第6話 笑わない?

コンビニ弁当や、お弁当屋さんのお弁当(肉類が多い)ばかりじゃ駄目だよと、私が作るからと言われて、鳴はスーパーに食材を買いに行くから、案内しなさいと言われて、半強制的にスーパーへと案内させらている。

 お弁当美味しいんだよ~と言っても、美咲は口元をピクピクと引き攣らせながら「つ・く・る・か・ら案内してね鳴・ちゃ・ん!! 」と目は優しいのに、口元が笑っていない。

 そんな美咲に、鳴は「ひゃい!! わかりました! だから犯さないで! と周りが聞いたら絶対に勘違いする言葉を、泣きそうな顔で言うと、とぼとぼと美咲と歩いている。

「も~う、そんな顔しないでよ」

 しゅんっと項垂れる鳴に、美咲が優しく今度お弁当屋さん教えてねと言うと、鳴は小さな子供の様な笑顔で、うん! と元気良く答えてくれたので、美咲は鳴ちゃんって大人なのか子供なのかわからないなと、でもやっぱり可愛いなとクスっと微笑んでしまった。

 スーパーへの道すがら、美咲は鳴に自分の過去が自分が女の子が好きな事が、女の子の裸に欲情して、女の子とエッチしたい女の子である事がバレてしまった事を、そしてその事を鳴が拒絶しないで、変わらずに自分の隣に居てくれて、剰え自分と暮らそうと言ってくれた事を考えていた。

 いくら同性婚が認められたとは言え、昔よりは同性愛者への理解が少しだけ進んだとは言え、今でも同性愛者への風当たりは強いし、世間は奇異の目を向けてくる。

 それなのに、鳴はこんな私を理解しようと、受け入れようとしてくれた。

(鳴ちゃんは、私の事どう思っているんだろう? 」

 私は、多分彼女が好きだ。

 入学式の日に助けてもらって、それからまだ数週間しか経っていないけど、きっと私は、鳴ちゃんに一目惚れしてしまったんだと思う。

 だって、これは鳴ちゃんには言えないが、秘蔵コレクションの女の子を鳴ちゃんだと思って、一人で慰めてしまった事も、何度もある。

 こんな事は絶対に言えない。

 もしバレたら、美咲の変態!! と言われて嫌われてしまう。まあ、鳴ちゃんの事だから、一人エッチの意味すらわかっていない気がするが、って! もし本当に鳴と同棲出来たら、私はどこで自分を慰めればいいの?

 部屋は別々だとしても、鳴に声を聞かれるかもしれないし、トイレ? それともお風呂?

 そんな事を考えていたら「スーパーに着いたよ」と鳴に言われて、美咲は現実へと引き戻された。


鳴ちゃんの食事の内容を聞いていたら、絶対的に野菜が足りないので、美咲は今日はサラダに南瓜の煮物に、あとは卯の花にとメニューを考えながら、野菜を入れていく。

「あ、あの美咲さん、お肉がないんですけど」

「今日は禁止です。野菜も食べなさい! 」

「あぅ~お肉ないと死んじゃう病気なのに、お肉を毎日食べないと死んじゃうのに」

 そんな病気は聞いた事がないと、美咲は鳴の意見を無視してお肉コーナーをあっさりと通過する。

 私のお肉ーーーーーーーーーーーーー! と鳴の断末魔の叫びが聞こえたが、美咲は駄目です! と鳴の手を引いて、お肉コーナーから鳴を連れ出す。まるで、お菓子コーナーから動かない子供を連れ出すお母さんの様である。

「鳴ちゃんは、どうしてそんなにお肉が好きなの? 美味しいけど、毎日は飽きない? 」

「飽きません! だって野菜苦手なんだもん。ピーマンとか苦いし、すぐにお腹空くし」

 子供ですか? そう言えば、鳴ちゃんって細いのに良く食べるなと美咲は、鳴が学校では、二時間目を終えるとパンを食べて、お昼に学食で二人前を食べて、放課後もお菓子を食べているのを思い出して「鳴ちゃんって、良く食べるよね」と悪気無く言うと、鳴は「大食いの女の子は嫌? 」と何故か、少し寂しそうに聞いてきたので、美咲は鳴ちゃんのそんな顔は見たくないと、そんな事ないよと大好きですと、周りからしたら告白ですか? と言われる言葉を言ってしまった。

「ありがとう。私も美咲大好きだよ」

 その言葉に胸がチクリと痛んだ。

 鳴ちゃんの大好きは、私のとは違う。お友達としての大好きで、他意はないとわかっているのに、どうして、こんなにも胸が痛いの?

