第2話 美少女との出会い
待ちに待った入学式の日が来た。
可愛い女の子いるかな?
レズっ娘はいるかな? と朝から気合十分の美咲は真新しい制服に身を包むと、鏡で入念に変な所ないかな? と何度もチェックする。
出会いは第一印象が大切だ! 多分だけど、鏡を見ながら美咲ははぁ~と溜息を吐いてしまう。
自分のぺったんこな胸に手を添えながら、どうして成長しないんだ私の胸は? と今時小学生でももう少し大きいよねと、全く成長の兆しを見せないおっぱいさんに「やっぱり彼女作って、揉んでもらわない
と駄目ですか? 」と問いかけるが、当然美咲のおっぱいさんは答えてはくれなかった。
えっと、制服は何処ですか?
前の日に探しておけば良かったと後悔しながら、半泣き状態で鳴は必死に制服を探している。鳴の部屋は、相変わらず洋服から下着から、漫画や小説やらが散乱している。
何とか制服を見つけて、制服に着替える頃には家を出る時間になっていたので、鳴は朝ごはんはコンビニでいいやと、そのまま鞄を持って家を出た。
コンビニで朝食をゲットして、それを頬張りながらゆっくりと歩を進める。幼い時の怪我が原因で鳴の右足は不自由だった。
それでも、その事に鳴が悲観した事もないし、普通に生活していた。ただ走ったり出来ないので、幼い時は普通に走り回れる周りの子達が、正直羨ましいと思ったこともあった。
スマホに目を遣ると、時間にはまだ余裕がありそうだったので、鳴は桜並木を堪能しながら学校へと向かっていた。
道に迷った。
あれだけ学校への道程を確認して、休みの内に何度も何度も往復したのに、スマホの地図アプリで道を確認しながら、このままじゃ遅刻しちゃうと半分泣きながら、必死に学校への道を探す。
「どうしたの? 何か失くしたの? 」
柔らかな物腰と、今まで聴いた中で一番綺麗な声に美咲が振り向くと、そこには美少女がいた。
「はわわわわ」
「はわわ? 早くしないと遅れるよ。貴方も新入生でしょ? 」
新入生と言う言葉で、もしかしてと思った美咲が目の前の天使を見ると同じ制服を身に着けていてリボンの色が同じ桜色なので、彼女も新入生だと同じ学校に入学するんだとわかった。
「私は朝比奈鳴。貴方は? 」
「夕凪、夕凪美咲。田舎から出てきて何回も学校に行ったのに迷って」
「この変は、地元の人しか使わない裏道だから」
そう言って、鳴は行きましょうと美咲の手を掴むと歩き始めた。
美咲はドキドキし過ぎて心臓が壊れてしまうのではと思いながらも、鳴さんっていい匂いすると鳴に顔を近づけると、鳴が真っ赤な顔をしていたが、美咲はその事には気付いてはいなかった。
「私、歩くの遅いけどちゃんと間に合うから」
そう言われて、美咲は鳴が右足を引き摺っている事に気が付いた。
「それって怪我とか? それとも病気で? 」
出会ったばかりの女の子に、いきなり聞く事ではないと思ったが美咲は気になって聞いてしまった。
「小さい時に怪我して」
「そ、そうなんだ」
偉いね。何て軽々しく口にしてはいけないと、美咲は鳴の手を握り返すと同じクラスになれたらいいねと笑顔で言うと鳴もそうだねと答えてくれた。その事が美咲は嬉しかった。
