第16話 防具屋へ直行
森を出る前に、キュウをもう少し小さくして、上着のポケットに入れた。
卵はかなり目立つので、仕方なく老婆から借りた風呂敷のような布で包むことにした。
布を俺に渡す時の老婆のニヤけた顔が怖かった。絶対に何倍ものお返しを要求してくるに違いない。くーっ。
しばらく歩くと、普通に街に出た。
てっきり国境の外の森かと思っていたら、アドルフたちと最初にレベル上げした森だった。
「ほれ。あそこじゃ。この街一番の防具屋じゃ」
そうなのだ。
俺はあのトリケラトプスとの戦いで、嫌というほど思い知ったんだ。
命を削られる恐怖を!
だから卵がどうとかよりも、まず防具! 防御力を上げておきたい!
老婆によると、卵を持ち運ぶ道具には、皮袋だったり木箱だったり、いくつか種類があるらしく、武器屋でも道具屋でも扱いはあるとのことだった。
防具屋でも売っていると聞いたので、迷わず防具屋に来たという訳だ。
「こんにちはー」
なんだか愛想笑いをして店に入るというのが癖になっている。
「いらっしゃいませ。おや。今日はご用聞きの日とは違いますが、どのようなご用で?」
ん? ああそうか。俺のこの格好か。宮殿の用事と思われてるんだな。そっか。前まではアドルフがアテンドしてくれていたもんね。
「ええと。今日はお休みなので、個人的な用で来ました」
「さようでございますか」
うん? なんだろ。心なしか冷たくない?
ま、いっか。
とにかく欲しいものを手に入れよう。
「ええと。この服の下に着られる薄手のもので、一番防御力の高いものをください」
「は?」
いやいや。聞こえたでしょ。
なぜお前ごときが――って顔に出しちゃ、商売人失格ですよ。
もう、お金見せちゃおうかな。なんかダサいけど。
「キュ」
あ、と思った時にはもう、キュウがポケットから、うにょんと出ていた。
「ひ、ひい」
「あ。すみません」
こういうのは主人の躾がなっていないってことですよね。
「こら。キュウ。戻りなさい」
「キュウウウ」
……お前。もしかして、俺が軽く扱われていることが分かったの?
「そ、それは。あの、契約されているのですね。し、失礼しました。まさか宮殿で働かれている方が魔獣と契約されるとは――ああ、いいえ。すぐにお持ちします」
「やれやれ。スライムに助けてもらったのか。情けないのう」
それより、今の反応はどういうことだろう。
「アドルフたちは魔物を討伐してレベルを上げるのは普通だって言っていたのに。それならいろんなスキルを持っていて当然だし、魔獣と契約していることだってありますよね? 何をあんなに驚いているんでしょう?」
「お主はバカなのか。兵士ならいざ知らず、宮殿の使用人が魔物を討伐するはずがないじゃろ。その服は洗濯や掃除といった下働きの者が着るものじゃ。それに、魔獣と契約できるほどの者など、そうそうおらぬわ。先代の勇者とか、大賢者とかな」
「へ? えええっ?! いや、でもスライムだし。普通、スライムって激弱な――あわわわ」
ポケットの中でキュウが怒って大きくなった気がして、スライムを悪く言うのをやめた。キュウは本当に頭がいいなあ。
「魔獣には変わらんわ。契約できること自体が特別なんじゃ」
――よしつね様は特別なのです。
ああ、アドルフの言葉が脳内で再生される。俺は特別。やっぱり特別。ぐふふふ。なんかちょっと嬉しい。
バシッ。
「気持ち悪い顔で笑うな」
老婆の枝がしなった。
なぜ? 別によくない? 迷惑かけてないのに。もうー。
「お待たせいたしました。こちらが当店の売れ筋になります。皮の胸当てと膝当てです」
おいおい。店主さんよー。どう見たって、それ、安物じゃない?
「売れ筋じゃなくて、最高の品が欲しいんです」
店主は、かろうじて、「え?」って言うのを飲み込んだ。
「最高の品とは、最高級品ということでしょうか?」
そうだっつーの。
俺がうんうんと大きくうなずくと、なんとも言えない複雑な表情をしながら、店主はもう一度店の奥へと消えた。
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