第8話


 自分の頬に、冷たいものが流れていると気付いた時、ふわりと暖かいものに包まれる。それが、ラファエルだと知るのに、時間が掛かった。




「……っ、ちょっと、ラファ……」



「ララが酷いこと言うから。」



「酷いことなんて……。」



「ララ以外の他の人とお似合いなんて、酷い以外の何者でもないよ。」



「だって……!」




 ラファエルは、抱きしめていた力を緩めると、私の顔を覗き込む。



「ねぇ、期待してもいいってこと?」



「期待って……。」



「ララが僕と同じ気持ちだってこと。」



「そんな訳……。」



「ずっと好きだよ。ララだけ、ずっと好きだった。」




 幼い頃から、聞きたかった言葉。



 どくどくどくどく……。私の早すぎる鼓動は、治まらない。






◇◇◇◇



 私の涙が落ち着くのを、ラファエルはのんびりと待ってくれた。そして、隣に座るとゆっくりとこれまでのことを教えてくれた。




「隣国に留学に行くのは本当。ララに長生きしてもらうためにね。」



「へ?」



「隣国では、獣人の種族に違いがあっても、寿命は殆ど変わらないんだ。それだけ医療の研究が進んでいるんだ。」



 隣国では、小型動物の獣人は、定期的に服薬することで寿命を長くしているという。



「じゃあ、ブリトニーは……?」



「彼女には、リス獣人の恋人がいるんだ。……今日だって彼と一緒だったんだけどね。」



「え?!」



 彼は小柄だから、見えづらかったのかな、とラファエルは笑った。そして、今日は留学の為の手続きに役所にいたのだと説明した。



「彼女と二人っきりになったことは一度もないよ。いつも彼が一緒だった。……ララ?」



「……っ、私、勘違いして恥ずかしい。」


 ラファエルは嬉しそうに目を細めると、私の頭を撫でた。



「妬いてくれたんだよね?」



「うっ……。」



 ラファエルは暫く私を揶揄った後、話を続けた。




「……ブリトニーは、僕と同じ目標があったんだ。」



「目標……。」



「うん。リス獣人も鼠獣人と同じように、寿命が短いだろう。だから、隣国のようにどの種族も同じくらいの寿命にしたいって。」



「そうだったの……。」



「ブリトニーの家系は、政治家が多いから、ブリトニーはその伝手を使って、僕たちの国に隣国の医療や薬を取り入れられるようにするつもりなんだ。彼女は、そんな手続きや、権利関係を解決するために、隣国に行く。僕は、医薬品の研究の為に隣国に行く。」



「そう……。」



「ララ?」



「ううん。ラファエル、色々と考えてくれてありがとう。お別れするのは寂しいけれど、こっちで応援しているからね。」



 私は、何とか涙を堪えて、ラファエルに笑顔を見せた。




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