第45話 老ドラゴンが言うことには

「よいか。両手でしっかり握っておるんじゃぞ。絶対に離すでないぞ」

「いやっ、ちょっ、怖いんですけど。痛いことするんじゃないですよね?!」

「やかましいっ。まずはスライムじゃ。ほれ。こやつに力を流し込んでやれ」


 キュウは「はいでしゅ」と言うと、俺の肩に乗っかった。


 キュウに話しかけようしたら、キュウの体から何かが、ぶわんと俺に流れ込んできた。

 細胞レベルで揺らされている!



「ぎゃあーーっ!! し、痺れるー!」

「キュウッ! よしつねー。痛いでしゅか?」


 キュウは悪くないよ。悪いのは全部、シモーネさんだから!


「ほう。一つ外れたようじゃな。よし。ほれ。ドラゴンよ。次はお主じゃ」

「はい」


 タツが鉤爪をそうっと俺の方に伸ばしてきた。


 え? 無理無理無理無理無理―。無理だってー!!

 キュウでこれだけきたってことは、タツだと――。


「や、やめて。やめてー!! 魔獣の化け物じみた力を人間に――うぎゃーーっ!!」


 タツは俺の悲鳴を聞いて「きゃっ」と言いながら鉤爪を離した。


「ぅあっつい! 熱いーーっ! 焼けるー! 焼けてるー!!」


 シモーネさんは俺に目もくれずに、檻を触って何かを確認している。


「うーんダメか。二つ目は少し複雑じゃな。となると次は……」


 何がダメだったのか分からないけど、檻は、熱せられた鉄のように赤みを帯びている。

 何? 普通に鉄なの? 確か鉄って、千度とかで溶けるんじゃなかった?


 ここまで赤くなってるってことは……。よ、よくも、よくも……。



「お主の体は面白いのー。契約魔獣とはいえ、ここまで増幅するとは信じられん。よし、もう面倒じゃ。ワシの力も足して全部をぶつけてみるとしよう」


 シモーネさんはいいことを思いついたと嬉しそうだ。


「よし。では力押しで破るぞ。魔術の方はワシに任せろ。お前たちは魔力を流し込むんじゃ。スライム、ドラゴン。もう一度じゃ。いくぞ。せーのっ!」

「うぎゃーーーー!!」





 多分、俺は失神したんだ。背中に固い地面を感じているし。


 人間というのは、耐えられる痛みの上限があるはず。一定のラインを超えたら「失神」というセーフ装置が働くようにできているはず。



 ああそれなのに……。

 俺の目には景色が映っている。

 こっちの世界の空も青いんだよなー。

 

 バカだな俺は。失神した時には目を閉じなくっちゃ。

 じゃないと――そうそう。こんな風に俺の顔と同じくらいの大きな目で見られちゃう。


 ……。

 ……。


 金色の瞳がギョロリと動いた。


「ひいーー!」


 驚きによる脊髄反射なのか、俺は無意識に上半身をほぼ直角に起こした。



「ええいっ。うるさい奴じゃ。いちいち大声を出すでない!」


 シモーネさんはそう言うと、「ふん」とタツに向かって顎で合図した。

 タツはそれだけで俺を連れて来いと言われたことが分かったようで、あむっと俺の襟元をくわえて引っ張った。





 シワシワの老ドラゴンを前に、俺とシモーネさんとキュウとタツが並んで座っている。


「助かった。礼を言う」


 老ドラゴンの頭は、マンションの三階くらいの高さにあった。

 でっか。



「お主はどれとでも繋がるようじゃ。ふむ。試してみるか」


 何を。もうイヤ。何も試したくない。


 シモーネさんは、老ドラゴンの体の大きさに感心したように全身を眺めていたが、不意に俺の方を向いて言った。


「老いたレッドドラゴンじゃ。ふむ。魔力と体力のポーションを――そうじゃな、五十本ずつ出すのじゃ」

「……持ってません」


「……」

「……」


「嘘をつくなっ!」

「……う」


 どうしてこう、俺は弱いんだろう。

 圧に負けてコピペしてしまう俺。


「スライムよ。お前、手は何本出せるんじゃ?」

「キュウはいっぱい出せるでしゅ」


 うへっ。

 キュウは本当に、うにゅうにゅと、全身から手を出した。二十本、いや三十本くらい?


