第6話



「ララも駄目だったのね。」



「ということはエイミーも?」



「ええ。いつものようにのらりくらり、よ。」


 お昼休み、二人で大きな溜息をつく。将来への不安でどんよりした空気になったのも束の間、エイミーは「あっ」と声を上げて、ふわふわの尻尾を振った。



「ねぇ、ララ。今日の放課後甘いものでも食べに行かない?」


 気分転換に行きましょうよ、とエイミーは笑顔を見せる。



「そうね。行きましょ!」


 落ち込んだ気持ちを吹き飛ばすように私はエイミーの手を握った。




◇◇◇◇



 街中のカフェに、エミリーと二人で向かう。


「今日は何を食べる?」



「うーん。季節限定のケーキかな?」


 そんな会話をしていると、視界の端に会いたくない人物が映った。見たくない、と思っているのに、そちらを向いてしまう。全身が氷のように冷えるのを感じた。



「あ……。」



 ラファエルと、ブリトニーが、役所から出て来た所だった。二人とも嬉しそうに笑い合っており、お似合いの二人だ。



 役所、という場所は学生の私たちには用の無い場所だ。だが、用があるとすれば一つだけ。



 クラスメイトの友人たちが話していた、「昨日、役場で婚約者と結婚の手続きをしてきたの。」という言葉。婚約者のいない私には羨ましく、胸が苦しくなる言葉だ。卒業までに、結婚が決まることが殆どである私たちにとって、それは聞き慣れた言葉でもあった。




 呆然と見つめていたせいで、ばちり、とラファエルと目が合ってしまう。ラファエルが口を開いた瞬間、私はくるりと後ろを向き走り出した。



「ちょ、ちょっと、ララ!」


 エミリーの呼ぶ声にも立ち止まらず、全速力で走る。走って、走って、走って。息が苦しくなる。




 どくどくどくどく……。自分の鼓動がはっきりと聞こえる。もう、早すぎる鼓動と共に、消えてしまいたいと願ってしまうほどに、胸が、苦しい。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る