知らない街に来て、知り合いも友達も一人も居ない。正直少しだけ寂しかったし、久しぶりに両親以外と話せて、美咲の心は温かくなった。
学校に着くと、鳴と美咲は張り出されたクラス表を確認する。
「朝比奈さんと同じクラスだ! 良かった」
「これから宜しくね」
「うん。宜しくね鳴ちゃん」
「め、鳴ちゃんって」
「やっぱりいきなり過ぎたかな? 」
しゅんっとする美咲を見て、仕方ないなと鳴はいいわよと言うと喜んでいる美咲を置いて一人で歩き出したので、美咲は迷子になるから置いて行かないで~と必死に鳴の腕にしがみつく。
「ゆ、夕凪さん? 」
腕にしがみつかれた鳴は、真っ赤な顔をしながら困惑している。
「美咲でいいのに、美咲って呼んで」
「………………み、美咲」
顔を真っ赤にしてハニカム鳴を見て美咲は、何て可愛いんだろうと。、鳴の色々な表情を見たいと思いながら、鳴と一緒に教室へと歩いていた。
無事に入学式を終えると、今日はそのまま下校となったので美咲は鳴と一緒に帰ろうと鳴を誘うと鳴はいいの? って顔をしている。
「勿論です。私は鳴ちゃんと帰りたいし、もっと鳴ちゃんを知りたいです」
自分に向けられた鳴の瞳に、美咲は敬語になってしまった。
鳴は嬉しそうに、ハニカミながらありがとうと言うので、美咲は不思議に感じた。
まだ正式にお友達になった訳ではないけど、クラスメートなら一緒に帰る事もあるのではないかと、美咲は別にお礼を言われる事なんてしてないのにと、疑問に思いながら鳴と一緒に教室を出た。
美咲の疑問はすぐに解決した。帰り道鳴が「私って歩くの遅いから、皆に気を使わせるから」と少し寂しそうな表情で言うのを聞いて、そう言う事ですかと、鳴の中学時代は知らないが美咲は思った。
多分鳴が周りに気を使って断っていたんだなと美咲は思いながら、学校中から奇異の目で変態として見られていた自分を思い出して、つい暗い顔になってしまう。
「美咲疲れた? 私に合わせてるから」
鳴に気を使わせてしまったと美咲は反省して、違うよとちょっと昔を思い出してねと笑顔を見せる。
何があったの? と聞かない鳴の優しさに感謝しながら美咲は明日から一緒に登校していい?とまた迷子になって遅刻したくないですと言うと、鳴は仕方ないなと優しく微笑む。
その微笑は、美少女らしい美しさと柔らかさを持っていて美咲の心臓はドキドキが止まらなかった。
どうして、こんなにドキドキするんだろう? 今日会ったばかりの鳴ちゃんにと、今までも可愛い女の子は見た事あるし、テレビでアイドルを見て可愛いなと思った事はあるが、ドキドキした事はなかった。
ドキドキしたのは、エロ動画で女の子同士がエッチしてる動画を観た時位で、その時のドキドキとは違うドキドキに美咲は困惑しながら、ありがとうとお礼を言っていた。
「美咲って、田舎から出て来たって言ってたけど親御さんの都合? 」
「違うよ。私、女子高に通いたくて、地元になかったからせっかくなら都会がいいなって」
自分がレズだとは、その事で嫌な思いをした事は伏せた。
もし鳴に自分はレズビアンですと、女の子と付き合いたくて、女の子とキスとかエッチしたいから、彼女が欲しいから、女子高に通う事にしましたと言ったら、鳴はどんな顔をするんだろうか?
