君と紡ぐ未来(あした)~百合恋は美少女と~
椿 セシル
第1話 プロローグ
もう本当に一人で大丈夫だからと、心配で泣きそうな母親に早くしないと遅れたら大変だよと、外で相変わらずなんだからと、苦笑いしている父親に母親を任せる。
「だって、鳴ちゃん生活能力皆無なんだもん」
確かに料理は出来ないし、掃除も苦手で洋服も下着すら、その変に脱ぎ捨ててしまっているので、否定は出来ないのだが、鳴は「本当に大丈夫だから! 」と無理矢理母親を引き剝がすと玄関を閉めて、本当にいつまでも子離れ出来ないんだからと溜息を吐く。
この春女子高に進学する事になったばかりの、朝比奈鳴は言われなくても自分が、恐ろしいレベルで生活能力が無い事は自分が一番わかってますからと、一人になったリビングで私、無事に生きていけるよね? と今更ながらに不安になってしまった。
都会は人が多いなぁ~と、この春女子高に進学する事になった夕凪美咲は、駅前に立ち並ぶ高層ビル群を、眺めながらこれで私にも彼女が出来ると、真性レズっ娘の美咲は高校は絶対に女子高に通うと心に決めていた。
決めていたのに地元には女子高なんて存在せずに、共学の高校すらなかった。だから高校からは、電車に乗って30分も掛かる隣町の高校に大半の生徒が通う事になる。
しかし隣町にも女子高はなかったので、美咲は母親の反対を押し切ってまで都会の女子高を受験したのだ。
正直美咲の成績では、合格出来るかは五分五分だった。だが、そこは可愛い彼女をゲットしたいと言う美咲の気合が勝った。
下から数えた方が早い順番だったのだが、それでも美咲は念願の女子高に合格して、この春からは女子高生である。
途中交番で道を聞きながら、地図アプリも使いながら何とかアパートに到着すると、すぐに引越屋さんが荷物を運んで来たので、結局美咲が新居でゆっくり出来たのはアパートに着いてから一時間後だった。
1ルームだが、お風呂とトイレは別であり入居者は女性に限るとなっていたので、父親もここなら安心だと言う事で借りてくれた部屋。家賃を見て都会ってお金掛かるのねやっぱりと美咲は思った。
窓を開けて空気を入れ替えながら、美咲はこれからの日々を考える。
別に地元に未練なんて全くなかった。
本当に何もない田舎だった。コンビニすら最近まで無かった。あるのは見渡す限りの田畑と山々であり、夏場には虫の鳴き声が煩い。
そんな田舎で、美咲は正直浮いていた。
髪は茶髪に染めていたし、いつも都会に憧れていて男子には興味がない。
クラスの女子が、何組の何々君かっこいいよねとか、彼氏が欲しいと話していても美咲は全く興味がないので「男の何処がいいの? あんなヤル事しか考えてないケダモノの」と答えて、クラスの女子から距離を置かれてしまった。
中には、男の子なんだからエッチでも仕方ないよと美咲と話してくれる稀有な存在もいたが、結局その娘も男の子が好きな訳で、レズで女の子が好きで、恋愛対象も経験はないがキスやセックスの対象も女の子と考えている自分とは、住む世界が違った。
数年前に同性婚が認められたが、大っぴらに同性と結婚しましたと言える人は少なかった。
本当に息苦しくて住みにくい、生きにくい世の中だと美咲は思っている。
女子高に通えば、女の子と付き合える確証なんてないし、もしかしたら今までと変わらないのかもしれないが、それでも一人や二人位は自分と同じ思いを持ってる女の子がいる筈だと、美咲はそう信じないと自分がおかしい女の子だと、自分で認める事になりそうで嫌だった。
「いいじゃん。レズでも……」
同級生が自分に向けた軽蔑の哀れみの瞳を思い出して、美咲はそう呟いていた。
夕凪さんってレズなの?
学校でなんて見なければいいのに、女の子同士がキスする画像を見て一人悦に入っていた時に、偶々美咲のスマホの画面が見えた女子生徒に言われて、答えに窮してしまった。
「もしかして、美咲ちゃんって、そっちの人なの? 」
考えた末に「そうだよ。私はレズだよ。何か文句でもあるの? 」と正直に言ってしまった。
レズビアンだとクラス中にバレた瞬間だった。
その日から、クラスのみならず学校中の女子から避けられた。
男子からは、あいつレズなんだってキモイよなと心無い事を言われた。
小さな田舎町。
両親にも、すぐにバレた。
父親は困惑した顔をしていて、母親はどうしてなの? と泣いていた。
「私が悪いのかよ! 仕方ないじゃん! ただ恋愛対象が女の子ってだけで、どうして皆して奇異の目を私に向けるんだよ! ママも! パパだって……どうして」
それでも美咲は学校に通った。不登校になったら負けた気がして、世の中の同性愛者の方々が避難されてる気がして、どうしてもそれだけは耐えられなかった。
「パパ、ママ、私女子高に行きたい。都会の、もう資料取り寄せてるから」
そう言って、取り寄せた資料を見せる。
「美咲の好きにしなさい」
「あなた、美咲ちゃんが同性愛者なの認めるの? 」
「そうだよ。例え美咲が同性愛者でも、娘には変わりないだろ」
口を噤んだママとは対照的にパパは、笑顔を見せる。
「最初は驚いたけど、恋愛は自由で人それぞれだもんな」
「ありがとうパパ」
私は認めませんからと言った顔で、ママは私を見ていたが、私はそんなママに「私はレズだから、レズとして生きるから」と伝えて、リビングを出た。ママの泣く声が聞こえたが、私はレズとしてしか生きて行けないと美咲が決意した瞬間だった。
「はぁ~ママは結局認めてくれなかったな」
合格した以上は好きにしたらいいと、ママはそれ以上は何も言わなかったけど、あの顔は絶対に納得してないし、認めていないよね。美咲は沈みそうになる気持ちを奮い立たせて、ご飯でも作りますかと、窓を閉めて夕食を作り始めた。
両親の仕事の都合で一人暮らしを始めた鳴。
自分の意志で地元とさよならして一人暮らしを始めた美咲。
そんな二人が出会うのは、一週間後である。
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