!」
あたしは腕輪から取り出した「でかばくだん1号」をゲートへの道を邪魔している機械の天使(黒)に投げつける。
どっかーん!!!!!
耳がおかしくなりそうな音と共に包囲網に大穴が開く。
あたしたちはまた『フライト』全速力で、その場から逃げ出したのだった。
ゲートから戻って来たあたしたち。
「………今度もロクな事にならなかったな」
「まあ、でも何とかなったねえ。学者さんってこの結果から何が分かるんだろう?」
「さあな、聞いてみたい気もするが」
「んじゃー、報告して、終了印貰って書城グリモワールに帰ろう!」
「ああ、そうしよう」
あたしたちは冒険者ギルドで報告し―――エトリーナさんが目を白黒させていた―――終了印をクエスト票に押してもらい、書城グリモワールに帰還した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます