掃除係
ルンは神殿の床を掃除して回った。
聖女から聖力をもらってからというもの充電切れを起こすことがなくなった。
ロボット掃除機という本来の使命を思えばそれは超人になったようなものだった。広い神殿では、高橋家のように家具に阻まれルンが動けなくなるようなことはない。またショコラちゃんのような敵もいない。
神殿は全ての種を受け入れる。
そのためやってくるのは人間だけではない。
ゴブリンやエルフ、ネフィリムのような人に似た種族からリンドヴルムやワイバーン、アクリスなど様々な種がやってくる。必ずしも神の信仰があるわけではない。ただけがをしたときに神殿へ向かえば聖女が癒やしてくれることを知っているためだ。
しかし、ルンに似た種というのはいなかった。
平べったい体に地を這う、という特徴だけを切り出せば、「グヌンニゥ」などが似ているだろう。彼らは三葉虫によく似た姿をしている。長い二本の触覚で意思疎通をする。
彼らのような者でも、【聴】の神官アンスンならばその声を聴くことが出来る。何かを考えそれを相手に伝えるという動作さえあれば。
ルンにはそれらは無い。
正体不明のルンは神殿のものたちを困らせた。
聖女にもわからない謎の"生き物"。
【視】の神官カロンは、自らが見通せないものに頭を抱えた。
何かの間違いではないかと、神殿内を掃除するルンをすれ違うたび凝視した。
アマルタの心配をよそに【体】の神官は一人ほくそ笑んだ。
「ほら、聖女よ。わたしの言ったとおり彼を掃除係にしてよかったでしょう。彼は我々が塵だと思っているものを好んで食べる種のようです」
アマルタはルンに聖力を注ぐことを日課にしていた。朝陽の光を浴び起きるとすでにルンは稼働している。彼はいつ寝ているのか心配でたまらない。
それに、彼は自分で排泄が出来ないのか、時々体内にたまった塵を取り出してやる必要があった。そのことを【体】の神官は知らない。アンスンやカロンには気づかれているかもしれないが、大勢はまだ知らないことだ。彼は排泄をしたくなると目が赤く光るらしい。腹のほうに指を滑らせると、カパッという音がして纏まった塵を排泄する。
その様子を見るにルンが本当に塵を食べる種なのか疑問があった。しかしほかのものを与えようとしても彼が食べる気配はない。
神殿のためにわざとそういう種を装っているのではないか。
掃除係として任命されてしまったがためにそうやって塵ばかり食べているのではないか。
ルンを見つめる聖女のまなざしに【体】の神官は気づかなかった。
日増しに神殿内はきれいになるが、ルンの不思議な姿は神殿内だけではなく街でも噂になり始め、神殿に赴く人が増えた。
神官たちは純粋に神の威光だと喜ぶが、もちろんそうでないことはわかっていた。
アマルタの懸念は深まるばかりだった。
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