第3話 鳴が委員長で美咲がお手伝いになりました
待ち合わせに遅刻したらいけないと、美咲は昨日より10分も早く家を出て、鳴との待ち合わせ場所である昨日別れた路地に向かう。
さすがに早く来過ぎたのか、鳴はまだ来ていなかった。
鳴が来たのは、美咲が到着してから五分後だった。
「待たせちゃったかな? 」
「そ、そんな事ないよ」
今日も何て可愛いの。それに、やっぱりいい匂いがすると、美咲はうっとりしながら答えると、鳴は安心した様に良かったと微笑む。
やっぱり可愛いし、本当に美人だし、私と違って胸も大きいと昨日から鳴の存在を主張するおっぱいが気になって仕方ない。
「鳴ちゃんのお、胸大きくていいな。私はつ、ぺったんこだから」
危うくおっぱいとか、私はツルペタだからと言いそうになって、何とか言い換えに成功する。
「そ、そうかな? 平均だと思うけど」
「何カップ? 」
「Eだけど」
それの何処が平均何ですか?
私なんてAカップだし、未だにスポブラですけどと、私だって可愛いブラしたいですと、でも似合わないんですと、美咲は自分の胸に手を添えながら悲しくなる。
「平均じゃないし、大きいし」
美咲が自分の胸に手を添えて項垂れてしまったので、鳴は大きいから良いって事ないし、授乳出来ればいいんだしと、何とか美咲を慰めようと必死に美咲気にしたら駄目よと励ましている。
「鳴ちゃんは、小さいのが好きなの? 」
つい聞いてから、鳴ちゃんがレズかわからないのに、何て事を聞いてしまったのかと後悔するが、聞いてしまった以上は後には引けなかった。
「え、えっと考えた事ないかな」
「大きい方が好き? 」
美咲は、どうしても鳴が貧乳が好きか巨乳が好きか知りたくて仕方なかった。昨日鳴と出会ってから鳴の事は何でも知りたい衝動に襲われていたので、顔を真っ赤にして困っている鳴に教えてと、鳴の腕を掴んで、鳴を真っすぐ見据えて鳴の答えを待つ。
美咲の瞳は真剣そのもので、答えないと違う話題にはならないんだよねと、鳴は諦める。
考えてみるが、当然答えなんて出る筈もない。女の子のおっぱいの事なんて考えた事なんて一度もないのだから、鳴は大好きな百合漫画のキャラクターを思い浮かべる。
小学生の時から大好きな漫画家の作品で、鳴が読んでいる唯一の百合漫画。そのキャラクター達は、どうだろう? 胸の大きい女の子もいるし普通の女の子も貧乳もいるが、どのキャラも個性的で、可愛らしくて鳴は好きだ。
やっぱり胸の大きさなんて関係ない。鳴はそう答えようとして、答えられなかった。
どうしてかはわからないが、美咲は泣きそうな顔で自分を見ていたから、だから鳴はこう答えた。
「正直わからない。見た事ないから」
母親と修学旅行の時に、転んだらいけないからと一緒に入ってくれた教師の胸しか見た事なかった
から、同年代の女の子の胸を見た事がないから、わからないとしか答えられなかった。
「鳴ちゃん、修学旅行で見てないの? 同級生の」
「見てないよ。先生と入ったから」
「そっか、私、自分の成長してくれないおっぱいが嫌い。でも、鳴ちゃんが小さいの好きって言ってくれたら、好きになれるかなって、変な事聞いてごめんね」
小さい胸も、未だにツルツルな女の子の部分も、生理すら来ない事も全てが嫌いだった。お前は女の子じゃないと言われてるみたいで、だからそんな事ないよと、美咲は女の子だよって誰かに言って欲しかった。
ごめんねと言ってから、美咲は俯いて話してくれなくなって、そのまま学校についてしまった。
「おはよう! 」
元気に挨拶する美咲にクラスメートは、元気な女の子だなとおはようと返事をしているのを見ながら鳴は、どうして美咲は胸の大きさをそこまで気にするのか気になっていた。
女の子だから、胸の大きさを気にするのは鳴にもわからないでもないが、美咲のは普通の女の子の悩みとは違う気がして、聞いてもいいのかと悩んでいたら担任の真宮寺多香子先生が入って来たので鳴は、一旦考えるのをやめた。
「今日の一時間目はLHRになります。クラスの委員長とそのお手伝いを決めます」
「わかりましたレズ先生」
一人の生徒の言葉に、真宮寺先生はどうして知ってるの? と狼狽えている。
