第2話 アプリゲット
目を開けると、仰向けに寝ていた。
あ、死んだ――と思って目を開けるのは、これで二回目だ。
「気づかれましたか。ああ、よかった」
……誰?
「大丈夫ですか救世主様。召喚に体力を持っていかれたのでしょうか。賢者様も我らに一言くらい教えてくださってもいいものを」
ああー。思い出した。部屋に案内してくれた兵士の人たちだ。
――ってことは、俺はまだ異世界にいる訳ね。
ふー。絶賛転移継続中。
あ。そういえば、体力を持っていかれたせいで倒れたとか言ってたね。
「あのー。皆さんから見ても、俺の体力って少ないですか?」
二人とも目をぱちくりとさせている。そんなに変なこと言った?
「我らには他人のステータスを見ることはできません。見られるのは賢者様や特殊なスキルの持ち主だけなのです」
そうなのか。ええと、じゃあ。
「ステータスオープン」
Lv:1
魔力:3/100
体力:80/100
属性:
スキル:虫眼鏡アイコン
アイテム:ゴミ箱、デリバリー館
げっ! 魔力が3だ。体力は80。どういうこと?
「あの。魔力が100あって、どうやら今は残り3で、体力の方も100ある中の80なんですけど」
二人は、なんだ、そういうことか、と納得している。
髪の短い方の兵士が教えてくれた。
「おそらく、救世主様は転移のために魔力をほとんど使われてしまったのでしょう。急激な魔力消費時は、体力も一緒に奪われるのです。一晩眠れば、魔力も体力もほんのわずかですが、それこそ二か三くらいは回復するのです。救世主様も、丸一日眠っておられたので、わずかに回復されているのだと思います」
「え? そういうものなんですか? ちなみに、魔力が0になるとどうなるのです?」
「それは本来であれば、かなり危険な状態です。魔力に相当する分を体力が補おうと消費されてしまうので――どれだけ消費しようと魔力の代わりにはならないのですが。魔力使用時に魔力が0になってしまうと、体力も底をつくことがあるのです」
え? ヤバくない? 俺、ギリ、助かったっぽいんだけど。
この人たちは召喚に魔力を使ったって思っているけど。違うよね。頭がぐわんぐわん回ったのって、アプリのダウンロード中だったよね。
ってことは、アプリのダウンロードに魔力が必要なんだ。
ステータス画面をよく見てみると、アイテムのところに、「ゴミ箱、デリバリー館」とある。
「うおおおっ! 追加されてる! お? おほん」
……恥ず。大声を出してしまった。二人が引いている。
でもアプリ一個で生死の境をさまようかもって、リスク高すぎだろ。
そもそも、ダウンロードに必要な魔力って、どういう決まりがあるんだ? アプリ内の平均購買単価に比例とか?
もしそうなら、いきなり大型ショッピングサイトのアプリをダウンロードしていたら、多分、俺、死んでたな。あぶなっ!
「あ、あの、救世主様――」
「あー。それなんですけど。その呼び方はちょっと――。救世主じゃなかったみたいだし」
「そう申されましても……」
ああ、困っているな。困らせるつもりはないんだけど。
「義経って言います」
「は?」
「よ、し、つ、ね、です。俺の名前。よしつね」
「は、はい。よしつね様ですね」
うーん。様って付けられるのは――ま、いっか。
「はい。そう呼んでください。ちなみにお二人は?」
「私はアドルフです」
髪の短い方の兵士がそう答えて、長髪を後ろで一つに縛っている兵士を、「こいつはテオドールです」と紹介した。
短髪のアドルフは青色の髪で、長髪のテオドールは赤い髪。二人とも整った顔立ちのイケメンだ。
髪の毛がカラフルなのは異世界あるあるか。ちなみに二人とも髪の色と瞳の色が同じ。うーん。こっちの世界じゃ、それが普通なのかな?
