第33話 宿なしでも大丈夫。高級ホテルに泊まろう
うげっ。魔力激減。
もしかして――。キュウのレベルがどんどん上がってったら、俺の魔力なんかじゃ足りなくなるんじゃない?
ってか、気軽に分け与えたりするのは危険かも……。
「キュウ……」
わー。キュウ。違う。違う。違うよ。そんな泣きそうな顔しないでー。
「シモーネ様。キュウと意思の疎通ができるのは嬉しいんですけど、何でもかんでも伝わるのはちょっと。話したい時だけ話すようにはできないものですかね?」
「バカかお主は。そんなのはお主の匙加減一つじゃ。お主、自分が主人であることを忘れとらんか?」
あっはーん。そうなの?
じゃ、俺が、「バーリア!」とかって壁を作っておけば、キュウには伝わらないの?
うーん? やり方は分からないけど、じゃ、キュウ。俺がうじうじ考えていることは知らなくていいからね。俺が話しかけた時だけ返事してくれたらいいからね。
どうだ? できるか?
――と、心の中で問いかけてみる。
「はいでしゅ。キュウはできるでしゅ」
「そうか! よっし。キュウは本当にいい子だなー」
これで一つ解決っと。
おっと。それよりも忘れないうちに魔力を回復しておこう。
今度はいくつ飲めばいいんだ?
あーもう。計算が面倒くさい。5,000ぽっちじゃ足りなくなったな。
AIアプリとかあったらいいのに。
「魔力を満タンにして」って言ったら、自動でコピペしてくれて、俺がポーションを飲まなくても、そのまま体内に取り込んでくれるような。
ま、そんなのはないだろうから。えーと。九本で45,000分飲めばいいのか。
ほいよ。倍の倍で十二本。
九本を一気に飲むのは、なかなか面倒くさい。というか、しんどい。でも仕方がない。
よっし。これで、「一休み」がダウンロードできる!
失った宮殿の部屋なんて目じゃないくらい豪華な部屋に泊まれるぞー! おー!!
うっひっひっ。
「ステータスオープン!」
検索バーに打ち込むと――出てきた!
「よっし! ではでは。それっ」
ポチッとタップした途端、ぐいんと揺さぶられる感覚に襲われた。
あー。きてる。きてる。
この「ぐいん」ってやつは、魔力量と余力の少なさに比例するみたい。
でも大丈夫。頭痛とかそういうのは残らなかった。
どれどれ。
あったー! 出たー!
どうしよう。もう今から使っちゃう?
いやいやいやいや。落ち着け、俺。
このスーパー銭湯が営業時間内しか利用できないってことは、ホテルや旅館もチェックインからチェックアウトまでしか利用できないんじゃないかな。
だから、日中はこの「武将の湯」で、寝る時に「一休み」を使えば、もうなーんの心配もいらない。
死ぬまで、食っちゃ寝の生活が送れるー! ふーっ! やったー!
落ち着け。とにかく落ち着け。
まずやることは、魔力の回復。忘れないうちにね。
7,960まで減っちゃったから、今度は十本じゃ足りないな。えーと――十四本か。
ふう。はいはい。三本残ってるから、倍の倍の倍で二十四本。
十四本はマジでしんどい。
一気に飲まなくてもいっか。ちょっとずつ飲もう。
体力の方は今度にしよう。
バシン!
油断しているところに打ち込まれると、痛みが増す気がする。
「シモーネ様。もう何ですか? 言いたいことがあるなら、俺の名前を呼んでくださいよ」
「ふん。それよりいつまでここにおる気じゃ。飯は食ったじゃろうが」
「え?」
もしかして、「ここを出て行こう」って言ってます?
「日のあるうちに進まんでどうする!」
「ええとですね。もう行かなくてもいいかなって思ってるんですけど」
「はあん!」
いやいや。どうしてそこまでお怒りに?
「あ、シモーネ様が行きたいならいったん馬車に戻りますので、どうぞご自由に。俺たちはもう用がないので」
「なんじゃと!」
あの、シモーネ様のことを用無しって言ったんじゃなくて、隣国に用が無いって言いたかったんですけど。
「俺とキュウは危なっかしいところにいるのは嫌なので、こういう安全なところに閉じこもろうかと」
「自分から幽閉されるやつなんぞ聞いたことがないぞ。そこまでお主はバカじゃったのか。一生閉じこもっておるつもりか?」
一生? ……一生。うーん。いや、何も一生ここから出て行かないとかじゃないですよ。
さすがにこことか旅館とかでも、ずーっと部屋の中にいたら、さすがに飽きるし、なんていうか、うーん。
「一生出て行かないとは言ってませんよ」
バシン! バシン!