「お姉ちゃんが言ってたから、多香子先生はレズだから通称レズ先生って」
「それは、そうだけど多香子先生って呼んでね」
クラスの全員が認めたよこの人と思った。
誰も面倒な委員長なんてやりたがらないと、多香子先生は思っていたのに、鳴が私でよければやりますよと、立候補したのであっさり決まってしまった。
あとは委員長のお手伝いである。
何故かこの学校では、副委員長とは呼ばずにお手伝いと呼んでいる。理由は謎である。
「先生、私が指名してもいいですか? 」
「いいけど、その娘の意見は尊重してね」
鳴はわかってますと言うと、美咲をお手伝いに指名した。
「私でいいの? 」
指名された美咲は、まさか自分が指名されるとは思わずに驚いていたが、これは鳴ともっと仲良くなって、鳴の事をもっと知れるチャンスと捉えて、宜しくお願いしますと言うとお手伝いになった。
予想外に早く決まったので、残りの時間は自習になったのだが、真面目に自習する生徒は半分もいなかった。
美咲も勉強するくらいなら、鳴とお話したいと鳴の所に行くと、鳴は真面目に自習していたので、仕方なく、次の授業の教科書を持ってきて鳴の前の席に座る。
教科書を開いてみたが、さっぱりである。まだ習っていないのだから当然なのだが、何故か目の前の鳴は、事も無げに問題を解いている。
「鳴ちゃんわかるの? まだ習ってないのに」
家で予習してるからと言われて、家に帰ったら勉強なんて絶対にしませんと思っている美咲は、鳴ちゃんは、本当に凄いなと出会って二日目で、鳴の凄さを少し理解した気になった。
その後は、鳴に教えて貰ったのだが、元々平均以下の学力の美咲には難し過ぎた。一応進学校である。気合で合格した美咲では、ついて行けるか正直危ない。
「私、ギリギリで合格だから、これから大丈夫かな? 」
もう不安しかない。さっきから不安の二文字が、頭の中を駆け巡っている。
「大丈夫よ。ギリギリでも合格したんだし、解らない所は教えるから」
だから、お手伝い頑張ってねと言う鳴の笑顔が眩し過ぎて、美咲はまともに鳴の顔を見れない。
ドキドキして、少し俯きながら、うんと答えるのが精一杯だった。
「美咲、美咲が胸の大きさに拘る理由って何? 」
急に朝の自分がした質問に話題を振られて、美咲は困惑してしまう。
拘る理由は、自分がレズで女の子とエッチしたくて、でもその時に自分の胸を見て、相手がガッカリしないかなと、自分の胸が小さい事で嫌われないかなと、恋人すらいないのに、その事がずっと頭を離れてくれないのだ。
こんな事鳴に言える筈なかった。
答えに窮して、美咲はただ俯いて黙ってしまった。
そんな美咲を見て、話せる時に話してねと鳴はこれ以上は無理だよねと、話題を変える事にした。
自分と同じで、一人暮らしをしてる美咲に美味しいお弁当屋さんを教えようと、そう思って話題を振ったのだが、美咲は自炊してますと、明らかに元気のない声で答える。
そんなに悩む事なの? 嫌な事あったの? と心配する鳴をよそに美咲は放課後まで、ずっと元気がない状態だった。
放課後になって、クラスメートが次々と帰宅していくのに、美咲は自分の席に座ったままで、動こうとしない。
そんな美咲に鳴が、帰ろうと声を掛けるが美咲からの返事はない。
「まだ悩んでるの? 過去に嫌な事あったの胸の事で? 」
美咲はなかったよと答える。
美咲の胸って小さいよね。私、美咲の裸じゃ全く欲情しないわ。そんな事を言われる機会なんて一度も訪れていないし、もしそんな事が実際にあったのなら、美咲は自信を失って引き籠もりになっていたかもしれない。
「ないなら、どうしてそんなに悩むの? 」
胸の大きい鳴にはわからないよ。貧乳の私の気持ちなんて、スタイルも顔もいい鳴。
スタイルは残念で、顔も平均か平均以下の私。
何もかもが違い過ぎる。
ましてや私は真性のレズで、多分鳴はノンケだ。
ノンケの鳴には、一生私の悩みはわからない。レズの女の子が好きで、女の子に欲情してしまう私の気持ちは、絶対に理解出来ない。
そう考えると、悲しくなった。
まだ二日目だが、きっとここにも私の居場所はない。
