第二章 友よ、大志を抱け
エピローグ:異世界の中の蛙現代を知らず
約二年前。この世界に未曽有の危機が訪れた。
突然現れた正体不明の怪物に、武器も何も持たない一般人はすぐさま蹂躙され、人間の死体が量産された。
怪物の鳴き声が聞こえた。男の叫ぶ声も聞こえた。子供が言葉も成さずに泣く声も聞こえた。
一日目はまさに地獄だった。
だが、それと同時に絶望の中に希望が生まれた。
我々人類は、力を得た。
「だが非情かな。その中には悪い人もいたんだ」
「ひじょー?」
「あぁ、えっとね……悲しいことって意味」
「ふぅん。じゃあパパがその『すてーたす』って力をもらったのもひじょーだね!」
「う、うぅ~ん。それだとパパが悪いやつってことになっちゃうけど」
「パパ悪い人!だってりんのプリン食べちゃったもん!」
「うっ、それはほんとにごめんよぉ~。いっぱいプリン買ってきてあげたじゃないか~」
「それはそれなの!」
「ふふっ、確かにそれは
「ちょ!ママも鈴の味方……ってそうだよな~、完全に悪いのパパの方だもんなぁ~」
だが、その力を正しく使う者もいた。
世界で、その力を悪のために、そして正義のために扱う人。
そして、強大な魔物。
世界のパワーバランスはその三つに分割された。
「でもね、鈴。パパは間違いなくこの世界の中で一番活躍してるのよ」
「え、でもパパ弱いじゃん」
「ぐっ!」
「りん知ってるよ。今も壁の外で『かいおにいちゃん』たちが戦ってるの。その人たちのおかげでりんたちは安全に過ごせてるんだって」
現在は、闇の勢力は息をひそめているが、誰もが確信している。きっと彼らは隠れて力をつけている。ならば我々もやることは一つだけだ。
「じゃあこのおうちを作ったのは誰?」
「パパ」
「あの大きな壁を作ったのは?」
「それもパパ」
「じゃあ、今私たちが安全に過ごせているのはー?」
「パパー!」
「うおっと、急に来られても困るよ。…………大きくなったなぁ」
人類は『ステータス』という力を得た。
もちろん、それは万人に等しくではなく、間違いなく人を選ぶ力だ。
だが、それは怪物で溢れたこの世界の中で生まれた希望だ。
少しずつ、だが確実に、希望は広がりつ続けている。
「…………え……え??えーっと…………もしかして実は十年ほど時間経ってたってオチ?」
「ち……がうとは言い切れないね、あれ見たら。もしかして私たち、浦島太郎?」
「浦島太郎…………って結局何年経ってたんだっけか」
「え?…………何年だっけ」
まぁそんなことはどうでもいいか。
「とりあえず、私はこっちだから」
「お、おう、じゃあな。また半年後、この場所で」
「うん、じゃあね。……他の女性に惚れないでね」
「ハッ、こんな可愛い彼女がいて誰が惚れるか」
「ん、それじゃあ可愛い彼女からのプレゼント」
そう言って、彼女は俺にまるで挨拶をするかのように唇に触れるだけのキスをする。すぐさま離れ、彼女の顔が見えるが不思議なほどその表情に変化はない。これほど恥ずかしいことをしたというのに。
だが俺は知っている。彼女は表情にでないだけでこの眼帯を外しじっくりと観察すればその耳がちゃんと赤くなっているのが分かることを。
「保険ってやつだよ」
「なるほど、今俺はお預けを食らっているのか。確かに、この状態じゃ
そう言うと、彼女―――
最近は、なんだか表情が変わることが多くなってきたように思える。もちろん、俺としても無表情よりかは笑顔の方が嬉しくなるというものだが、無表情なりに萌えるものもある。
「うーん、相手を好きになるとその全てが愛しく思えてくるなぁ」
「恋って素晴らしいね」
そんな会話を最後に、俺たちの道は違えた。
だけど、きっとすぐつながるだろう。星の導きもそう言っているから間違いない。
「運命星、『ザイン』と『セナ』が一度別れ、速攻でまた隣を並び道を歩む。その道は光が消えるまで続くに違いない」
誰もいなくなった山の中腹で一人、眼帯越しに明るい天を見上げて小さく呟いた。
「……………………さて、と」
…………ちらり。
ちらちらり。
「この光景は予想していなかったなぁ。二年、二年でいいんだよな?これガチのマジで浦島太郎状態になっていないよな?」
浩哉が何度も自分に言い聞かせる。
「(いいですか、落ち着いて聞いてください。あなたが寝ている間に魔物にぶち壊されてあのテレビや夢でみた凄惨な光景から、なぜか二年で完全に町並みは復活し一軒家が立ち並ぶ住宅街に公園で仲良く遊ぶ子供連れの親子が見えるくらいには復旧しましたよ…………うん、いったん落ち着こう)」
そして極めつけは……
「(なんだよあの防壁!?時代錯誤にもほどがあるだろあんなの!なんで現代の住宅街にあんな異世界漫画よろしくのまるで魔物の侵入を阻むような壁が建てられてるんだよ!)」
しかも絶対に二年で完成しなさそうな規模でウケる……ってウケてる場合じゃない!
「と、ともかく、ここは地元。知っている人も少なからずいるだろう。友達が少ないと噂の浩哉くんだけど嫌われてたわけじゃない。中学の時の誰かを見つけて問いただしに行くとするか」
直接櫂を問いただしに行こうとしたが、占い結果なぜかここにいないらしい。
そして最後の最後に。
「あの遠目に見える巨大な穴は……取り敢えず無視かな」
壁の外のかなり遠くに、地表にぽっかりと開いた馬鹿でかい穴が見えるが、それは現時点では俺のキャパオーバーのため放置することにした。
後々嫌でも知ることになるだろうし、とにかく今はやることを決めよう。
「第一目標は中学のやつらとエンカウントして事情を聞く……いや待てよ?俺はあいつらの家なんか知らんし、なら知ってるやつの家……少ねぇ俺の他の人の家の場所の記憶。他人に興味がない弊害きたなこれ」
となると、もはや俺の行く場所は一択に絞られた。
「櫂の家、取り敢えず行ってみるか」
目標を定めた俺は、とにかく足を前に進めるのだった。
―――――――――――――――――――――――――
あとがき。
どもども、日々を充実して過ごしている桜庭です。
ようやく、ようやくですよ。一年以上の月日が経ちようやく俺の書きたいと思っていた部分に入れましたよ!これでやっと「現代ファンタジー」名乗れますよ。今まではただの異世界転移モノだったという自覚はあります。これも全て展開を書きながら考えている俺が悪い。
と、いうわけですがまだこれから直接町へ乗り込もうとはなりません。まだそれまでに数話挟みます。……え?と思った方もいらっしゃるでしょう。文句は過去の俺に感想付きで言ってください。現代の俺は受け付けておりませぬのでご了承くださいな。
さて、またいつか更新される日を別に待たなくても良いですが、気が向いたときにまた読んでくださると幸いです。
レベル弱者、実は結構最強寄り―――死にたくないので逃げるために素早さ極振りを敢行する――― 桜庭古達 @Kotastu12345
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