早すぎる鼓動。
たまこ
第1話
それは、幼い頃の、苦い記憶。
「ララ。……あのね、鼠獣人は他の獣人と違って、長くは生きられないの。」
「だからこそ、短い人生の中でも思いっきり楽しんで生きてほしいんだ。」
私を抱きしめながら、辛そうに囁くのは、私を深く愛してくれている両親。二人の言葉は、幼い私にも理解できた。理解できたと同時に、私の心を悲しみが支配した。……それは長く生きられないからではない。
「それじゃあ、わたしはラファエルといっしょにはいられないの?」
◇◇◇◇
私たちの国では、多くの種族の獣人と人間が共存している。獣人、と言っても、姿形は人間に近く、人間と違う所と言えば、耳がその動物の形をしていること、尻尾がついていること、くらい。私のような鼠獣人は小柄なことが多いので、多少は動物の特徴が現れるようだ。後は性格が、その動物らしさを表している、と言われている。
私の親友で、猫獣人のエイミーは、気まぐれで警戒心が強いけど、慣れた相手には甘えん坊な性格だ。鼠獣人の私は、落ち着きがなくせっかち、小心者で、鼠獣人らしい性格だとよく揶揄われる。
そして、人間と獣人の最大の違いは……。
「ララ、もうすぐ卒業だけど本当にいいの?」
「エイミー……。」
「ラファエルと話した方が良いんじゃない?」
私がふるふると首を振るのを見て、エイミーは悲しそうに目を伏せたがそれ以上何も言わなかった。
私の幼馴染のラファエル。ずっとずっと、大好きで堪らないけれど、私はラファエルと同じ時を生きることは出来ない。
◇◇◇◇
人間と獣人の最大の違い。それは寿命だ。
これでも昔よりは改善していると、両親は言った。それでもやはり、小型動物の種族の獣人は短命だ。逆に、大型動物の種族の獣人は、寿命が長いことが多い。ラファエルのような象獣人は、人間と同じくらい、もしくはそれ以上に長生きするようだ。
小型動物の獣人の心音は早く、大型動物の獣人の心音は遅い。獣人が生涯奏でる心音数は、種族が違っても同じであり、それはつまり、小型動物の獣人と大型動物の獣人は人生のスピードが違う、ということだ。私たち小型動物の獣人は、時間があっという間に流れ、大型動物の獣人は、時間がゆったりと流れている。
私の両親は未だ存命だが、いつ何があるか分からない。私たち鼠獣人は、後悔の無いように、一日一日大事に生きるよう常々言われている。
ラファエルは、のんびりゆったりした、大らかで優しい性格だ。体格は象獣人らしく大柄で、私と並んだらアンバランスだ。ラファエルは、物心ついたころから、遊び相手であり、私の初恋の相手だ。
だが、初恋を自覚したころには、この恋は実らないことを知ってしまった。両親から、寿命の話をされたのだ。
鼠獣人の心音は早い。そのため、人間や大型動物の獣人と比べると早い時期に寿命が来てしまう。昔より、ずっと医療が発達した現在でもそれは変わらない。
私たちの国では、異種族間での婚姻は認められている。だが、寿命が大きく違う種族で結婚してしまうと、悲しみを生んでしまう。そのため、殆どの場合、同じ種族か寿命の近い種族同士で結婚する。
私とラファエル、鼠と象では、到底結ばれることはないのだ。それを知ってから、私はラファエルを避けるようになった。……ラファエルは変わらず話しかけてきたけれど。
それに、寿命の問題が無かったとしても、やっぱり私の想いは届かない。ラファエルの隣には、別の人がいるのだから。
◇◇◇◇
「お昼ごはん、今日は中庭で食べよう。」
学園のお昼休み。エイミーに誘われて、お弁当箱を持って中庭に向かう。中庭に辿り着く、すぐ手前でエイミーが急に立ち止まり、後ろを歩いていた私はエイミーの背中にごつんとぶつかってしまった。
「いてて……エイミー?どうしたの?」
「……っ、ララ!やっぱり屋上に行こう!ね?」
「え、ちょっと、エイミー?ねぇ、急にどうしたのよ?」
「気が変わったの!行くわよ!」
ぐいぐいとエイミーに引っ張られると、小柄な私の体は抵抗できない。ちらりと振り返ると、そこにはラファエルと、ブリトニーが笑い合っていた。
ブリトニーは、麒麟獣人でスタイルが良く美人。小柄な私より、ずっとラファエルとお似合いだ。彼女は博学で、成績も優秀でまさに才色兼備であり、私のようなちんちくりんに勝てるところは無い。そんな雲の上の存在のようなブリトニーが、最近よくラファエルの隣にいる。
ラファエルは、昔と変わらず、おっとりした性格だが、成績はトップクラスで、来月学園を卒業した後は、隣国に留学すると噂で聞いた。噂でしか情報が入らないラファエルとの関係に、私の心は、じくりと、傷んだが、ラファエルに直接聞くことは出来なかった。
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