これが夢なら鮫て欲しい【短編】

遊佐 浮幽

1話という名の最終回

突然だが、鮫とはどういうものだと思う?


海に生息する肉食の魚で、手のひらに乗せれる小型のものから人を1度に複数丸呑みできる大型のものが存在している。


ギザギザの歯やザラザラとした肌、匂いに敏感であるなどの特徴がある。


あと、映画ではよく頭の数が増え、砂や空中を泳いでいる。‥‥‥これは鮫であって鮫じゃないか。


それと、俺の目の前でキャンバスに絵の具でマグロの絵を描いているコレは鮫ではないということでいいのだろうか。


「ふんふふーん♪お、いいねぇ。うまそうだ」


サッカーボールくらいの大きさの鮫(特徴的にたぶんホオジロザメがモチーフ)であるジェイクが絵筆とパレットを持って絵を描いている。ここでの俺の仕事はコイツの世話係だ。時給5000円とかいう怪しさしかない時給に釣られたらこれだ。ちなみに、1番初めの仕事はこの場所の清掃だ。掃除ではない。清掃である。初めは後悔したが、いまはなんとなくうまくやっていると辞めたい(ああ、思う)。


というか、ヒレでどうやって描いてんだよ。100歩譲って筆は持てる。だがパレットはどうやって持ってんだよ。‥‥‥待て、100歩は譲れない。俺が食われる。


「お、いつのまに来たんだ?どうだ?うまそうだよなぁ」


絶対この『うまそう』って『上手そう』じゃなくて『美味そう』だよな。いつのまにかマグロの解体図みたいになってるし。絵なんだから文字を書くなよ。


「美味そう、だよなぁ?」

「そう、だな。美味そうだ」

「だっろぉ〜。鯖とか鮭とか美味いけど、たまにはマグロも食ってみたいんだよなぁ。絶対に顎外れるけど」


丸ごといく前提なんだ。


「あ、あーあ、あー。絵を見たら腹減ってきたなぁ。お、もう昼じゃねぇか」


嫌だなぁ。時計を認識できる鮫って。


「なぁ、今日の昼メシってなんだぁ?」

「これだ」


バケツに入っているアジを1匹取って見せる。


「おー、アジじゃん。アジな真似をするねぇ」

「意味わかっていってる?」

「いんや?」


なんだよ。


「それじゃあ、ほれ」


ジェイクがこちらに背を向ける。俺はいつものようにジェイクの背びれを掴み仰向けにする。一瞬だけだがジェイクの目が赤くなったのでなるべく急ぐ。仰向けにしたその瞬間、目をいつもの海のように澄んだ青色から血のように赤にし、暴れ出した。


「アー!!アアー!!アー!!」

「どうどう」

「ヤムヤムヤムヤムヤムヤム。残念だったなぁ。今日は厄日みたいだ」


俺を喰おうと歯をガチガチ鳴らし、暴れる。腹が減るとコイツはたまにこうなる。いつこうなるかはコイツ自身もわからないためエサを食べさせるときはいつもこうしている。

自分が喰われない対処法は決して背びれを離さないように注意しながら自分の代わりとなるエサを食べさせることだ。失敗すると俺がエサになる。


「アー!!アアー!!アー!!」

「ほれ」

「ヤムヤムヤムヤムヤムヤム。うめぇ。うめぇ。やっぱアジだわな。おアジがいアー!!アアー!!」

「ほい」

「ヤムヤムヤムヤムヤムヤム。いやぁ、悪いねぇ。自分でも治そうとはしてるんだけどアアー!!」

「はい」

「ヤムヤムヤムヤムヤムヤム。本能には逆らえないってやつ?どうせ後で蘇生できるんだからって喰うのはさすがにアー!!ヤムヤムヤムヤムヤムヤム。悪いとは思ってんだよねぇ」


そういえば、前任の人と会話したな。聞き流してたけど「記憶には残るからなるべく食べられないようにね」って言われたな。「記録に残るから食べられないように」っていうのを聞き間違えたんだと思っていたんだが、そうでなかったらしい。


‥‥‥もしかして、初日は『喰われそうになった』んじゃなくて『喰われた』?いやいやいや、まさかそんなこと


「どした?」


考え事をしながらアジを喰わせていると、いつのまにかジェイクの目が青色に戻っていた。まだアジが残っていたこともあり、おとなしくなったジェイクに残りを喰わせる。

バケツが空になると腹を膨らませたジェイクが空中を仰向けに泳ぎながら歯磨きをしていた。


「げふぅ。喰った喰った。魚はいいねぇ。肉は不味いから魚の方がいいや」


‥‥‥気をつけよう。

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