夏のオトズレ

羽入 満月

夏のオトズレ

 友人から今流行りのアプリを紹介された。

 どうやら、アプリを起動させたスマホを布団において寝るだけで睡眠の質を測ってくれるらしい。

 それだけでなく、睡眠の質が良ければ得点が入り、ミニゲームができたり、ゲームで有利になるアイテムがもらえるようでなかなか面白いアプリだ。


 友人は得点が高くなるように、といつもより早く寝てみたり早起きしたり、半身浴をして睡眠の質を上げようとしてみたりと健康的な生活を始めた、なんて話を聞いてちょっと馬鹿にしていた。


 しかし寝るだけで得点がつく、その評価によってゲームの難易度がかわる、と作りこまれたそれは、なかなか馬鹿にできないものだった。



 このアプリを利用し始めてから四日目。

 さぁ寝るか、といつもより早い時間に布団に入ろうとして、そういえば設定とか見てなかったなぁとアプリを起動していじっている時だった。


「寝言録音?なんだこれ」


 設定の中にあったそれを押してみる。

 言葉の通り、ただ寝言を録音するだけの機能のようだ。


 俺は親や修学旅行とかで寝言を指摘されたことがないので、自分が寝言を言うたちではないと思っていたが、フォルダを開いてみると何度か録音されていた。


「え、俺って寝言喋ってんの?」


 まじか、と思いながら、一番古い録音を再生させる。


 ーーーーごそごそ


「なんだこれ?」


 二番目に古い録音も似たような音が入っていた。


「あ、寝返りか」


 どうやら寝言以外も録音されるらしく、衣擦れや寝返りも録音されてしまうらしい。


 なんだ拍子抜けだな、と三個目を再生させた時だった。


 ーーーカチャン  ギー


 それは、俺の部屋の扉を開ける音だった。


「?」


 誰か部屋に入ってきた?

 そんなはずはない。だってここには俺一人しか住んでない。

 泥棒?

 でも、鍵はちゃんと掛けてるし、取られたものも無ければ、物の配置が変わっている様子もない。

 録音された時間は、草木も眠る丑三つ時、ちょうど2時だった。


 録音時間はほんの四秒。

 その四秒で急に背筋が寒くなった。

 夏なのに急に温度が下がった気がする。


 なんで、どうして、誰が、と頭にはてなを浮かべながらっていくと、次の日の同じ時間にまた録音されていた。


 恐る恐る再生させる。今度は七秒だった。


 ーーーーカチャン  ギー   ズ、ズズ


 何かが侵入してきた。


 思わずキョロキョロと周りを見回すが、いつもの部屋。特に変わった様子はない。


 そして、昨晩の同じ時間。今度は十秒。立て続けに二個録音されていた。

 時間の早い方を再生させる。


 ーーーーーカチャン  ギー  ズ、ズズ  ズズ  ふぅ 


 それは、音的に枕元に来た。

 そして耳元でため息をついたような音を出していた。


 女の声だった。


 俺は怖くなり、スマホを放り出す。


 なのに。

 何も触ってないのに、勝手に二個目が再生された。


 ーーーーーーふふふ   マタアシタ


 その声は、楽しそうにそう告げた。

 アプリを入れてから使っていなかった目覚まし時計を確認すれば、今日の録音時間まであと……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夏のオトズレ 羽入 満月 @saika12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