今日出会ったばかりの鳴に話す事ではないし、これが鳴と出会って時間が経っていても、きっと話せなかったと思う。
美咲は自分でもわからないけど、鳴に嫌われたくないと感じていた。
「一人暮らしなの? 私と一緒だね」
「そうなの? でも鳴ちゃんって地元って言ってたよね」
詰まらない入学式の間に鳴から鳴は地元だと聞いていたので、まさか鳴が一人暮らしをしてるなんて思わなくて、美咲は驚いた顔をしてしまった。
「お父さんの転勤にお母さんが付いて行って、お母さんはフリーのデザイナーだから、何処でも仕事出来るし、あの二人って、いつまでもラブラブだから」
「そうなんだ。でも、心配しないの? その足の事もあるし」
「お母さんは心配してたけど、もう高校生だし子離れしてねって」
鳴は凄いんだな。足の事から逃げずに向き合って、努力しているんだよね。私は……女子高に通いたかったのは本音だが、それ以上に逃げ出したかった。
学校中の女の子に避けられて、男子からはキモイって言われて、近所の人からも可哀そうな目で見られて、母親には泣かれて認めて貰えなかったから、私がレズビアンだと知ってる人間の居ない場所に逃げたかった。
「鳴ちゃんは凄いね。私とは違って」
嫉妬だったのかはわからないけど、ちょっと皮肉めいた感じに凄いねと言ってしまった。言ってから、マズイと鳴の事を何も知らないのに、凄いなんて勝手な事を言ってしまったと後悔する。
美咲は、鳴を見れなかった。
たった数秒の沈黙なのに、美咲には永遠に感じられる程に長く感じられてしまう。
「そんな事ないし、知らない街で一人暮らししてる美咲の方が凄いって思うよ」
そう言って屈託なく笑う鳴に、美咲は救われた気持ちになって思わず泣きそうになってしまった。
その後は他愛無い会話をして別れた。
また明日ね。別れる時に鳴が言ってくれた言葉を思い出すと、美咲の心は温かくなって、優しさに包まれて、朝比奈鳴と言う美少女に出会えた奇跡に感謝したくなる。
神様なんて信じた事はないが、本当にいるのなら私はあんな辛い思いをしないで済んだ筈なのだからと、神も仏も信じていない美咲だが、今日だけは信じてもいいと感謝してもいいと、心から思った。
あの鳴ちゃんの事だから、料理も掃除も完璧にこなすんだろうなと、本当の鳴が生活能力皆無なのを知らない美咲は、勝手に想像して鳴ちゃんの料理食べたいなとか、お部屋に行ってみたいなとか考えながら、だらしない顔をしていた。
どっちが洗濯した下着だっけ?
帰宅した鳴は、制服を脱いで制服が行方不明にならない様にハンガーに掛けると、下着姿で思い切り悩んでいた。
洗濯は出来るのだが、その後が杜撰なのだ。乾燥を終えた洋服や下着をそのまま部屋に投げ捨てるし、一人だから誰にも見られないからと、部屋で全裸になってお風呂場に向かうのが常になっていた。
その為に、どっちが洗濯した下着なのかわからない。
洗濯する時は、面倒なので全部持っていく。
「多分こっちが、昨日脱いだブラだから、こっちが洗濯済みの筈で」
もうわからないので、こっち! と適当にブラとパンツを掴むとそのままお風呂場に直行した。
こんな鳴を見たら、美咲は鳴ちゃんのイメージがあああああ! と叫んで嘆き悲しむだろう。
シャワーを浴びながら、美咲って可愛いなとお友達になりたいって言ったらなってくれるかな?
小学生の時も中学生の時も、いじめられていた訳ではないし、むしろ周りのクラスメートは鳴とお友達になりたがっていたのを、鳴は知っていた。
知っていたけど、足の悪い自分じゃ、足の悪い自分がお友達になっても皆に気を使わせてしまうと、鳴は自ら周りと距離を置いていた。
本当はお友達が欲しかったのに、お友達と遊んだり買い物に行ったりしたかったのに、鳴は自分でその機会を潰していた。
「明日が楽しみ」
明日は美咲とどんな会話をしよう?
明日は美咲とお昼一緒に食べたいな。
そんな事を考えていたらのぼせてしまった。
夕食どうしよう?
料理の出来ない鳴のご飯は、基本店屋物かコンビニのお弁当かお弁当屋さんのお弁当である。そんな生活なので、近所のお弁当屋さんは網羅している。
今日は、二丁目のお弁当屋のから揚げ弁当にしようと、鳴は着替えると家を出た。
そんな鳴とは対照的に家事全般が得意な美咲は、近くのスーパーで食材を購入すると、家に帰って夕食の準備をしながら、隙間時間に掃除機をかけたりと手際よく家事をこなしていく。
美咲の見た目とは裏腹な家事能力である。
茶髪で、身長は平均的だがツルペタで、ツルペタは関係ないから! と美咲に怒られそうだが、敢えて言っておきます。
出来上がった夕食を食べながら、鳴ちゃんと一緒に食べたらきっと美味しいんだろうなと、一人の食事を初めて寂しいと感じた。
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