第7話 好きってどんな気持ちなの?

美少女との夢の同棲生活がスタートしたのに、美咲は浮かない顔をしていた。

 折角鳴と一緒に暮らし始めたのに、甘い生活とは程遠い。さすがに、部屋は別々だよねと思っていたのだが、鳴が一緒がいいのと可愛らしい顔で言うので、嫌ですとは、一緒の部屋になったら秘蔵コレクションは読めないし、パソコンにダウンロードして、まだクリアしてないゲーム(18禁)は出来ないしで、美咲はやんわりと断ろうと思ったのだが、鳴にいいよねとうるうるした瞳で見られて、はいと答えてしまった。

 美少女にうるうるした瞳でお願いされたら、私じゃなくても絶対に断れないと思う。

 鳴ちゃんは、本当に美少女だと思う。今まで、出会った事がない程に綺麗で、そんな鳴ちゃんと同じ屋根の下に暮らしているんだと思うと、美咲はドキドキしてしまう。

 ドキドキするのはいいが、さてどうしたものかと、思い切り頭を抱えてしまう。

 秘蔵コレクションを読む事も、ゲームをする事も、美咲にとっては日課であり、楽しみの一つなのに、このままでは封印しなくてはいけなくなってしまう。

 

秘蔵コレクションに関しては、本だから最悪鳴ちゃんの目を盗んでトイレで読めばいいけれど、さすがにパソコンをトイレに持ち込んでゲームをするのは、どう足掻いても鳴ちゃんにバレてしまうと言うか、変な目で見られてしまう。

 ノートタイプだから、問題ない?

 やっぱり無理か?

 そんな事を考えていたら、鳴が笑顔で「本はいつでも読んでね。あと、ゲームも気にしないでしてね」と天使の微笑で言われてしまった。


この娘は鈍いのか、天然なのかわからないなと、美咲のコレクションを見れば、どんなゲームなのか大抵の人は想像がつくと言うのに、鳴は内容をわかっていない様な口ぶりだった。

 そこが鳴ちゃんのいい所なのかもしれないが、正直かなり不安になってしまう。

 相手を疑う事を知らない訳ではないのだろうが、警戒心が薄過ぎる。

 このままでは、変な女子に捕まってしまう。

 ここで、変な男子と考えない部分と、自分が変な女子と考えていないのが、美咲である。

 鳴ちゃんを守れるのは、自分だけだと美咲は出来る限り鳴のそばにいようと思いつつ、どうやって自分の趣味を続けようかとも考える。

 鳴は気を遣わずに、好きな事をしてねと言っていたが、さすがに鳴の前でゲームは出来ない。

 ダウンロードしてあるのだから、いつでも出来る訳だし今は、本だけにしますかと、美咲はパソコンはネットなどの使用のみにして、鳴にもう少し耐性がついたのを確認したら、一緒にやれたらいいなと思った。


美咲は自分とは違うタイプの女の子。

 自分には無い考えを、自分が考えた事も無い事を考える女の子。

 胸の大きさを気にしたり、女の子が恋愛対象だったり、エッチな本を愛読していたりと、本当に自分とは違う。

 だからこそ私は、彼女に興味を持った。

 美咲の過去を調べて、彼女がレズだと知った時も嫌悪感は全くなかった。

 それ以上に、どうして周りは美咲の母親は、レズビアンと言うだけで嫌悪して、彼女を醜い女の子扱いしたのか、その事の方が気になってしまった。

 誰かを好きになった事は一度もない。

 異性が好きなのか、同性が好きなのか、年上が好きなのか、年下が好きなのか、同い年が好きなのかも私にはわからない。

 両親の事は愛してる。でもその愛してるとはきっと違うのだろう。美咲が女の子を愛してしまうのは、愛する気持ちがわからない。

 知ってみたいとは思うけど、私に知る事が出来るのだろうか?

 私は、昔から鈍いと言うか周りとは違う女の子だった。

 

鳴が周りと違うのかもしれないと、気付いたのは小学生の時だった。

 成長の早い女の子達は、恋愛に興味を持ち始めてクラスの女子も、恋愛の話をする様になっていた。

 何組の誰々君がかっこいいとか、何組の何々さんって彼氏いるらしいよとか、そんな話で盛り上がるクラスメートを横目で見ながら、何が楽しいのかと正直不快感すら覚えていたかもしれない。

 誰かに恋をして、その人とお付き合いをして結婚して、子供を産んで子育てをする。

 それも一つの幸せなのかもしれないが、鳴はそれのどこが幸せなのかと、自分の両親はとても仲睦まじいし幸せそうだから、ありなのかもしれないが、私にはそうとはどうしても思えなくて、クラスの女の子と話す機会は減っていった。

 話す機会は減ったが、別にハブられたりしていた訳ではない。ただ恋バナと言われる話になったら、ついていけずにいつも離脱していただけで、それ以外の話なら普通に付き合っていた。