「お肉は明日にしようね」

 美咲は、考えるの止めてそう言うと、鳴は目を輝かせて喜んでいた。


夕食を終えて、のんびりしていると美咲のスマホが鳴った。

 画面にはパパとある。美咲が出ると「美咲、パパだけど元気にしてるか? 朝比奈さんって同級生のお母さんから電話あって」

 鳴の母親は、早速美咲が鳴と暮らす事の電話をしてくれたらしい。

「うん。私、鳴ちゃんと暮らしたいんだけど、二人の方が寂しくないし、鳴ちゃんに迷惑掛けないって約束するから、駄目かな? 」

「美咲がそうしたいなら、パパは何も言わないし、二人の方が安心だし、朝比奈さんの話だとセキュリティーがしっかりしてるみたいだし」

「パパありがとう。それで、ママは何て言ってたかな? 」

 無関心なのはわかっているが、あの日から自分に興味を示さなくなったのはわかってはいるが、美咲は聞かずにはいられなかった。

「何も言ってないかな。本当に頑固と言うか、パパがもっとしっかりしてたら、美咲すまんね」

「パパは悪くないし、私がもっと早く打ち明けてれば良かったんだし」

「美咲は悪くないよ。パパは、美咲が素敵な彼女を見つけて紹介してくれるの待ってるよ」

「パパありがとう」

 その後鳴と電話を替わって、お互い挨拶を済ませると電話は切れた。

 パパの優しさが嬉しかった。

「良いお父さんね」

「うん」

 もう、泣くのを我慢出来なくて、美咲は鳴にいい? と言うと鳴に抱きついて泣いていた。

「本当に泣き虫さんなんだから」

 そう言いながらも、優しく美咲を抱きしめる鳴がいた。


泣き止んだ後に、鳴にお風呂一緒に入ろうと言われて、ついうんいいよと答えてから、美咲は一緒に入ると言う事は、鳴に見られるんだよね? と自分の下腹部に目を遣って溜息を吐く。

「や、やっぱり別々に入らない? 恥ずかしいし」

「美咲は嫌なの? 私楽しみにしてたのに美咲とお風呂入るの」

 同年代の女の子と一緒にお風呂に入った事がないから、凄く凄くもの凄~く楽しみにしていたのと言われてしまっては、断れない。

「ぜ、絶対に笑わないって約束する? 」

「おっぱいの大きさ気にしてるの? この前見たし綺麗で可愛くて好きだよ」

「そうじゃなくて、兎に角絶対に笑わないって約束するなら一緒に入ります」

 鳴は美咲が何を言ってるのかわからなかったが、絶対に笑わないよと約束するよと言ってくれたので美咲は諦めて、鳴と一緒に着替えを持つと脱衣所に向かった。


鳴は嬉しそうに洋服と下着を脱いでいく。同年代の女の子とのお風呂が、そんなに嬉しいの? と私としては、鳴ちゃんの裸見れるの嬉しいけど、やっぱり笑うかな?

 そんな事を考えながら、パンツを脱ぐと鳴が自分の下半身を見ていた。

 笑われると思って、隠そうとしたら「綺麗」と鳴はうっとりした表情で美咲の下半身を見ていた。

 その反応に驚きながら「変じゃない? まだ生えてこないし実は生理もきてないの」と美咲は、俯きながら小声で言う。

「変じゃないし、とっても綺麗で可愛いし、生理だってちゃんと来るから安心して」

 そう言われて、美咲は不安に圧し潰されそうになっていた自分が馬鹿馬鹿しくなった。鳴ちゃんってこういう娘だよねと、ありがとうと言うと、鳴の手を取って浴室に入って行った。

「鳴ちゃん、足悪いのに一人で大丈夫だったの? 」

 足が悪くなくても、浴室は滑るので転倒の危険がある。

「慣れてるし、気を付けてるから、でも今日からは美咲がいるから安心」

「任せて、私が守るから」

 ありがとうと笑顔で言ってくれて、美咲は本当に嬉しくなった。

 しかし、本当に綺麗でエッチな身体してるなと、美咲は鳴の身体から目が離せずに思い切りガン見していた。

 美咲がガン見している事に気付いた鳴は、さすがに恥ずかしくなったのか、両手で胸を隠す。

 そんな鳴を見て、美咲は普通下じゃないんですかと思ったが、これはこれで幸せなので、敢えて鳴にその事は伝えずに、暫らく堪能して、そしてのぼせて倒れてしまった。


のぼせた美咲を何とかリビングまで運ぶと、裸では可哀そうだとタオルを被せると、美咲の横に座って、美咲を見つめながら、美咲の言葉を思い出す。

 まだ生えてこないから、生理もまだだしと美咲は恥ずかしそうに、そしてどこか寂し気に話していた。

 その寂しげな表情が気になっていた。

 確かに第二次性徴期を迎えれば、女の子は女の子らしい身体つきになっていく。鳴もそうだった。

 小学生までは、周りと胸の大きさも変わらなかったのに、中学生になってから、一気に成長し始めたのを覚えているし、胸の大きさを気にしてる美咲には絶対に言えないが、未だに成長はとどまる事を知らないかの様に成長していた。

 生理に関しても、雑誌で18歳で初めて生理がきたと言う女性の話を読んだ事があるし、早い子は早いし遅い子は遅いだけで、そこまで気にする必要はないのにと鳴は、どうして美咲がそこまで色々な事を気にするのかわからなかった。


目を覚ました美咲は、ごめんねとありがとうと言うと、タオル一枚の姿で鳴と向かい合っている。

 別に気にする事ではないよと鳴は、取り敢えず着替えてねと美咲に着替えを渡すと後ろを向く。

 美咲は着替えながら、どうして鳴ちゃんは私の色々な部分を受け入れてくれるのだろうかと考えていた。

 胸が小さいとか、生えてないとか、生理がきてないとかはまだしも、私は鳴ちゃんの裸をあれだけガン見したのに、その事を追及もしなければ、怒っている素振りすらない。

 普通の女の子であれば、怒って当然だし、あれだけ舐めまわす様に上から下まで見られたら、気持ち悪いと思っても不思議じゃないのに、鳴ちゃんは何も言わないし、のぼせて倒れてしまった私を、運んで介抱までしてくれた。

 その優しさんには感謝だが、美咲は鳴の考えている事が、鳴と言う女の子の事がわからなくて、着替えながら一人悶々としていた。

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