「おお、よいぞ。じゃ、まずはそやつの口を開けて、そのまま押さえておれ。残りの手で体力ポーションを流し込むんじゃ。魔力ポーションはワシが入れる」


 ……は?


「その方。檻から出て、今はかろうじて座っておるようじゃな。魔力も体力も底をつきかけておる。こやつから奪い取ってみろ。ほら、こやつに触って力を探ってみるんじゃ」

「人間の魔力と体力を……?」

「そうじゃ。まあ、ものは試しじゃ。ほら」

「で、では」


 あっはーん!


 老ドラゴンに触られた途端、アプリダウンロード時の比じゃないくらい、一気に力を抜かれた。

 もう、ぶわんとか、ぐいんとかのレベルじゃない。

 マジで、体力というか精力を根こそぎ持っていかれた。

 

 俺……死んじゃうんじゃない?



「ほれスライム! 急げ! お前の主人が死んでしまうぞ」

「キュウ!」


 あー。今度こそ本当に失神する。



「げほっ」


 口の中に大量に液体が流し込まれた。

 キュウが俺の口を強引に開けさせているせいで、流し込まれるポーションを満足に飲み込むことが出来ない。


 あれ? 今、俺、溺れてない?

 ……あ。死ぬ。もう死ぬ。死ぬー。





 どれくらい続いたんだろう。

 老ドラゴンの体力回復マシーンにされた俺。



「ほれ。目を覚ますのじゃ」


 シモーネさんの声――。


「情けないのう。これしきのことで白目をむいて倒れるとは」


 はあん!



「では話を聞こうかの」


 嘘でしょう。俺は? 俺のケアはなしですかー!


「十日ほど前になるか。魔術師どもが大勢で押しかけて来たのだ」


 話しだすんかーい!


「この山は年々力を失い続けている。見ての通り、溶岩の出も悪いのだ。そのせいで、ほとんどのものは遠くへ旅立ってしまった。今では我が家族が残るのみ――」


 老ドラゴンの話を要約するとこうだ。


 数年ぶりに卵が――それも普通は一個のところ二個も生まれて喜んでいたところを、得体の知れない魔術師軍団に襲われた。

 親である二匹が応戦したものの追い払えず、老ドラゴンも何かの術をかけられ、一瞬目がくらんだと思ったら、もう檻に閉じ込められていたそうな。

 ちなみに応戦した一匹は命を落とし卵を奪われ、もう一匹は卵を抱いて逃げたらしい。



 まさかの「卵を抱えて移動していた説」が正解だったんだ。

 命からがら逃げてきて、あの森なら大丈夫とふんで卵を置いたのか、それとも飛んでる時に落としたのかは分からないけど。



「魔術師どもは卵を奪って去った。おそらく、その人間同様に契約魔獣にして意のままに操るつもりなのだろう」


 え? いやいやいやいやいやいや。

 タツ、俺は違うからね。そんな、操るだなんて……。



「たっちゃんに兄弟がいたんでしゅね」


「ぼくに兄弟が……。うわーん。うわーん」


 タツの鳴き声って、なんか遠吠えみたい……。

 何かが呼び寄せられそうで怖いんですけど。


<俺のステータス>

Lv:25

魔力:75,960/75,960

体力:19,950/22,600

属性:

スキル:虫眼鏡アイコン

アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、ユニーク、武将の湯、一休み、無地、洗濯屋、魔力ポーション(2)、体力ポーション(14)、72,102ギッフェ

装備品:短剣

契約魔獣:スライム、レッドドラゴン

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