多香子先生はレズだって認めてたけど、私みたいな子供は相手にはしないし、教師と言う立場を考えると生徒に手を出すとは考えられない。
私、何の為に都会の女子高に入学したんだろう。
入学前の、絶対に可愛い彼女を見つけて、キスとかエッチとかしまくるんだ! と言う意気込みも気合も、完全に萎んでしまって、美咲は地元に居た時の様な暗い表情になってしまった。
「胸の大きさなんて関係ないし、そんな事で美咲を嫌いになる様な人とは付き合わなければいいだけだって、私は思うけど、違う? 」
鳴は、美咲に顔を近づけると、そんな人は私が許しませんと笑顔で言ってきた。
「どういう事? 」
自信を失い掛けていた美咲は、鳴にわからないと言った顔を泣きそうな子供の様な顔をして、聞き返した。
「人の身体的特徴を馬鹿にする最低な人が、私の大切なお友達である美咲と恋人になるなんて、私は嫌だって話」
「お友達? 鳴ちゃん、こんな私とお友達になってくれるの? 」
鳴は、昨日の時点で友達って思ってたしと言った後に、実は昨日帰ってから美咲とお友達になりたいと考えていた事を、正直に打ち明けた。
鳴とお友達になりたいと、美咲も考えていたから嬉しかった。でも、素直にうんと言えない。
こんな私が、本当にいいの? と悩んでしまう。
「なってくれなかったら、泣いてやるから」
明日皆の前で、美咲がお友達になってくれないって泣いてやると言われて、それは困りますと、美咲はお願いしますと答える事しか出来なかった。
美咲の返事に満足したのか、鳴は帰ろうと美咲の手を握ると美咲を立たせて、教室を出た。
帰り道で、鳴がそんなに気にしてるなら、今度私に見せてよと爆弾発言をかましてきた。
「私、同年代の女の子の裸見た事ないし」
何て答えればいいんだろう?
裸って事は、下も見られる訳で、別に鳴は美咲に全裸になって欲しいとは考えていない。見せてと言ったのも、美咲が胸の大きさを気にしてるから、可愛いとか綺麗って言って励まそうと思っただけで、美咲の様にエッチな事は、全く考えていない。
「め、鳴ちゃんも見せてくれるならいいよ」
まさか、そんな切り返しをされるとは思っていなかった鳴は、顔を真っ赤にして固まってしまった。
「だ、だって私だけ見せるなんて恥ずかしいし、鳴ちゃんだけ見るのはずるいし」
美咲のごもっともな意見に、鳴はどうしようとあたふたしながら、わ、わかった! と自分から見せてと言った以上は、見せない訳にはいかないよねと腹を括った。
お風呂で、自分の残念な胸を見つめながら、鳴ちゃんは私の胸を見てどう思ってくれるのだろうかと美咲は、こんな残念な胸を見ても、きっとなんとも思わないよねと、だって鳴ちゃんはきっとノンケだから、自分とは違うから……考えて悲しくなった。
いくら美咲を元気づける為とは言え、何て事を約束してしまったのだろうと、鳴もお風呂で自分の胸を見ながら、溜息を吐く。
同世代の女の子の裸に、胸に興味が無いと言えば嘘になる。
性的な意味ではなくて、自分と同世代の女の子の裸を一度も見た事がないから、一度くらいは見てみたいと思っていた。
でも、いざ自分も見せると考えると、もの凄く恥ずかしい。
「美咲に、お腹ぷよぷよだねとか言われないかな? 」
その心配が無い程に、細いのだが、鳴はお風呂から上がると恐る恐る体重計に乗る。
「ひゃ、100グラムも増えてる……お菓子食べ過ぎかな? 」
たかが100グラムでも、乙女には深刻な問題である。夕食前と夕食後に必ずデザートやお菓子を食べる習慣のある鳴は、控えようかなとちょっぴり思って、冷蔵庫から飲み物と一緒にプリンを取り出して食べ始めてしまった。
鳴がお菓子とデザートを控える日は、永遠に来そうになかった。
下着姿のまま部屋にある姿見で、もう一度自分の身体をチェックする。
「だ、大丈夫だよね? 」
別にこれから美咲が、鳴のおっぱいを見に訪問して来る訳でもないのに、鳴は一人顔を真っ赤にしながら、美咲喜んでくれるかな? 私の身体褒めてくれるかな? とか考えて、顔を茹蛸の様に真っ赤にしていた。
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