中学に上がると、更についていけなくなった。

 身体も成長し始め、中には中学生とは思えない程に、胸が発育している生徒もいた。そんな生徒はクラスの女子の餌食になっていた。

 コミュニケーションと、女の子同士なんだからと言う訳のわからない理由で、胸を揉まれたりしていた。

 あくまで女の子同士の他愛もない戯れに過ぎないのだが、それに嫌悪感はないのだが、参加する気にもならなくて、正直一人の時間が増えていった。

 足が悪いから、それを気にして遊びに誘われる事はなかったから、同世代との付き合い方がわからなくなっていた。

 どんな事に興味があるのか、どんな事が好きなのかわからなくて、どう接していいのかわからなくて、いつも頷くばかりで空返事ばかりの毎日だった様な気がする。


きっと高校でもそうなんだろうと思っていた。

 入学式の日に道に迷っている美咲に出会わなければ、鳴の高校生活は、今までと変わらない日々を送る事になっていた筈。

 だから、美咲に聞いてみたい事があった。

 夕食を食べた後と思ったけど、ゆっくり話したいからお風呂に入ってからにしよう。

 美咲と一緒のお風呂はとても楽しい。

 気を遣わせるのは申し訳ないが、美咲は美咲で私の裸を嬉しそうに見ているのだから、お相子だろう。

 美咲は本当に女の子が好きなんだなと、女の子の裸が好きなんだなと思ってしまう。

 好きなものに真っすぐな美咲が、私には眩しい。

 眩し過ぎて、美咲が自分の元を去ってしまう日が来るのではと、そう考えると怖くなってしまう。

 そんな事はないと信じたいが、この先の未来で美咲は恋人を作って、ここを出て行ってしまうかもしれない。

 友達の私より恋人を選ぶのは自然な流れ。

 私は、ただ美咲と一緒に居たい。

 この先も、美咲の友人として彼女の隣に立っていたい。

 隣で笑っていたい。

 一緒にご飯が食べたい。

 そんな願いを持つ事位は許されるよね?

 両親と過ごす時間は、勿論大好きだ。

 でも、美咲と過ごす時間はもっと好き。

 彼女と一緒に過ごしていると、理由はわからないけれど心がポカポカしてくるから、だから彼女とこの先も過ごしたいと願ってしまう。


部屋に戻っても、中々切り出す事が出来ずに鳴は横目で美咲を見てしまう。

 美咲は、新しく買ったコミックを読んでいて、鳴が自分をチラ見している事には、全く気付いていない様だ。

 楽しそうに読んでいるのを邪魔するのは、悪いので読み終わるのを待つべきと考えたが、美咲は本を読みながらいつも寝ちゃうんだよねと言っていたので、寝られてしまっては聞きたい事を聞けなくなってしまうと、鳴は美咲の隣に座ると声を掛けた。

「美咲、今いい?」

 コミックから顔を上げると、どうしたの? って顔で見ているので鳴は思い切って聞いた。

「誰かを好きになる気持ちって、どんな気持ちなの?」

 すぐには答えられなかった。どう答えればいいのかわからなかったのもあるが、それ以上に鳴ちゃんに好きな人が出来た? その事で頭がいっぱいになってしまって、何も言えなかった。

「私、誰かを好きになった事がないから、どんな気持ちなのかなって」

 鳴に好きな人が出来た訳じゃないんだと、ほっと胸を撫でおろすが、新たな疑問が沸いてきた。

 今まで誰も好きにならなかった。好きな人が出来なかったと言うのは、ありえるかもしれないが、もし自分の考えが正しければ、鳴が自分を愛する事は一生ない。

 その事が怖い。

 美咲は、鳴はもしかしたらアロマンティック(他者に対して恋愛感情を抱かない)なのではないか、もしそうなら自分の恋は実る事はない。

「鳴ちゃんは、誰かを好きにならないの?」

 不安から鳴の質問には答えずに、鳴に質問してしまった。鳴はわからないと、好きになってみたいとは思うけど、本当にわからないと答える。

 わからないから美咲に聞いたのだ。

「合ってるかはわからないけど、ずっとその人の事を考えたり、会いたいって思ったり、付き合いたいって思ったりかな」

 正解なのかはわからないが、自分が鳴ちゃんに抱いている感情や希望を、そのまま伝えてみた。

 鳴は少し難しい顔をして考え込んでいる様に見えた。


美咲の話を聞いても、答えは出なかった。

 私は、本当に誰かを愛せるのだろうか?

 そんな不安が押し寄せてくる。

「きっと素敵な恋が出来るよ。鳴ちゃん可愛いし、私鳴ちゃん好きだよ」

「美咲? どうしたの? いきなり」

 美咲がいきなり好きだよなんて言うから、驚いてしまった。

「今はわからなくても、きっとわかるから」

 本当は、私が鳴ちゃんに教えたい。

 鳴ちゃんの隣にずっと居たい。

 でも、もし鳴ちゃんの初恋が自分じゃなかったら、その時は素直に応援しよう。

 私は鳴ちゃんが大好きだから、大好きな人の力になりたい。

「そうなるといいな」

「なるよ。だから心配しないでいいと思うよ」

 そう言って、微笑んでくれた。

 微笑む美咲は、本当に可愛いなと思う。

 私は彼女の笑顔をこれからも、そばで見ていたい。

 恋人が出来なくても、好きになると言う事がわからなくても、愛する好きをこの先理解出来なくても、美咲といられたらきっと私は笑顔でいられる。

 そんな根拠のない自信が沸いて来て嬉しい気持ちになった。

 

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君と紡ぐ未来(あした)~百合恋は美少女と~ 椿 セシル @tsubakikanon

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