「よしつね様。それでは今度こそ隊長を呼んできますので、少々お待ちください」
アドルフがそれだけ言うと、テオドールと一緒に部屋を出ていってしまった。
今度こそ? ああそっか。俺がぶっ倒れてなきゃ、昨日会うはずだったんだよね。
バタバタバタと小走りのような足音が近づいてきた。
勢いよくドアが開くと、格闘家のような大男が入ってきた。ムンと力を入れたら制服が破れそうなほど筋肉隆々。
「お目覚めですか。救世主様!」
「隊長。よしつね様です。よしつね様」
アドルフが耳打ちしているが、丸聞こえだよ。
「おお、そうだった。よしつね様。この度は我が国へようこそお越しくださいました。魔力を消費尽くされてしまったとか。とりあえずこれをお飲みください」
そう言って隊長は小瓶を差し出した。
「魔力ポーションです。魔力50分相当ですが、当面は問題ないかと」
おっほ! ポーション! なんか上がる!
「それではお言葉に甘えて」
アンプルをクイッと飲み干すのと似ている。
あー効くー。沁みるー。
すぐに体がほかほかしてきた。むむむ。
「ステータスオープン」
見れば、魔力が58になっていた。やったー。
「無事に回復されたようですな。ええー。それとですな……」
大男が口ごもっている。そんなに言いにくいこと?
「賢者様が国王陛下と相談されまして、その……。よしつね様にはレベル的に賢者様をお支えするのは難しいだろうということで。その……。ああ、お部屋はこのままここをお使いいただいて構わないのですが。必要な物も我らで用意しますが。その……。できれば、宮殿の使用人としてお力添えをいただければと……」
ああそうだったね。あの青ローブがそんなことを言ってたっけ。俺は下げ渡されたんだった。
使用人か。異世界に召喚されたら、ウハウハで暮らせるのが、あるあるだと思ってたんだけど。
ああ、それに。前世では、もう一生分働いた気がするんだけど。
昭和の最後に生まれた三十四歳。月間八十時間を超える残業続きだったから、体感だと三十年以上働いた気がするんだよね。
俺が軽く目を閉じて前世の労働環境に思いを馳せていたせいで、兵士の皆さんには、不満げに映ったらしい。
「いや、その。すぐという訳ではありません。もちろんです。まずは体調を万全にしていただきませんと。それからおいおいということで」
「……はあ」
断れないよね。だって帰れないんだもん。ここじゃ、皆さんのご好意にすがらないと、生きていけそうにないしね。
でも使用人って何をするんだろ? 召し使いか? ああいやだ。我が儘なご主人様に当たったら、ストレス半端なさそう。
もう子どもみたいに、思いっきり両手両足をバタバタさせて、イヤイヤをしたい。
「あの、それと。わずかですが、こちらを」
隊長が、ガチャリと音をさせて布袋をテーブルに置いた。
これは迷惑料的なお金かな。
「一万ギッフェです」
うーん。分からん。
「ええと。アドルフさんは毎月いくらもらっているのですか?」
突然名前を呼ばれて驚きながらも、「私はまだ二年目なので五百ギッフェです」と、教えてくれた。
ふーん。二年目。ってことは、ほとんど初任給に近い金額ってことね。その二年分弱か。それって、なんか少なくない?
ま、いっか。二年あったらゆっくり考えられるか。それに手取りの三割を占めていた家賃はただみたいだし。
「じゃあ。今日はこのままゆっくり休ませてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんです。どうぞどうぞ」
「あ、それから。アドルフさんやテオドールさんには、色々と教えていただきたいのですが。この先もお二人にお時間を取っていただけますか?」
「そんなことならお安いご用です。この私が保証します。こいつらでよかったら、好きなだけ使ってやってください!」
隊長はそう言って、バンッと二人の背中を叩いた。
二人は顔を引き攣らせたように見えるけど、「うわっ面倒くさっ」とか、思っていないよね?
Lv:1
魔力:58/100
体力:80/100
属性:
スキル:虫眼鏡アイコン
アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、10,000ギッフェ
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