• 現代ドラマ

誕生日3


 二月十八日、スマホに表示される日付はそうなっていた。とはいっても深夜、この日付になったばかりだ。あーあ、またこの日になってしまった。SNSの通知には、おめでとうメッセージやメンションをして写真付きのお祝い投稿をしてくれている人もいる。リアルで祝ってくれる人はいないかもしれない。これだけ聞くとなんとなく寂しい人に見える。まあいいか、返信を明日の朝の自分に任せて眠りに落ちる。

 

 朝食を作りながら少しずつ返信をしていった。自分からの誕生日の投稿はケーキとかがあった方が映えるだろうし、そういう人が多いから適当に帰りに買ったのを撮ってからにしよう。雑誌の公式アカウントも祝ってくれていたので引用してお礼の言葉と共に投稿した。その後は、普段通りの朝食を食べ、休日なので制服にパーカーを羽織った。部屋を片付けてから学校へ向かうための車に乗る。

「お誕生日おめでとうございます、恵都さん」
「おはようこざいま……?え、ありがとうございます……」

いつも通りの挨拶かと思ったが違った。どうして知っているのだろうと不思議に思った。

「どうして知っているのか、と思ってらっしゃいますか?雑誌の公式ホームページに書いてあるじゃないですか」
「あ……そっか。ありがとう、石田さん」


 今日は日曜日だが部活がある。部室に近づいても、声が全く聞こえない。遅れたかな、とスマホを見て時間を確認したが、集合十五分前、普段と一緒だ。遅刻するわけではないが、みんな意識が高いのか、私は最後になることが多い。もしかしたらもう別の部屋に移動しているのかもしれない。仕方がない、ととりあえず扉を開ける。と……

 パァン!

破裂音がして思わず目を瞑った。何かひらひらしたものが腕にかかる。恐る恐る目を開けると、

『小野寺さん、お誕生日おめでとう!』
「へっ……? 」

なんと部員全員が、そう言っただけでなく、部室まで誕生日の飾り付けをして控えていたのだ。破裂音の正体は数人が持っていたクラッカーだったらしい。

「先輩!お誕生日おめでとうございます!はい、これつけて〜!こちらへどうぞ〜」

木野が首にかけてきたのは、飴やラムネが連なったお菓子のネックレスだった。それから椅子に背中を押されて座らせられた。

「これつけないか? 」「え!いいねそれ! 」

立花先生が持ってきたのはまた余計なもので、「本日の主役」襷である。

「なんで知ってるの? 」

そう聞くと、部長が何を言っているんだと言ってきた。

「プロフィール表、書いたでしょ?いつもあれ見てやってるの。みんなのやってて小野寺のだけ知らないわけないでしょ」
「あー、書いたね。懐かしいかも。いや、みんな誕生日近くなるとちゃんと言うからそれでだと思ってました」

お菓子のタワーと数字の風船の写真を撮り、フィルターをつけてプライベート用のSNSに投稿した。

「フォロワー部員しかいないのに投稿したんだ……小野寺さんほんとに友達いないんだね」
「充分でしょ。公開垢はフォロワー五万人いるし、しかもここにも瑛奈さんいるもん」

宮田君が余計なことを言うので少しムキになって反論した。友達がいないわけじゃない。

「彼氏には祝ってもらったか? 」

立花先生の言ったことがしばらく理解できなくてフリーズしてしまった。

「彼氏……諒太郎のこと? 」
「他に誰がいるんだ。まさか、お前も二股とかないだろうな? 」
「諒太郎じゃないし、そんなことしないよ。あと今日は会ってないし、そもそも知らないんじゃないかな」

最初から期待してなかったし、なくても多分がっかりはしないと思う。そもそもここまでが予想外すぎた。


 部活が終わって迎えの車に乗ると、石田さんがささやかですが…と言ってSNSで話題になっていたクッキー缶をくれた。

「わぁ〜かわいい。ありがとう」
「喜んでもらえてよかったです。……諒太郎さんにもお誕生日のこと言いましょうか? 」
「知らないなら知らないでいいよ。もともと期待してないしね」

今日は荷物も多いので一旦自分の部屋に戻って適当な服に着替えてから諒太郎の部屋に行くことにした。

「昼間部活だったんだ? 」
「昨日そう言ったじゃん。私もいつも暇なわけじゃないんだから」

彼はソファに座ってスマホの株を見ていた。隣に座り、それ面白いの?と聞く。

「別に。特に面白いことがないから見てるだけ。恵都にも買ってあげようか? 」
「え……いらない」

最近は百円からでもできるものもあると聞いたが、彼が言うのはそういう単位じゃないだろう。怖いし。

「じゃあなんか他に欲しいものある? 」
「……?なんで? 」

その言葉になにも心当たりがないし、欲しいもの特にない。

「誕生日でしょ? 」
「……!なんで知ってるの!? 」
「え〜内緒。それより、何欲しい?なんでもいいよ」

みんななんでそんなに知ってるんだろう。別に隠していたわけではないけれど、意外というか、想定外というのか。

「何それ。海外行きたいって言っても? 」
「うん。物だったらマンション一棟くらいは」
「え……じゃあ南極行きたいって言ったら? 」
「ちょっと時間はかかるだろうけど」
「できるんだ……いや行きたいわけじゃないよ。マンションもいらないし」

意味が分からなすぎて何も浮かばなくなった。金持ちの考えることはまるで分からない。スカートのポケットに入れてきた先程もらったチョコレートを食べながら少し昔のことを思い出す。

「………オムライスとショートケーキが食べたい」
「それだけ? 」
「うん。でなきゃ誕生日じゃない」

彼としてはそれだけでは気が済まなかったようで少し考えてから、いいこと思いついた、と衛藤さんに何か言っていた。

 ちょっと来て、と言われて着いていくと、車で少しの店に入り、着替えさせられた。それも、袖口までの白のサテン生地の上に同じく白のシフォン生地が袖から裾の方まで広がっている膝丈のドレス。シフォン生地は、袖口や裾の方へ徐々に赤紫の色がグラデーションになっていた。こんなものを着せて何をするんだろうか。
 諒太郎も諒太郎でそこそこちゃんとした服を着ていて、再び車に乗って着いたところは、高級ホテルのレストランだった。

何が何か分からず流されるがままに座る。しばらくすると料理が運ばれてくる。

「……オムライスだ…」
「食べたいって言ったじゃん? 」

そういうことだったのか。何も私はこんなところでとは思っていなかったのだが、それは彼なりのサプライズかもしれない。

「てことは、ショートケーキもあるの? 」
「あるよ。だってそう言ったからね。どう?俺からのプレゼント」
「うん……充分過ぎるよ。昔、私の誕生日はオムライスとショートケーキを食べてたんだよ。だから食べたかったの。叶えてくれてありがとね」

昔は、こんな高級レストランじゃなくて家だったけれど、それでも一番幸せな日だった。ちょっとした我儘が通る日。でもそれを嫌だと思われない日。ちょっと特別な日。

「じゃあ、これ毎年やる? 」
「いいの?……私の特別な日を特別にしてくれる? 」

半分冗談で言ったつもりだったのだろう。少し驚かれたが、もちろん、と返された。

そう、今日は私が一番愛される日。





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 諸事情により大幅に遅れました。オチをどうしようか最後まで迷いますし、そもそもどういう話にしようかも随分迷いました。自己肯定感が高めな子だけど、事件以来、人との関わりを避けているのでこういう感じになったと思います……
どうでしたでしょうか……?

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