人影

 神殿内は神に祈りを捧げる厳かな雰囲気で満ちている。それは聖力の源でもある。


 聖力が満ちれば満ちるほど、国土を守る力になる。


 そうして聖力がたんまりある場所でならルンは無限に活動できる。


 今日もルンは神殿内を掃除して周る。

 遠巻きにルンを見つめる参拝者という光景に神官たちもだいぶ慣れてきてしまった。


 【体】の神官は神殿に人々が足を運ぶ一つのきっかけになったと喜び、ルンを褒めた。

 そうすることでもっと神殿をきれいに、そして目立ってもらおうという魂胆だったが、ルンにそれは通じない。


 アマルタだけは相変わらずルンに対し、母親のように接した。


 どんだけ日数がたってもその声は聴こえず、視透かすこともできない。

 五感の神官たちは代わる代わる自らの誇りを掛けてルンを知ろうとしたが、恐らくこの世界のどこにも同じような種がいないだろうということしかわからなかった。


 神殿にはたくさんの種が集う。

 聖女に傷を癒やしてもらいに来るもの、食を恵んでもらおうと来るもの、将来が不安になり生き方を示してもらおうと来るもの。様々である。

 その中に、柱の陰からルンを見つめる姿があった。


「見たことない子がいる~。いいなぁ」


 シャズは人でありながら、妖精パックに育てられた。

 黒く短い髪と光を通さないような漆黒の瞳は夜にたやすく溶け込む。しかし反対にその肌は異様なほどに白く、作り物めいていた。

 血の気のない唇も相まって、彼は石膏像のようであった。

 美しい、といって差し支えない。しかしその生い立ちからか人ならざる雰囲気に彼を見たものはたじろぐだろう。


「いいなぁ……いいなぁ。ほしいなぁ」


 幼児のような言葉で話し、指をくわえた。

 彼は自分の欲に正直過ぎた。


「見てみたいなぁ」

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ロボット掃除機奮闘記~彼は仕事を全うしたい~ 藤枝伊織 @fujieda106

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