「生意気を言うな!」
なんで叩くんです? 口で言えば済むでしょ!
「キュウは行ってみたいでしゅ。お店に行きたいでしゅ」
……あ!
あれか、鉄を食べたいのか。キュウにとっては大事なことなのかな。
「分かったよキュウ。じゃあ、行ってみようか」
「分かったのなら早く戻るんじゃ」
「はい」
ん? えーと。どうやって戻るんでしょう? 俺、この前は強制退去だったんだよね。
普通に施設を出ていけばいいのかな。
「じゃあ、シモーネ様ついてきてください」
とりあえず受付のあったエントランスから出てみよう。
キュウを抱っこして、俺の太ももに抱きついているシモーネさんと一緒にエントランスの自動ドアの前に立つと、ウイーンとドアが開いた。
ドアが開いたと思ったら、馬車の側に立っていた。
「ほう。こりゃ面白いの」
シモーネさんも感心しているけど、なるほど。そういうことね。営業時間内なら出たり入ったりできるってことね。
「ほれ。フードをかぶって荷台に乗るんじゃ。人に見られんようにな」
シモーネさんはそれだけ言うと、御者台に座った。
「よしつね。キュウもフード欲しいでしゅ。よしつねと一緒に乗るでしゅ」
「キュウ! ああそうだな。一緒に乗りたいな。うーん。ユニークのキッズ向けで、なんかいいのあるかも」
「バカかお主は! さっさと鞄でもポケットでもいいからスライムをしまって乗るんじゃ!」
「はいはい」
シモーネさんはうるさいでしゅねー。ねー?
「何か言ったか?」
おっほ! 絶対に聞こえていないはずだし、顔も見ていないのに!
「い、いいえ。乗ります。はい。乗ります!」
今って何時くらいなんだろう。武将の湯を出る前に時計を見ておくんだった。
昼過ぎに門を出て、遅めの昼ごはんを食べて――ええと、三時くらいかな。いや四時かも。
チェックインって四時くらいからだっけ? 三時のところもあったっけ?
でもま。シモーネさんの気の済むまで馬車で進まないと降ろしてくれそうにないし。
しばらく我慢かな。それまでは荷台でチビチビ、ポーションを飲んでおこう。
多分、二時間くらいは経ったと思う。尻の痛みと日差しの陰り具合でそう思った。
シモーネさんが馬車を止めた。
「今日はこの辺までじゃな。お主、先程のところで寝るつもりじゃったな」
ふっふー。ちっちっちっ。
「もっといいところにご案内しますよ」
「はん?」
「よしつねー。どこでしゅか?」
「ふっかふかの床に清潔なお布団があるところだよ」
「楽しみでしゅー。早く行きたいでしゅ! キュウ!」
俺も!
「ステータスオープン!」
さあ。いよいよ使う時がきましたよ。一休み! いざっ!
「へえ。やっぱりトップ画面はそのままなんだ。ビジネスホテルくらいしか使ったことないけど、ここじゃ五つ星ホテルでも老舗旅館でも使いたい放題だからなー。ふっふー」
どうしよう。何て検索しよう。最高級ホテルってどこだ?
いや。やっぱ畳の方がいいかな? 旅館か? 旅館の方が分かんないな。有名な旅館とか知らないし。
とりあえず。東京で、高い順にソート。
「ひいっ」
「どうしたんじゃ! 行けなくなったのか?」
「ちが――違います。なんかすごいことに」
388,000円! 一泊で?! 室料のみなのに?!
なんだこのゴージャスな部屋は。写真が豪華すぎて怖い。現実世界なら絶対に近寄れない。
でも――今は違う。
マナーなんか知らなくったって誰にも笑われないんだから、行くしかないでしょう!
「シモーネさん。行きますよ」
「お? おう」
ポチッ。
押した瞬間、目の前の光景が変わった。
「うわあっ」
ぎゃー。すごいー! 凄すぎるー! こっわ! マジでこっわ!
「よしつねー。滑るでしゅー。キュッキュウ!!」
俺とシモーネさんが呆然と立ち尽くしているのに、キュウはツルツルの床を楽しんでいた。
<俺のステータス>
Lv:25
魔力:75,960/75,960
体力:21,980/22,600
属性:
スキル:虫眼鏡アイコン
アイテム:ゴミ箱、デリバリー館、ウィークリー+、ポケット漫画、緑マンガ、これでもかコミック、ユニーク、武将の湯、一休み、魔力ポーション(10)、体力ポーション(4)、72,102ギッフェ
装備品:短剣
契約魔獣:スライム
<キュウのステータス>
Lv:28
魔力:47,560/47,560
体力:1,090/1,090
属性:水
スキル:感知、水球、氷刃、水結界、???
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