フランチャイズだった地球

大隅 スミヲ

フランチャイズだった地球

 僕には、親戚からタカちゃんと呼ばれている叔父さんがいる。

 母の弟だというタカちゃんは、いまでも祖父の家に住んでいて結婚はしていない。歳は四十代だということは知っているが、詳しい年齢は知らなかった。


 最後に会ったのはいつだっただろうか。

 今年の正月に親戚一同が祖父の家に集まった時だったかもしれない。いや、あの時はタカちゃんは部屋に引きこもっていて出てこなかった。ということは、最後に会ったのはその前の年ということになる。


 親戚一同はタカちゃんのことを鼻つまみ者だと思っている。タカちゃんはミュージシャンになるといって高校を中退して東京に行ったのだが、三日もせずに帰ってきてしまったという経歴の持ち主だ。

 タカちゃんによれば、東京は恐ろしいところらしい。東京には修学旅行で行ったことがあったが、楽しいところという風にしか思えなかったが。

 親戚一同に嫌われているタカちゃんだけれど、母はその中でもタカちゃんに対してかなり強く当たっている気がする。子どもの頃からタカちゃんとは気が合わなかったそうだ。


 母には内緒だが、僕はどちらかといえばタカちゃんのことが好きだった。中学生の頃までは正月の集まりで暇そうにしている僕を見つけるとタカちゃんは手招きして、自分の部屋に呼びゲームをやらせてくれたり、漫画だったりアニメだったりを見せてくれたりした。不思議なことにタカちゃんとは話が合うのだ。


 今年の正月、タカちゃんは親戚一同の集まりに顔を出さなかったといったが、それには理由があることを僕は知っていた。去年の正月にその秘密を打ち明けられていたからだ。


「絶対にみんなには内緒だぞ」


 タカちゃんは僕に念押しのひと言をつけてから僕に語った。


「いま、地球がピンチなんだ。ニュースとかでSDGsとかよく耳にするだろ。地球環境をどうこうってやつ。もはや、そんなレベルじゃないんだよ」

「そうなの?」

「ああ。このままだと地球はヤバい」


 タカちゃんは怪談話でもするかのように声を潜めて、僕に言う。


「ヤバいってどんな感じ?」

「最近のニュースでアメリカが地球と似た惑星を探しているっていうのを見たことがないか?」

「あるよ。NASAが水のある惑星を探しているんでしょ」

「そう、それなんだよ。なんで地球と似た惑星を探しているかはわかるか?」

「え、そんなのわからないよ」

「これは、誰にも言うなよ。地球はフランチャイズなんだ」

「どういうこと?」

「フランチャイズはわかるよな?」

「わかるよ。コンビニとかファミレスみたいな感じのやつでしょ。本部が所有する商標や販売、経営のノウハウとかを加盟店に与えるかわりに、ロイヤリティを対価として加盟店が本部に支払うシステムだよね」

「お、おう……。詳しいな、お前」

「授業で習った」

「そ、そうなのか。まあ、いい。地球はフランチャイズなんだよ。だから、同じような惑星を探しては本部に報告して、本部がまた地球と同じような星を作っていくんだ」

「じゃあ、地球に似た惑星は沢山あるってことなの?」

「そうだ。フランチャイズだからな。お前は賢いな、よくそれに気づいた」

「タカちゃんは、このことをどうやって知ったの?」

「俺さ、大統領と友だちなんだよ」

「そうなの!?」

「ほら、これ見てみろよ」


 そういってタカちゃんはスマートフォンの画面を見せてくれた。

 そこには大統領のSNSが表示されており、フレンドというマークがついていた。


「すごいだろ。俺は大統領に頼まれて、地球のフランチャイズ候補の惑星を探しているんだ」


 それがタカちゃんと会った最後の日のやり取りだった。


 タカちゃんはいまでも自分の部屋に引きこもって、大統領に頼まれた地球のフランチャイズ先を探しているのだろう。


 地球から七〇光年離れた星で水が発見されたというニュースを見ながら、僕はそんなことを考えていた。

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