第9話



「いや、ララも一緒に行くんだよ?」



「へっ?!」



 私が混乱した表情でラファエルを見つめると、ラファエルは眉を寄せ「ごめんね。」と言った。



「ちょっと、もう!どういうことなのよ!ラファエルは説明が足りなさすぎるのよ!」


 噛みつくように言うと、ラファエルはまた「ごめんね。」と繰り返し、私を抱き寄せた。



「ラファエル……!」



「……幼い頃、ララと婚約したいと、僕とララの両親にお願いした。だけど四人とも、象と鼠では寿命が違うから駄目だと諭した。」



「……うん。」



「だけど僕は諦めきれなくて、たくさん勉強して、隣国に行けば、ララが長生きできるって分かった。僕は絶対隣国のように鼠獣人でも長生きできるようにするから、ララと婚約させてほしいと何度もお願いした。結局、四人が折れてくれて、ララの両親は他の縁談が来ないようにしてくれた。ララがいつか隣国に行くのだから、と語学の教育に力を入れてくれた。」



「えっ!!それじゃあ、私に縁談が来ないのも、小さい頃から語学の勉強が多かったのも……。」



「うん。僕と婚約するからなんだ。」



「うぅ……。何で誰も教えてくれないのよ……。」



「ごめん……。両親たちには僕から言いたいって言ったんだ。……だけど、ララから避けられるようになって、言えなくなってしまった。僕と一緒にいたくないんじゃないかって思って……。」



「そんな……。」



 私が何も言わずに、勝手に避け始めたせいで、ラファエルを不安にさせていたということだ。ラファエルは、小さい頃から、私との婚約とのために頑張ってくれたというのに。




「ラファエル、私こそごめんなさい。幼い頃、ラファエルとは寿命が違うことを聞いて、ラファエルと一緒に生きられないと知って……だから諦めないといけないって思ったの。」



「ララ……。」



「私、酷い態度だったのに……ラファエル諦めないでいてくれてありがとう。」



「うん。どういたしまして。」


 私はおずおずと、自分の腕をラファエルの背中に回すと、ラファエルは幸せそうに笑った。



「ねぇ、ララ。ご褒美が欲しいな。」



「え、ご褒美って……。」



 ラファエルは期待の籠った表情で、目を閉じた。私は、全身を熱くしながら、ラファエルの顔に自分の顔を寄せる。そして……。



「ララ?」



「うぅ……。今日はこれで勘弁して……。」



 私の唇が触れたのは、ラファエルの唇ではなく、頬だった。それでも恥ずかしさから、私はラファエルの胸に自分の顔を埋めた。




「ふふ、最高のご褒美だ。」




 どくどくどくどく……。



 どくん……どくん……。



 私の早すぎる鼓動は、ラファエルのゆっくりな鼓動と混じり合う。それは、私にとって幸せの音色だった。








〈早すぎる鼓動:完〉



 最後までお読みいただきありがとうございました!!



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早すぎる鼓動。 たまこ @tamako25

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