第2話 快晴の夢
みんなのことは好きだ。だから誰とでも仲良くしていたくて、欲張ったのが悪かった。誰かひとりと一緒にいることに固執して依存してしまうのも怖かった。すると、大体の固定された枠のどこにも入れなくなってしまった。随分と中途半端だったのだ。誰からも嫌われてはいないだろうけれど、誰からも個人的に必要とはされない。周りを窺っていたら、一人余ったのは自分だったというオチだ。
昔はクラスの大体の人が嫌いだったから、好きだと思う人だけでよかった。慣れていないことをするもんじゃないな、と最近になって気づいた。
後悔はしてない……と言ったら大嘘だが、別に全く悪いことでもないのではないかと思ってもいる。少し楽になったから。
「こうなった過程はわかったけれど、結局どうしてあなたがそれに適応しようとしているのか理解できなかった」
そう話終わると、彼女は更に不可解だと言った。
「うーん、まあこの後行事と言ったら体育祭くらいしかないし、それは別に仲良しの概念が絶対必要じゃないなって思ったからいいかなって」
喋り疲れたので、腕を上げて伸びをした。
「そんなくだらない理由なの? 」
「そうだよ」
屋上の強い風を受けていると、なんとなく考えがまとまってきた。受験生でもあるのだし、人間関係なんかに時間を費やしている場合ではない。全く必要ないことでもないが、この状態なら別に構わないだろう。
「私必要ないじゃない! 」
もう、心配して損した!などと言うのだが、全く怒られる筋合いはない。
「……は?いやいや、勝手に出て来てそんなことを言われても……」
そこで、ふと思った。
「でも、あなたが聞いてくれたから、こうやって結論が落ち着いたのかも」
「そう?それならよかった……あなたを肯定してくれる人はいるんでしょ」
彼女が遠い目をした。きっと、私が想像できるものでもないだろうし、推し量る気はさらさらない。
「死んでわかることもあるんだよ」
ぼそっと独り言を呟くように言った彼女の顔は、見ない方がいいと思った。
「……それは後悔?それとも……」
「あなたみたいな割り切り。でも、それができなかった私は生き続けても上手くいかないかもね」
「上手く生きてる人なんていないでしょ。みんなもがいて生きてる……それが他人にはよく見えるだけ」
私が言いたかったことはこんなことじゃない。今まで人の気持ちを考えて喋ってこなかったのか、ここ三年喋ってから違うな、と思うことが多い。
「あーあ、人間関係というしがらみから逃れたあなたなら、もっと世界が綺麗に見えると思ったんだけど」
生きていれば嫌でも、誰かとの関係を持つ。良くも悪くも、人間とはそうでないと生きていけない生き物である。しかしそれによって視界にフィルターがかかる。
「確かに、全てがあの時よりも明るく見える……でも感動はできない。だって心臓がないもの」
「心臓……か。じゃあ、今のあなたの世界は明るいだけなんだ? 」
明るくて綺麗で、でもそれは芯まで響かない。
「あなたは……心臓のあるあなたには、この景色がどう映っているの? 」
立ち上がってフェンスに近寄り、街の景色を見渡す。車に家、学校、ビル……全てが小さい。そしてその上に広がる快晴。
なにが正しいのかはよくわからない。生きていればいいのか、死ぬのがいいのか、逃げていいのか、踏みとどまるべきなのか、立ち向かうべきなのか……誰かと一緒にいればいいのか、ひとりでいるべきなのか……こうでなければならないがないけれど、こうあってはいけないが多すぎる。もはや、固定概念があった方がよっぽど楽な気がしてくる。人の数だけ価値観があると言っていい。
「……誰かの幸せ……かな」
「幸せ……だといいね」
隣でそう答えた彼女の目にはきっと私と違う世界が広がっている。でも、同じにしなくていい。
「あなたは?あなたの幸せはどこにある? 」
誰かの、なんて言ったから。彼女はそう聞いたんだろう。自分のことを考えていなかった。
「私の幸せは……」
ピピピピピッ ピピッ ピピピッ……
音の鳴る方へ手を伸ばして音を消す。スマホを見ると、六時三十分。あと十分寝たい。
「夢、か……あ〜だる……」
おかしな夢だった。疲れるから夢は嫌いだ。しかしまあ、変なところで終わってしまった。仕方なしに起き上がる。
幸せなんて、他人が決めることじゃない。その人自身が、幸せか不幸か決める。私の幸せは……
「きっとここにある。当たり前すぎてわからなかっただけ」
あなたに映る景色は みあ @Mi__a_a_no_48
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